第16話 澪が不機嫌
「お兄ちゃんそこに座って」
「え? 何で」
「いいから」
鋭い眼圧を見せる俺の義妹白銀澪。
これはめっちゃ怒ってるな。
澪は怒ると怖いんだよな。
「それで、何で怒ってるんだ?」
「夜桜さんとはどういう関係なの?」
あーなるほど。
紫苑との関係性を知りたいのか。
(じゃあ何で怒ってるんだ⋯⋯? )
「友達だよ。前にも言っただろ」
「お兄ちゃんは本当にそう思ってるの?」
全く納得してない澪。
顔を覗き込むように近づけてくる。
「まあ⋯⋯ たぶん」
歯切れを悪くしながら、小さく答える。
言われてみればこの距離感で友達はおかしい気もする。
「お兄ちゃん、それはおかしいよ。友達の距離じゃない」
「そうだとして、澪はどうしてそんなに怒ってるんだ?」
家族として心配してくれてるのか?
紫苑が悪い女に見えたのか?
どちらにせよ澪がここまで怒るのは珍しい。
「べ、別に心配してるだけ。お兄ちゃんお人よしだから」
「お人好しかどうかはともかく、心配してくれてありがとな」
俺は澪の頭を軽く撫でる。
いつの間にか俺の方が身長高くなっていた事に改めて気づく。
「もうお泊まり禁止。友達なんだから節度持って付き合う。わかった?」
「は、はい」
最後にすごい剣幕で怒り、部屋を出ていく。
「はあー怖かった」
澪に怒られたのは何度かあるが、ここまで怒るのは初めてだ。
そんなに俺が心配だったのか?
「紫苑との距離感、考え直そう」
俺は今までの紫苑との関係を反省するのであった。
────
6月14日月曜日。
いつも通り学園に通う俺。
「なあ朔夜ってミラーアースオンラインやってたよな?」
「やってるけど、急にどうした?」
俺の唯一の親友、神代悠斗が朝から目を輝かせながら俺に話しかけてくる。
「もしかしてあの噂を知らないのか?」
「噂?」
「まじで知らねえのかよ」
悠斗は呆れたように大きく目の前でわざとらしくため息をついた。
俺は少しだけイラっとする。
「悪いがお前みたいな俗物じゃないからな」
「俗物って、お前言い方酷いぞ」
俺が悠斗の態度に仕返しするように悪態をつく。
このようなやり取りは実は日常茶飯事である。
そしてお互い引きずる事はない。
「それより噂って何だよ」
「よーく聞け朔夜。ミラーアースオンラインにとんでもない美少女プレイヤーがいるらしくてな」
「へえー」
あまり興味をそそられない。
美少女なら目の前にいるしな。
俺は紫苑を一瞬見る。
視線に気づいた紫苑は一瞬笑みを浮かべた。
俺の心臓が思わず跳ねる。
(あの夜から、余計意識してしまう。どうなってんだ俺)
ほんの一瞬ぼーっとする。
「おい、何ぼーっとしてんだ。話はまだ終わってねえぞ」
「あ、ああ。それでその美少女プレイヤーが何だって?」
すぐに悠斗に意識を向ける。
「その美少女プレイヤーのリアルが何とモデルの白鷺美月らしいんだよ」
「へえー、凄いな」
「それだけかよ!? モデルの白鷺美月だぞ」
「いや、そう言われても」
白鷺美月。
今をときめくカリスマモデルにして、現役女子高生。
すらりと伸びた手足に、無駄のない均整の取れたスタイル。
歩くだけで視線をさらうその存在感は、同年代とは明らかに一線を画している。
雑誌の表紙の彼女は常に美しく、艶やかな黒髪で光を受けて滑らかに揺れる姿は神々しい。またあまりにも整いすぎた顔立ちはどこか現実味が薄い。
雑誌や広告で見かけない事はないくらいの、若者を中心に絶大な人気を誇るNo. 1カリスマモデルである。
(モデルに疎い俺でも知ってる人気モデル)
「顔だけなら紫苑も負けてないけどな」
「ん? 何だって?」
「何でもねえよ。それでモデルの白鷺美月がプレイヤーだったら何か問題があるのかよ?」
「問題はない。ただ噂が凄い勢いでsnsを中心に広がってパニックになってる」
「そりゃ災難だな」
有名税ってやつか。
可哀想だな。プライベートまで詮索されて。
「悪いけど興味ないわ。それどころじゃねえんだよ今」
「夜桜さんと何があったのか?」
相変わらず鋭いな。
「まあ、色々な」
「よし、気分転換に白鷺美月のゲームアバター探そうぜ」
「話聞いてたかお前? それに詮索なんていう悪趣味やるわけねえだろ」
俺の正論に悠斗は少し黙る。
「まあそりゃ正論だ。でも仮に見つけても、別に晒したりしねえよ。それならいいだろうが」
「いや晒さなくても、詮索自体が問題だろ」
こいつ昔から好奇心強いんだよな。
特に美少女に目がない。
まあ、いいやつではあるんだが。
「そもそもお前ミラーアースオンラインやってたっけ?」
「やってねえ」
「じゃあそもそも無理じゃん。諦めろ」
俺のトドメの一言で脱力する。
「大体アバターなんて好きに変更できるんだから、リアルとは似ても似つかない格好してる可能性高いぞ」
どこかの悪魔みたいにな。
俺はもう一度紫苑に視線を移す。
(つっ──こいつ)
わざとらしく俺に軽く笑いかける。
クラスメイトに気づかれない程度の笑みで。
「まあともかく、諦めるんだな」
「ちえっ、悪魔め」
誰が悪魔だよ。
お前の方が悪魔だろうが。
俺が席に座り直し前を向く。
ホームルームが始まる前にスマホを確認すると、横の悪魔から大量のメッセージが届いていた。
『浮気はダメだよ朔夜君』
『話聞いてたのかよ』
『私は常に朔夜君を見てるからね』
『監視の間違いだろ』
『酷い。それじゃあまるで私が犯罪者みたいな』
『実際そうだろうが』
俺は現実の紫苑をもう一度見やる。
すると真顔でスマホを見ていた。
『真顔なんだな』
『変態だね朔夜君』
『死ね』
俺は腹が立ちスマホをポケットにしまった。
紫苑は少しだけ拗ねていた。




