第16話「処刑者との合流・後編」
「杯の悪夢」
『――――!』
処刑者とアラン達、3人以外の言葉が割り込んだ。
上空から膨大な量の水が囲うように降り注いだかと思うと、その後、水はすぐに処刑者達を呑み込むように動きを変えた。
「み、水?一体……?!」
「ツヴァイッ!」
「ギャウ!」
「って、うぉい!またか?!」
「うぁ!?」
処刑者はツヴァイに呼びかけると同時、ロジャーをツヴァイの背中目掛けて放り投げ、ツヴァイはアランの服を摘んで即座にその場から離脱した。
「お、おい!お前も、早くっ!!」
ロジャーが叫ぶが、処刑者は避けない。押し寄せる水の奔流に警戒は示すも、敢えてその奔流に呑まれた。
奔流はそのまま処刑者を包み込むと、巨大な球体となってその場で浮き上がる。
「ふーん、自分が捕まってまであんなのを庇うんだ、色男。まあ、いいわ。リーダーとあの眼帯男に聞いてからずっと、会ってみたかったし」
「―――――――」
水の球体の中、呼吸も会話も出来ない処刑者の目の前で無数の水泡が集まったかと思うと声の主、杯を片手に朽ちた蝶の翅を生やした女は姿を現した。
「やべぇ、よく分かんねえのが出てきたし、早く助けに………、アラン?」
「あいつは…………」
何があった?と言いたげなロジャーの言葉は、アランの耳には入らなかった。
その視線は水の球体の中、女を凝視していた。
◆◆◆
女は着ているドレスと、その長い髪を揺らめかせながら、その指を頬に這わせてきた。
処刑者は動じない。先程のおだやかさなど抜け、敵を狩ると決めた苛烈な気配を纏って女を睨む。
(虫の翅にこの気配……、妖精か………)
特徴から敵の正体を割り出す。
人に近い性質を持つ妖精。本来であればこのフィラトルには存在しない種族だ。自分がこれまで殺してきた魔族と同じ様に。
何故、そんな事を自分は知っているのか?いつも感じる疑問を押しやり、意識を敵から身体に集中させた。
そんな処刑者に妖精の女は頬に手を添えたまま語りかける。
「はじめまして、処刑者。私はリャナンシー。こうして会えて嬉しいわ」
「――――――」
「ふふ、近くで見て確信した。素敵だわ。この状況でもまったく動じず、怯えない。今までの恋人達は怯えて逃げようとしていたのに。けど………」
そう言いながら、リャナンシーと名乗った妖精は手にした杯を傾け、怪しい光を放つ水を溢した。
光る水は周りの水とは関係なしに、処刑者を包み始め、その様子を見てリャナンシーはより笑みを深める。
その状況でも、処刑者は目の前の女から意識を外したまま、身体の状態を確認する。
水の中だから当然、呼吸は出来ず、言葉も喋れない。
意識は………、問題ない。だが、自分を覆う様に拡がる光る水の影響だろう。思考に何かが染み入るように侵入してくる感覚がある。放っておけば厄介な事になる事は間違いない。
最後に身体………、こちらも問題なく動く。
水中だから多少動きは鈍いが誤差の範囲。
屠るには事足りる。
それならば十分と、処刑者は改めてリャナンシーへと意識を向け直す。
「怖がらないでいいわよ。これで貴方は私の思いのまま、貴方は幸せな夢へ沈むの」
「―――――――」
「さあ。見せて、聞かせて。貴方の願――――い――」
心の中を覗き見たリャナンシー。しかし、そこで見た何かに、彼女は驚きで目を見開いた。
そして、動きを止めたその瞬間を処刑者は逃さない。黒い剣を下から上へと振り上げる。
たったそれだけ。その一振りがリャナンシーの生み出した水牢を吹き飛ばし、拘束されていた処刑者を自由にした。
膨大な量の水が豪雨のように振り注ぐ。
リャナンシーは咄嗟に処刑者から距離を取り、俯いたかと思うと肩を震わせる。
「罪法――――、」
「いい、いいわ、貴方……!」
処刑者が断頭斧を生み出し、疾走るのと同時、狂気に染まった笑みを浮かべるリャナンシー。
それに反応するように、周囲の水が蠢き、今度は無数の槍の形を成し、処刑者に向く。
「――――断頭」
「そんなものを従える貴方を這いつくばらせて、この世界の人間を殺し尽くすの!!さあ、踊りましょう!共に殺し尽くしましょう!!世界を私と貴方で朱に染め上げるの!嫌がる貴方と一緒に!!」
狂気に染まった笑みを貼り付け、リャナンシーは無数の水の槍を、漆黒の断頭斧を構える処刑者へと放つ。
しかし……………、
「遊びはそこまでだ、リャナンシー」




