第8章 002 英雄であり魔王であり
解決までは時間の問題かと思われたところ、一人魔王城へとやってくる者がいた。貴族の者でクライカード生産工場の責任者である。
その者がやってきた理由は当然クライカードが絡んでいる。タートルはメイドたちにその者を通し謁見の間へ案内するよう指示した。
謁見の間へとたどり着いた貴族の者は魔王代理として玉座に座る倉間大和を見て頭を下げた。魔王の位置に座る者に対しても敬意があるようだ。
「話を伺おうか?」
「ぜひ聞いてもらいたいのですが」
今度はクライカード生産工場で働く者たちのことだった。クライカードを作って生活している者がいる。故にこのままだと仕事を失って生活ができなくなる者が出てくるというのだ。
大和は思った。……こんなところまでクライカードの影響があるのかと。
「そして、セイントカードの生産に変更しようという案が出ているのですが」
セイントカードの製造にすればいい。それは単純な案だがそんな簡単な話ではなかった。需要と供給がある。作りすぎても売れなければ意味がないのだ。セイントカードもクライカードもそのバランスによって販売されていた。
「だがクライカードを作り続けるわけにはいかない。女神フリイヤ、戦闘の神トオルにも忠告されただろう」
クライカードを手放すとは作ることすらなくしていくということ。作るという依存も手放していかないといけない。
〇
世の中はよくなっていくだろうか。大和は玉座の前であぐらをかきセイントカードのデッキを広げて眺めながら考えていた。これから世間ではカードゲームもセイントカードのみとなる。クライカードを見る機会もなくなっていくだろう。
大和は思った。また旅をしようと。女神フリイヤとタートルとホエールで。また楽しい時間がやってくる。
立ち上がりタートルに提案しようと魔王城を歩き回る大和。魔王城にはドラゴンの尻尾が生えた悪魔のメイドたちがいて、そのメイドたちにタートルの居場所を聞く。現在タートルはバルコニーにいるらしい。
バルコニーへ出るとそこには物憂げに浸るタートルの姿があった。大和は話しかける。
「クライカードによって争う必要はもうないんだ。自由気ままに旅をして物珍しいクライカード使っている人がいたらデュエルして洗礼をしていくんだ。以前のように旅をしようよ」
タートルは「楽しそうだな」と呟いた。
「だが申し訳ない。僕にはもう時間がないかもしれない」
「え?」
大和は時間がないというワードに冷や汗を流す。
「何が、時間がないんだ?」
「僕は天使といったけど、天使みたいなもので実際の天使とはまた違うんだ。天使の模造品みたいなものかな。天使は神の使いだから僕は本物の天使じゃない」
「どういうことだよ。それと時間がないって何が関係しているんだ?」
「クライカードが悪魔の力、セイントカードが女神や聖女の神聖な力、そして僕は魔王様の力によって存在している。つまり僕は魔王様によって天使として召喚された、そういう転生者の身分なんだ」
魔王に召喚された存在。だが大和自身もそうだ。女神フリイヤに異世界に召喚された存在。似たような存在だったのだ。
「魔王様はもういない僕もいつまでここにいられるか分からない。そしてここにいるみんな同じことさ」
黒騎士たちや悪魔のメイドたち。それは即ち全員異世界転生させられた存在だった。悪魔たちも元は人間だった可能性が高い。
「僕のように役職が天使の者もいる。そしておそらく悪魔も役職さ。僕たちは魔王様によって転生された者。でも、魔王様の力は魔王様が亡くられたことで失ってしまった。もしかしたら元の世界に戻ることになるかもしれない」
確かに白い召喚板も女神の力や聖女や天使の力で召喚される。その力がなければ召喚できない。実体化ができないのだ。
「俺が、魔王を倒したから……」
タートルは「気に病まないでほしい」と伝える。
「一緒に旅ができて楽しかったのは僕も同じさ」




