第8話 ゲームセンターでの出会い
人生初の寝落ち通話から、二日。
学園ではほぼ会話しないくせに、メッセージだけは相変わらずしつこい。
そんな日常をやり過ごしながら――
俺は、今日という日を迎えた。
「あった……これだ!」
思わず声が出る。
周りの視線に気づいて、慌てて咳払い。
(落ち着け……)
今日の目的は一つ。
――ミラーアースオンライン公式マスコット《ミラリス》のグッズ。
これまでほぼ展開がなかったのに、ついに解禁。
「予算は十分……全部取る」
俺はクレーンゲームにコインを投入する。
――10分後。
「よし、二個」
上出来だ。
「次行くか」
その時。
「え、めっちゃすげえじゃん。どうやって取ってんだよ」
「え?」
振り向くと――
派手な赤とオレンジのグラデーション髪。
無造作にまとめたポニーテール。
ショート丈パーカーにダメージジーンズ。
ピアス多めのストリート系。
いかにも“近寄りがたい”タイプの女子が立っていた。
……顔はめちゃくちゃ整ってるが。
「あー悪ぃ。フィギュア羨ましくてつい」
口は悪いが、妙に素直だ。
「私は朱城レイナ。ミラーアースオンラインやってる。お前は?」
「白銀朔夜。俺もやってる」
「マジで!?」
目を輝かせて、ぐっと距離を詰めてくる。
「ちょっ、近い」
「あ、悪ぃ。周りにやってる奴いねえんだよ」
「わかる。話通じないよな」
「それな」
初対面とは思えないテンポで会話が進む。
(……悪い奴ではなさそうだな)
「……これ、一個やるよ」
「は!? いや、流石にもらえねえって」
「そっか。じゃあ――取り方教えてやる」
「マジで!?」
一気に表情が明るくなる。
分かりやすい奴だ。
――気づけば一時間後。
「うわ、めっちゃ取れた……」
両手いっぱいのミラリスグッズ。
「ありがとな、白銀」
「別にいいって。語れる相手がいるの嬉しいし」
缶コーヒーを飲みながら、少し息をつく。
するとレイナが、何か思いついたように顔を上げた。
「なあ、連絡先交換しね?」
「いいけど」
「よっしゃ」
軽いノリで交換完了。
――その瞬間。
「……げ」
スマホが震える。
画面には、大量のスタンプ。
『浮気の予感がするよ、アージェント君』
(なんでだよ……)
「どうした?」
「いや……なんでもない」
「彼女か?」
「違う。強いて言うなら……ストーカー」
「は!? 大丈夫かお前。通報しろよ」
本気で心配してくる。
(まともだなこいつ……)
「ま、なんかあったら連絡しろ」
「もう帰るのか?」
「家うるせえんだよ。時間うるさくてな」
「そっか。今日はありがとな」
「こっちこそ」
軽く手を振って、レイナは去っていく。
(……変な奴だったな)
でも。
悪くない。
「さて、帰る――」
その瞬間。
着信。
――夜桜紫苑。
「……はあ」
渋々、通話ボタンを押す。
「やっほー朔夜君。元気?」
「おかげさまでな」
「浮気の匂いがしたから電話したよ」
「は? 監視してんの?」
「え? 浮気してるの?」
「してねえよ」
微妙な沈黙。
なぜか噛み合ってない。
「誰かと会ってたでしょ?」
「……まあな。ゲーセンで、同じゲームやってる奴と」
「それ、男? 女?」
声のトーンが一段下がる。
(……怖っ)
「女だけど」
「……」
「おーい?」
「ひどいよ、朔夜君」
「何がだよ」
「私の“初めて”全部奪ったのに」
「は!? 誤解招く言い方やめろ!」
「寝落ち通話も、一緒にゲームも、初めてだったのに」
(くっ……)
声が、やたら可愛い。
心臓が跳ねる。
「……まあ、信用してるけどね」
「意味わかんねえ」
「はあ……鈍感だなあ」
「なんで怒られてんだよ」
「自分の胸に聞いてみなよ」
それだけ言って、通話が切れる。
「……なんなんだあいつ」
頭を抱えながら、歩き出す。
両手には、ミラリスのグッズ。
ポケットには、新しくできた連絡先。
そして――
やたらと面倒な存在が、一人。
「……はあ」
静かな帰り道。
だが――
俺の日常は、確実に変わり始めていた。




