第6話 貸し借り
夜桜紫苑に揶揄われ、動揺を引きずったままだ。
レアクエスト『天より舞い降りる竜退治』――
その標的である竜が、砂漠へと舞い降りた。
「アージェント君、私が後方支援するよ」
「……頼む。俺が前に出る」
「頼もしいね」
夜桜紫苑の姿で、グッドポーズ。
(……くそ)
さっきまでの悪魔アバターと違って、妙に心臓にくる。
「ドキッとしたね」
「してねえ。集中しろ」
「誤魔化したー」
「うるせえ」
――来る。
「行ったよ、アージェント君」
「分かってる!」
竜が突進してくる。
俺は剣を構える。
――ミラー・レガリア。
《鏡の王権》。
触れた攻撃を反射する、俺の切り札だ。
「すごいね。それなら勝てそう」
「フラグ立てんな」
「――あ」
次の瞬間。
炎のブレス。
弾いた直後、間髪入れずに突進。
「影縫いの加護」
「ナイス!」
竜の動きが止まる。
「また借りができたね」
「は!? 作ってねえ!」
身体が軽い。
視界がクリアになる。
――いける。
「はああああああっ!」
剣を振り抜く。
直撃。
竜が苦悶の咆哮を上げる。
だが、すぐにブレス。
「アージェント君!」
「問題ねえ!」
――反射。
弾いた炎が、そのまま竜へ返る。
直撃。
爆ぜる。
「さすが。かっこいいよ」
「……思ってねえだろ」
「思ってるよ?」
「やめろ」
少しだけ、声が小さくなる。
「……あ、照れてる」
「違う」
「惚れちゃった?」
「ねえよ」
「えー、残念」
竜が崩れ落ちる。
――討伐完了。
「ほら、帰るぞ」
「えー、まだ遊ぼうよ」
「時間見ろ」
「あ」
時刻は21時を回っている。
「……一回ログアウトする」
「じゃあ、また後でね」
「だから今日は――」
「今日じゃなければいいの?」
「……っ」
(こいつ……)
――――
ログアウト。
現実へ戻る。
夕食。
シャワー。
そしてベッド。
ピコン。
『やっほー、朔夜君』
『うるせえ。さっき別れたばっかだろ』
『寝落ち通話しよ』
『断る』
(なんでだよ)
『借り、あるよね? それに盗撮の件』
『いつまでそれ使う気だ』
『必要なくなるまで』
(クソが……)
逃げ場がない。
『……分かった。でもお前、大丈夫なのか』
『?』
『家だよ。彼氏でもない男と通話とか』
『常識ってね、18歳までに集めた偏見のコレクションなんだよ』
『お前16だろ』
『あ、ほんとだ』
スタンプ連打。
(うぜえ……)
『じゃあ通話するね』
『……どっちからだ』
『緊張してるね。童貞?』
『死ね』
『冗談だよ』
少しだけ、声が柔らかくなる。
『寝落ち通話、しよ?』
「……っ」
(くそ)
こういう時だけ、可愛い声出しやがって。
――拒否できるわけがない。
こうして俺は、人生初の寝落ち通話をすることになった。
そしてこの通話が――
俺の人生を大きく変えることになるなんて。
この時の俺は、まだ知らなかった。




