第12話 ご褒美
激動のコスプレ大会を終え、現実へ戻る。
ベッドに仰向けに倒れ込む。
「はあー……疲れた」
まさか自分が女装して人前に立つ日が来るとは。
「……そういや紫苑、最後に“本物見せる”とか言ってたな」
意味がわからん。
あいつの考えてることは、やっぱり理解できる気がしない。
天井を見上げながらため息をついた、その時。
スマホが鳴る。
『やっほー朔夜君、今家の前にいるよ』
「は?」
意味がわからない。
『冗談にしては笑えないんだが』
『証拠見せようか?』
次の瞬間――インターホンが鳴る。
「……っ!」
嫌な予感が現実になる。
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玄関まで駆ける。
モニターに映っていたのは――
「おい、なんで俺の家を……」
「とりあえず入れてほしいな」
「帰れ」
「夕方過ぎだよ? か弱い乙女を一人で帰すの?」
「後ろの車と人は何だ」
「……あっ」
紫苑が軽く手を振ると、黒服たちが車で去っていく。
「ね? 一人でしょ」
「はあ……今日だけだぞ」
「やったー」
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「お邪魔します。これ、よかったらどうぞ」
丁寧に頭を下げ、高そうなお菓子を差し出す紫苑。
「あら、いいの? ありがとう」
「いえ、突然来てしまってごめんなさい」
完璧な対応。
「あなたが夜桜紫苑さんね。いつも話は聞いてるわ」
「ちょっ、紫乃さん!?」
顔が熱くなる。
紫苑も楽しそうに笑っている。
「ほら、部屋行くぞ」
「えーそんな急いで……まさかエッチ?」
「なわけねえだろ。いいから来い」
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「で、なんで住所知ってる?」
「全部知ってるよ、君のこと」
「いいから答えろ」
軽く頬を引っ張る。
「痛い痛い。付き人に調べてもらった」
「犯罪だろ」
「ひどいよ」
「ひどいのはお前だよ」
俺は大きくため息をつく。
「で? 何しに来た」
「察しがいいね。珍しく」
「帰れ」
「ひどいなあ」
「ひどくねえよ」
俺の必死さを見て、
笑い転げる紫苑。
こいつ絶対いつか痛い目見せる。
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「朔夜君、ちょっと外出てて」
「は?」
「本物、見せてあげるって言ったでしょ?」
「……ああ、あれか」
「いいから」
そのまま部屋を追い出される。
「なんで俺の部屋なのに……」
渋々出ていく俺。
「どうしたの?」
お菓子と飲み物を持った紫乃さんがちょうど2階にやって来る。
「いや、ちょっとな」
「まさか喧嘩?」
「違うって」
「紫苑ちゃん、いい子よ。手放しちゃダメ」
「いやそれはない」
俺はすぐさま突っ込んだ。
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「朔夜君、いいよ」
部屋に戻る。
「遅えよ――」
「じゃーん。どう?」
「……は?」
言葉が出ない。
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黒のバニーガール衣装。
身体に沿う光沢のある生地、白いカフスと首元のリボン。
網タイツ越しに伸びる脚、揺れる小さなうさ耳。
さっきまでとは別人のような、艶やかな空気。
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「似合ってる?」
「……似合ってる」
それしか言えなかった。
「ご褒美だよ。朔夜君頑張ったからね」
「……そうか」
心臓がうるさい。
直視できない。
どうにかなりそうだ。
「そんなに見られると、こっちも恥ずかしいんだけど」
紫苑がらしくなく、恥ずかしそうにもじもじしている。
「……めちゃくちゃ似合ってる。ありがとな」
「え……」
珍しく、紫苑が言葉に詰まる。
暫く見つめ合う二人。
「これ、君にしか見せてないからね」
「……そ、そうかよ」
「もうちょっと見たい?」
「いいから着替えろ」
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少しの沈黙。
お互いに視線を逸らす。
いつもの余裕は、どこにもなかった。
「写真、撮る?」
「いらねえ!」
思わず大声で拒絶した。
本音は欲しかったが。
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だが。
今日という日は、まだ終わらない。
――むしろここからが本番だった。




