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第29話「荒ぶる嵐」


中央都市アンファング、廃墟と化した住宅街の中にひっそりと存在する小さな安宿。


四魔将はそこをフィラトルに於ける活動拠点としていた。


『ター…………ト確、認。敵、が……イマ…アーに戻って来…………る前に…あ……デカブツを回………す……ッ』


「レジスタンスはリーズィヒ級の回収をしにいくみたいだぜ、大将」


途切れ途切れに伝わるハウンド・ソード側の傍受した無線内容を、バアルはテーブルに腰掛けるシュトレッケバインへと伝える。


「予想通りだ。いや、寧ろ遅かったくらいだ」

「俺達はどうする?」

「命令する前にリャナンシーが出た。私達が出る必要はない」

「ちっ、あのアマ……。また独断先行か」


淡々と返すシュトレッケバインにバアルは苛立ちから舌打ちを漏らす。

前回もそうだが、あの女は足並みを合わせる気が無ければ、あまりこちらに協力するつもりもない。

あくまで、自分の欲望に忠実に動いている。それが気に入らない。


それが伝わってるのだろう、シュトレッケバインは無機質な仮面()をバアルに向ける。


「放っておけ。いずれにせよ結果がどうなろうと()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それに…………」

「……なんだよ?」

「お前はやり過ぎる。早く戦いたいというのは分かるが、今回に関してはリャナンシーかバルバトスの方が適任だ。出撃の許可は出せん」

「俺が戦う機会はちゃんと用意してくれんだろうな?」


そう、敵の殺意に身震いし、高揚する戦いを。

お互いの血飛沫が舞う凄惨な闘いを。

死して尚、相手の生命を奪おうと藻掻き、足掻き続ける……無様で崇高なる殺し合いを。


言の葉という音色を一つ発するごとに安宿を軋ませ、崩しかねない気配を放ち、バアルは自らの主に問う。


その悍ましい力を、自らが大将と呼ぶ主に浴びせながら……。


しかし、意志持つ嵐(バアル)の暴威を全身で浴びて尚、静寂に沈む死神(シュトレッケバイン)は揺れ動くことなく仮面の下からくぐもった声を発する。


「お前は自分の目を疑うのか、バアル?」

「―――――――――――――――――」


建物の軋みが止み、降ってくる埃が止んだ。

一瞬の静寂。なんてことはない、ただの一言だ。

しかし、それがバアル自身が発する気配を鎮めるに足る言葉だったのは確かだった。

建物全体を軋ませる程の気配を沈め、バアルは手で自らの顔を覆い、大きく息を吐き出した。


「その返答………汚ねぇぜ、大将」


鋭い牙が見えるほどに凄みのある笑みを浮かべ、バアルはそう漏らした。


『お前は自分の目を疑うのか?』


他人に自身が望む戦場を提供させる?

馬鹿か自分は?あの場でリャナンシーはおろか、自分さえも葬るつもりだったあの男(処刑者)に宣戦布告をしたのは他でもない自分ではないか。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


大将の言う通りだ。先陣に立ち、災禍をもたらす自分が、自分自身の目を疑うなど言語道断だ。


「ああ、完全な失言、失態だ」

「―――今は、待て。そう遠くない未来、お前には飽きるほど戦ってもらう」


自戒するように言うバアルに、テーブルから離れたシュトレッケバインは音もなくゆっくりと近付く。


そして通り過ぎる直前、「殺し足りないと思う程に、大勢と只管に、な」と、最後に不吉な言葉だけを付け加え、部屋から出た。


「はっ、そうかよ………っ」


残されたバアルは主を目で追うことなく、その吉報に笑った。




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