第20話「ホルガーからの伝言」
「―――――――――」
目の前で起きた光景に、アラン達は言葉を失った。
処刑者、リャナンシーと名乗った敵の戦闘が今まで自分達が行なってきた戦闘とはまるで違うものだった、というのもある。
しかし、理由はそれじゃない。
あの戦闘だって彼らからすれば挨拶程度くらいだろう。
問題はリャナンシーとその後に来た男、バアルという名の異形の方だ。
「………ヤバいかもな」
ロジャーは無意識に呟き、遠くなった異形の背を眺めた。
引き攣った笑みが嫌でも浮かぶ。
ここに来て、ロジャーはアランの様子がおかしい理由を察した。
あくまで噂程度、ハウンド・ソードでも姿形、名前までは確認できた訳ではなかった。
しかし、その程度の認識でもロジャーはあれらが何なのかを確信する。
「アラン」
「お、おう。わりぃ」
「気持ちは分かる。けど、今は他にやらなきゃいけない事があるだろ?それに、全部が全部、悪い方に進んだ訳じゃない」
「………そうだな」
頼むより早く、ツヴァイが処刑者の方へと降り立ち、2人を降ろした。
処刑者はバアル達が消えた方を見ていた。
「処刑者。実は君宛に、第八区画レジスタンスリーダー、ホルガーから伝言がある。『思うままに、最善を尽くせ』、そう言っていたそうだよ」
「…………………………」
相変わらず、敵が消えた方角を向いたまま。けれど、処刑者は伝言の内容にぴくりと反応した。
返答を、2人は待った。本音を言えば、今すぐにでも仲間になってくれと懇願したいほどだった。しかし、それは悪手だというのも分かった。
だからこそ、2人は縋りたい想いも押し殺して待った。少し間を置いて、処刑者はこちらへ向き直る。
「分かった、アンタ達と手を組む。連れてってくれ」
「……いいのか?」
「どれだけ力になれるかは、分からないけどな」
「十分だよ……!」
そう返しながら、ロジャーが処刑者へと手を差し出した。
あまり経験が無かったのか、処刑者は目を丸くしたが、躊躇いがちに手を握り返した。
そして、襲撃で聞きそびれた事を聞く。
「今更だけどさ。アンタの名前は?いつまでも処刑者って呼ぶ訳にもいかないし」
「アインスだ」
「アインス、アインス………。因みにツヴァイの名付け親は?」
「オレだ」
「あー………………」
(単純じゃね……?)
思わずそう思った。しかし、第八区画でも同じ様な事を言われたのか、処刑者……、アインスは少しむっとしながら答えた。
「仕方ないだろ。自分の名前だって譲り受けた物だ。それに、こいつには少し近しい物を感じた。じゃなきゃ、他の名前を付ける」
「譲り受けた……?」
「記憶が無いんだ。誰かが付けてくれて、ここに来た事以外、覚えてない」
「その……誰かってのは」
「覚えてない、というか知らない。ケチな奴でいつか教えてやるとか言って結局教えてくれなかった」
「…………第八区画に来る前は?」
最後の希望とばかりにそう聞いた。
フィラトルは広いが、人の住んでいる場所は狭い。
もしかしたら、知ってる人間が絡んでるかもしれないと思いたかった。
何故なら…………
「…………上」
「上………」
「oh……………」
言うべきか言うまいか、そう考えてからアインスは渋い顔で空を指差し、それを見たアランとロジャーはそう溢した。
言うまでもない、ただの空だ。別に何もない。
見ろ、言わんこっちゃない。やっぱり素っ頓狂な答えが返ってきた。
アインスが指差した場所を見てアランが目を点にする中、ロジャーはアインスの指差した先を見て、心の中で呟く。
(ファータ。俺達が迎え入れようとしてる奴は、相当な不思議ちゃんだぜ)




