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第10話「処刑者」


アラン達が離脱した後。『殲滅者たち』を待っていたのは一方的な殺戮だった。


逃げ惑う足音と倒れる音と共に、悲鳴が起きては消えていく。或いは起きる前に殺されていく。


その状況を魔族の部隊長、グスタフは恐怖に引き攣った顔でただ眺めていた。


「待て!止めろ、やめ………ぎゃあああああっ!!!」

「ひぃっ、来るな!来るなぁあああ!?」

「隊長、指示を、指示をぉ―――――っ!」


遠く離れた場所で、こちらに指示を仰ごうとした仲間の首が宙を舞い、鮮血を散らしながら狙ってか偶々か、グスタフの目の前に転がった。


「ぁ、ぁ――――――――」


死んだ事にすら気付いていないその顔がこちらを見ている。

逃げたかった。仲間など放置して、脱兎のように背を向けてでも。


しかし、グスタフも彼らと同じだった。


今も仲間を殺戮し続けている青年の手により両脚なんてとっくに失った。

グスタフもまた、青年の前では等しく処刑対象でしかないのだ。


最初の攻撃で破壊されて尚、ギリギリ稼働出来た自慢のリーズィヒ級も、今では向こうで完全に破壊し尽くされ、炎に包まれて沈黙している。


もう、抗う術など何処にもなかった。


「…………止めろ」


無意識に、グスタフが言葉を漏らす。


仲間が逃げ惑えばその背を黒い杭が撃ち抜き、果敢に挑めば巨大な黒い断頭斧で両断される。


青年は手にした刃、その身体を覆うマントから生み出される闇を自身の望む形へ作り替え、次から次へと殺戮を繰り返した。


「止め、ろ……………」


青年の手にした銃が黒い闇を放ち、集団で挑もうとした魔族達が影も残さず消えていく。

その青年の背後を、隙を窺っていた最後の仲間が狙う。


「止めろ…………っ」

「な、何だよ、これ……っ!?」


味方に向けてか敵に向けてか、絞り出した言葉を無視するように、背後から迫った仲間を、巨大な黒い顎が噛みつき、捕らえた。

顎は閉じる力を強め、藻掻く魔族の身体がミシミシと音を立ててひしゃげ始めた。


「い、嫌だ!助け、助けてくれぇえっ!!!」

「止めろぉおおおおおおおおっ!!!!」


グスタフは、叫ぶ。しかし、青年は無慈悲に、執行の言葉を口にする。


「圧刑―――――」

「ァーーーー、」


叫びは虚しく、顎は閉じきり、辺りには鮮血が飛び散った。

顎は骸の残骸をその辺に吐き捨てると、霧のように霧散し姿を消す。

そして、青年は最後の獲物である自分へと迫った。


出血のせいか、視界が霞む。身体が冷たくなって死が間近に迫るのを感じる。


リーズィヒ級の燃え盛る音、血溜まりを踏みつけ歩く処刑者の足音だけが静寂の中で響く。


「……………ょう」


怒りと絶望、恐怖の混ざった声でグスタフは何かを言った。


能面のように無表情。青年は答えない。代わりに自らの操る闇で、また身の丈を超えるであろう巨大な黒い断頭斧を生み出して、それを上段に構えた。


斧を構えた腕が天へと伸び、ピタリと止まる。


「う、くしょう………っ、ちくしょう、ちくしょう畜生畜生畜生畜生!」


細く、白い腕に力が入り、勢いをつけて真っ黒い斧が振り下ろされると同時、グスタフは最後に絶叫した。


「畜生おぉぉおおおおっ!!!!!」



『受け入れよ、受け入れよ。正当なる■■をその身で受け止めよ』


処刑者の声でも、先に殺された仲間の声でもない。


刃で身体が斬り裂かれる感覚をその身で味わいながら、グスタフの脳裏に何者かの愉悦に満ちた言葉が投げかけられた。


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