第22話 乱入
白鷺美月との勝負に負けた俺は、彼女と一日デートをする羽目になった。
最悪だ。帰りたい。
「ゲームセンター行こうよ」
「いいけど、好きなのか?」
「うん。普段はあまりプレイしないけどね」
変装姿とは言え、やけに密着してくるな。
バレたらどうする気だ。
「デート中に距離があったらおかしいでしょ」
「バレても知らないぞ」
腕を絡めてくる白鷺美月。
シャンプーの甘い香りと、ふわっとした男にとっての理想な匂いが混ざり合って鼻腔をくすぐる。
胸の膨らみも相まって、心臓の音が激しく打ち鳴らす。
「ねえ、得意だったりする?」
「まあ、そこそこは」
「じゃあ、これ取ってよ」
そう言って、彼女が目の前のぬいぐるみを指差した。
その指した先のぬいぐるみは巨大なクマである。
「こんな大きいの取れるかわかんないぞ」
「やるだけやってみてよ」
「まあ、いいけど」
俺は1プレイ200円のUFOキャッチャーに挑戦する。
「ああっ、惜しい」
「くっそ」
惜しくも完全に持ち上がらず、やり直す。
だが今のでコツは掴んだ。
「次で取れる」
「えっ? 本当?」
随分驚いた様子を見せる白鷺美月。
驚いた様子も美しすぎる。
「よしっ!」
「すっご」
思わず軽く声を出してしまう。
対して彼女は小さく感嘆の声を漏らしている。
「で、これどうしよう」
取ることに夢中になってて、すっかり持ち帰る事を考えていなかった。
こんな巨大なクマのぬいぐるみ持ったままデートとか無理なんだが。
「大丈夫。どうせ監視されてるから」
「は!? それどういう意味──」
白鷺美月が指を鳴らすと、サングラスにスーツ姿のいかにもな体格のいい巨漢が目の前へとやって来る。
とんでもない圧を感じる。
「これ家に運んでおいて」
「わかりました」
「それともう監視はいらないから」
「いえ、そういう訳には行きません。麗華様から監視の命を受けておりますので」
「ママには私から言っておくから。逆らうの?」
「で、ですが」
「もう一度だけ言うよ。逆らうの?」
「し、失礼致しました」
巨漢の男が巨大なクマのぬいぐるみを持って、急ぎ足でどこかへ戻って行く。
まさか監視されてたとは。気づけなかったな。
監視理由はモデルだからか? それとも過保護?
「まあ、一時的に監視が緩くなるくらいかな。どうせママには逆らえないからね」
「お前の母親厳しいんだな」
「厳しいってもんじゃないよ。特に男と一緒にいるなんて知れたら、君殺されるかもね」
「冗談に聞こえないんだが」
「冗談に聞こえる?」
「ええっ⋯⋯ まじかよ」
最悪すぎる。早く帰りたいんだが。
つーか、もうボディーガードに見られてるって事は、知られてるんじゃ?
もしかして死が確定した?
「まあ、大丈夫だよ。ボディーガードも気を利かせて、同性の友達ととショッピングしてるって嘘の報告してくれてるから」
「はあー。何だよ脅かすなよな」
それにしても、思った以上に白鷺美月はやばい。
紫苑とは方向性が違うヤバさだな。
(何で俺の周り、変な奴しかいないんだろ)
俺は隠れて大きなため息をついた。
「じゃあそろそろ、外に行こうか」
「は? 外?」
思わぬ予想外の言葉に、固まる俺。
「もうあらかた回ったし、何やら不穏さも感じるからね」
「不穏さって何だよ?」
「さあ? 直感」
彼女の直感が当たるかはともかくとして、実は俺も何やら不穏な空気を感じていた。
非科学的だが、ここ最近はその嫌な予感がよく的中している。
「じゃあさっさと外行こうぜ」
「いいね。こっからが本番デートだね」
腕をめちゃくちゃ絡めてくる白鷺美月。
凄く楽しそうな彼女の笑顔が、本物なのか演技なのかが俺には分からなかった。
────
あれから色々見て回り、気づけば日も完全に落ちていた。
セントラルモール東都を出た後、カフェ、公園を巡り終え、最後に綺麗な夜景が見えるレストランで食事をした。
そして──。
「いや、行かないから」
「えーいいじゃん。深夜0時までは私とデートでしょ」
「そりゃそうだけど、流石にホテルはダメだろ」
俺は今白鷺美月からホテルに誘われている。
ホテルといってもラブホテルではなく、ビジネスホテルだが、それでも行く訳にはいかない。
「何もしないよ。疲れたから休もうよ」
「だったらもう解散でいいだろ」
「まだ夜の20時00分だよ。4時間も約束まであるよね」
ぐうの音も出ない正論。
だが流石にカリスマモデルとホテルは絶対にまずい。
リークでもされてみろ。俺の人生も彼女の人生も終わる。
「それとも如何わしい事するつもりなの、白銀君は?」
「ばっ、しねえよ」
「じゃあいいじゃん」
一瞬想像してはいけない何かを想像してしまい、顔が赤くなった。
心臓がいつも以上に高鳴る。
「一旦冷静になれ」
「私は冷静なんだけど」
「まじかよ。お前カリスマモデルだろ」
白鷺美月が少しだけむくれる。
それと同時に背後からとてつもない圧を感じる。
思わず振り返る。
「やっと見つけた。意外と逃げるの上手だね」
「お前っ──何で!?」
「朔夜君。浮気はダメだって言ったよね」
目の前にいたのはまさかの夜桜紫苑。
最悪すぎる。地獄絵図だ。
「高校生が夜に二人でホテルはどうかと思うよ。ね、朔夜君」
「あ、はい。おっしゃる通りです」
圧が過去一強すぎる。目が笑ってない。
「ちょっと疲れたから休もうって言っただけだよ。現にビジネスホテルだしね」
白鷺美月の目も全く笑っていない。
俺の胃が死にそうだった。
「そもそも夜桜さんって、白銀君とどういう関係?」
「恋人だよ」
嘘つけ。あまりにも堂々とした態度で発するから、一瞬信じてしまいそうになったじゃねえか。
「いや、恋人じゃねえだろ。どっちも友達ですら怪しいわ」
思わず本音をぶつける。しかしこれが悪手だった。
「酷いよ朔夜君。あんなに愛し合ったと言うのに」
「酷いね白銀君。一日デートする仲なのに」
なぜか悪者にされる俺。理不尽すぎる。
「まあとにかく流石にホテルはまずいと思うよ」
紫苑が白鷺美月に静かに圧をかける。
「わかったから、そんなに睨まないで欲しいな。夜桜さんとはいい関係になれそうだね」
そう言って「ばいばーい。今日はありがとね白銀君。4時間分は貸しにしとくね」と付け足し、ボディーガードを呼び、用意した車へ乗って帰る。
「はあー。助かった」
俺は思わず小声でそう呟く。
「朔夜君。これは完全に貸しだよね」
「は、はい」
「やったー。じゃあ取り敢えず今日のこと洗いざらい話してもらおうか」
「え!?」
俺の地獄はまだまだ終わる気配はない。
泣きたい、死にたい。




