第9話 再会
朝のアラームが鳴り響く。
「……うぅ」
布団から出たくない。
「……辛い」
今日は特に、体が重い。
「なんだこれ……」
嫌な予感。
理由は分からないが、妙に胸騒ぎがする。
「……まあ、気のせいか」
強引に体を起こし、支度を始めた。
⸻
「よっ、おはよう」
「……おはよう」
「元気ねえな。何かあったか?」
相変わらず鋭い。
「なあ悠斗。朝起きた瞬間、嫌な予感したらどうする?」
「風邪じゃね?」
「違う。もっとこう……第六感みたいな」
「あー、嫌な予感ってやつか。俺なら一応用心する」
「マジかよ」
一気に不安になる。
「まあ、ほとんど気のせいだと思うけどな」
軽く笑ってフォローしてくる。
「……ありがとな」
「気にすんな。親友だろ?」
「……ああ」
少しだけ、気が楽になった。
⸻
昼休み。
いつもの屋上。
「さーて、アージェント君。昨日の浮気調査といこうか」
「だから浮気じゃねえって。つーか来んな」
「ううっ、酷いよ。私はこんなに想ってるのに」
「その演技バレてるぞ」
「ちっ」
(舌打ちしたぞ今)
「で? 相手は誰?」
「朱城レイナってやつ。ゲーセンで会った」
「……」
急に黙る。
「おい、どうした」
「……なるほど。これは厳しい戦いになりそうだね」
「は?」
「アージェント君は鈍感だからなあ。でも、それが良さでもある」
「意味わからん。つーかその呼び方やめろ」
「仕方ないな。特別だよ――朔夜君」
(……っ!?)
妙に甘い声。
心臓が跳ねる。
「あ、今ドキッとした」
「してねえよ」
「うそだー。誤魔化せないよ?」
「聞こえるわけねえだろ」
「ふーん?」
(やば……)
「ちょ、お前近い!」
「聞こえる距離に来ただけだよ」
顔が近い。
距離がおかしい。
「……心臓、すごいね」
「たまたまだ!」
無理やり引き離す。
「また一つ弱みゲット」
「ふざけんな」
その時――
ガチャ。
開くはずのない屋上の扉が開く。
「あれ、開いてんじゃん。ラッキー」
(……嫌な予感、これか)
「……お前」
「お、昨日の白銀じゃねえか」
朱城レイナ。
最悪のタイミングだ。
「同じ学園だったのかよ」
「こっちのセリフだ。邪魔だったか?」
「いや、別に――」
「邪魔でも何でもないわ。一緒にどう?」
(紫苑!?)
声が一瞬で“優等生モード”に変わる。
怖い。
「んじゃ遠慮なく」
レイナが座る。
空気が、重い。
「なあ夜桜。猫被るのやめたら?」
「……どういう意味かしら?」
「それくらいわかるっての」
(言うなって……!)
「……へえ、やるね」
紫苑の笑顔が少し歪む。
「じゃあやっぱり邪魔かな」
「お、そっちが素か。そっちの方が話しやすいわ」
(やめろマジで)
「なんで屋上に?」
「風の音聞こえてさ。普段一人で食うの好きなんだ」
「……そう」
一瞬、沈黙。
「……悪かったね。態度」
「別に気にしてねえ」
なんとか収まった……か?
「つーか見ろよ白銀。ミラリス付けてきた」
「お、いいな」
「だろ? 可愛いよな」
一気に空気が緩む。
(助かった……)
「へえ。君もミラーアース好きなんだ」
「お前も?」
「まあね」
「じゃあ連絡先交換しようぜ」
「いいよ」
(あっさり!?)
紫苑が押されてる。
珍しい。
「じゃ、またな白銀、夜桜」
「おう」
嵐みたいに去っていく。
(疲れた……)
「……思ったより手強いね」
「何がだよ」
「別に」
「それより浮気はダメだよ?」
「だから違うって言ってんだろ!」
「じゃあ付き合う?」
「は!?」
「冗談」
クスクス笑う。
「ふざけんな!」
「やっぱり面白いね、朔夜君」
(……最悪だ)
朝の予感は当たった。
そして確信する。
――俺の平穏は、もう戻らない。




