第9話「竜の鳴き声は死への誘い」
鳥のような鳴き声が遠くから、僅かに響いた。小さく、そして溶けるように音は消える。
しかしそれだけで、獲物をいたぶる魔族達の表情が消えた。
顔面が蒼白へ変わり、慌ててキョロキョロと周囲を見渡し始める。
「なんだ、鳥の鳴き声?それにしちゃ……」
「まさか………」
何も知らないロジャーが聞こえた鳴き声に違和感を覚える中、アランは先程、魔族の部隊長が言っていた言葉を思い出し、そう呟いた。
その直後、その記憶は正解だと言う様に目の前の巨大な魔導機兵の頭部目掛け、黒い闇が鳴き声の方から一筋の線となって奔った。
『――――――ッ!―――!!』
闇が消えると同時、リーズィヒ級の頭が炎を噴いて爆発。
すんでの所で破壊を撒き散らす筈だった砲門が沈黙し、声にならない悲鳴を上げながら巨大魔導機兵は膝を着いた。
「―キ――――ィ――――ィィィッ」
二度目。先ほどよりもしっかりと鳴き声が響き、無数の闇の線が魔導機兵を貫いた。
確認するまでもない。三度目の鳴き声が響くなと、祈るように魔族の部隊長は引き攣った顔で絶叫する。
「総員、撤退!撤退!!アイツだ――――――」
言われるまでもなく、彼の率いる部隊はこの場から離れるべく、自然、その身体は逃げの姿勢を取る。
しかし、祈りは虚しく…………
「キュイィィィイイイッ!!!」
三度目の鳴き声が無慈悲に響く。
「逃げ遅れた」そう確信した魔族達が脇目も振らず、仲間を押し退けながらその場から逃げだす。
それと同時、部隊長が既に手遅れと知りながら敵の正体を絶叫した。
「処刑者が来るぞぉ!!!!」
『っ!?』
肌が泡立つほどの殺気。アランとロジャーは同時に空を見上げた。
白い竜が、絵本で見たような生き物が真っ直ぐにこちらに急降下してきていた。
大きさは目の前の魔導機兵よりもずっと小さい。
人が乗れたとしても精々、3人か4人が限度か。その背から、誰かが飛び降りて目の前に落下。その姿を隠すかのように砂煙が舞い上がった。
「罪法――――殲杭」
声が響き、一瞬の無音の後、砂煙を突き破りながら無数の杭が逃げ惑う魔族の群れに放たれた。
「がっ?!」
「づ!?畜生、何で!何で俺達の所になんか……!!」
「ギァッ!!」
「く、け………っ?」
「逃げろ!逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ!!殺されちまう、殺されちまう!!」
頭に、首に、胸に、腹に、腕に、脚に、情け容赦なく、無慈悲に真っ黒な杭が突き刺さり、抉り、その命を刈り取っていた。
断末魔が響く中、砂煙を破り、一人の青年がアランとロジャーの前に姿を現す。
それは薄い金色の髪、真っ白な肌の青年だった。
身に纏う真っ黒なボロボロのマントは竜の翼のよう。その下に着込むタンクトップにカーゴパンツも同じ色だった。
真っ黒な狩人。いや、刑罰を下すべく敵を狩る姿はまさに処刑者と呼ぶに相応しい。
身体中に出来た無数の傷と、抉るように走る傷で塞がった左目。獣の牙のような紋様を浮かばせる右の金色の瞳。
細めた鋭い眼光が2人を捉え、手を伸ばした。
アランとロジャーが反射的に身構えるが、それより早く、青年の手がロジャーの胸倉を掴み、明後日の方角へと力任せに放り投げた。
「うおぉおおおおっ?!」
「ロジャーっ!!!」
ロジャーが放り投げられた方角に、白い竜が現れ、ロジャー目掛け口を開く。
それと同時に、アランの身体も浮き上がり、ロジャーと同じ様に放り投げられた。
「嘘………!?」
アランを放り投げてすぐ、青年は背を向けて竜へと呼びかける。
「ツヴァイ、その人達を安全なところへ!!」
「………え?うぉ!?」
身体が何かに引っ掛けられ、飛んでいく方向が変わり、真上へ。
落ちるっ!と思った瞬間、アランの身体は浮遊感のまま、硬くゴツゴツとした何かの上に落ちた。
「いてて…………、何が」
「なあ、嘘だろ…………?」
何が起きたか分からず、辺りを見渡し、絶句した。
先程の青年を乗せていたツヴァイと呼ばれた白竜がアランとロジャー、2人を乗せてその場を離れようとしていたからだ。
「ま、待ってくれ!君は…………っ」
慌ててアランは青年目掛け叫ぶが、青年はそれに応えることなく、離脱を始めたのを確認すると、戦闘を続行すべく魔族へと走っていく。
もう一度叫ぼうとするも、白竜はそれを遮るように飛翔し、その場から離脱したのだった。




