第11話 コスプレ大会後編
「なあ、遅くね?」
「遅えな」
「まさか逃げたんじゃ?」
「さすがにそれはねえだろ」
教会の会場。
清楚系美少女(俺)と執事という謎の組み合わせで、注目を浴びながら紫苑を待つ。
「嫌なら断ればよかったんじゃねえの?」
「最もだが、脅されてる」
「まじかよ……前のストーカーって夜桜か?」
「他に誰がいる」
レイナは肩をすくめて笑う。
「でもさ、楽しそうじゃん」
「は? 女装は楽しくないが」
「ちげえよ、鈍感野郎」
何で怒られてるんだ俺は。
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「やあやあ、お待たせ」
「遅えよ──」
振り向く。
「……は?」
予想外だった。
「なんでそんな格好なんだよ!」
「コスプレ大会だからだよ」
首を傾げる紫苑。
全身を覆う黒い悪魔装束。
角付きフードに仮面。素顔は完全に隠れている。
「一人だけ露出ゼロとかズルいだろ!」
「コスプレはエロだけじゃないんだよ、アージェント君」
「なんで憐れまれなきゃいけねえんだ」
「ふっ、坊やだね」
「死ね」
――でも。
内心、少しだけ安心していた。
誰にも見せないで済んだことに。
そんな自分を、すぐ否定したくなる。
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「で、その格好で優勝できんのか?」
「三人いれば確率は上がるでしょ」
「優勝狙いかよ……」
「ちなみに賞品はレアアバターだよ。神聖系らしいね」
「へえ」
まあ予想通りだ。
「二人とも似合ってるし、この勢いのまま優勝しようか」
「勢いどこだよ」
「君は鈍感だからね」
「は?」
またそれか。
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「では――第三回コスプレ大会、開始します!」
壇上に司会のAIが現れる。
「一人15秒のパフォーマンスで審査します」
横を見ると、いつの間にか審査員が鎮座していた。
「いつ来たんだよ……」
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「楽しみだねアージェント君」
「その顔やめろ」
「もうよだれが」
「変態か」
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「では次、スカーレットノイズさん!」
レイナが堂々と登壇する。
完璧な執事。
性別を忘れるレベルでキマっていた。
会場が沸く。
「いいね、いいよ!」
「なんでお前が興奮してんだよ」
「コスプレは興奮するものだよ」
「一般論にするな」
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「楽しかったわ、意外と」
戻ってきたレイナが笑う。
「かっこよすぎだろ」
「私女だけどな?」
「褒めてるんだが」
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「……次、アージェント君」
「紫苑」
「パンツ見せちゃダメだよ」
「死ね」
期待した俺が馬鹿だった。
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壇上に上がる。
「うわ、可愛い」
「レベル高っ」
視線が刺さる。
スカートを押さえながら、必死に15秒をやり切る。
「はあ……はあ……」
死ぬほど恥ずかしい。
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「最っ高だよアージェント君」
「近い! 離れろ!」
「可愛いよ、朔夜君」
「つっ──」
耳元で名前を囁かれる。
心臓が跳ねる。
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「安心して。私はいつもの君も好きだよ」
「何も安心できねえ」
「押し倒されるより、押したい派でしょ?」
「何の話だ!?」
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「じゃあ次は私だね」
紫苑が壇上へ上がる。
――その瞬間。
会場が、静まり返った。
「あれ?」
気まずい空気が流れる。
「頑張ったファントムローズ」
「何かムカつくね」
紫苑は珍しく不機嫌さを見せる。
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優勝者は――朱城レイナ。
審査員に刺さったらしい。
「まあ、妥当だな」
俺は肩をすくめる。
「やっぱり、アージェント君の魅力を理解できるのは私だけだね」
「いや、評価されなくて助かったわ」
「やれやれ仕方ないな」
紫苑が小さく笑う。
「あとで見せてあげる」
「何をだよ」
「本物」
「……は?」
意味深な一言を残して、彼女は背を向けた。
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こうして、コスプレ大会は幕を閉じた。
――だが。
このあと、俺の家で起こる出来事を、
この時の俺はまだ知らない。




