第5章 001 砂クジラの少女
町の小売店デビルメイトは名前が変わりローキンとなった。ローキという店長の名前をいじった店舗名なのだろう。
何がともあれこれでクライカードがこの店で販売されることはもうなくなるだろう。
そんな安心感を覚えながら町を歩いていると黒い鎧の騎士たちが目に入った。まさにタートルが以前していた恰好だ。黒騎士ということは魔王の騎士ということとなる。そんな黒騎士3人が何やら手押し台車に檻を乗せて歩いているのだが、中には少女らしき影があった。
俺は横にいるタートルに「おい」と声をかけてあれは何なのか問うた。
「おそらく魔物の類だろう。捕まえて魔王軍に加えるつもりなのかもしれない」
「人間の女の子に見えるんだが?」
その疑問にはフリイヤが答えた。
「砂クジラかもしれないわね。砂クジラは人間に化けるのよ。檻に入れられているのはかわいそうだけど、あなたの元いた世界でも動物は檻に入れられていたはずよ」
かわいそうだけどと言いながら人間の姿をしているものが檻に入れられているのを前にして、淡々と話す様子には文化の違いの恐ろしさを感じざるをえない。
「そうは言っても見過ごせない。俺は……」
女神フリイヤは「勇者だから?」と聞いてくる。
「そう、勇者だから。見過ごしたくない」
このやりきれない思いに賛同したのはタートルだった。
「いいだろう。逃がしてあげるんだな」
伝わるように大和は言い直す。
「お父さんとお母さんのところに帰してあげたい。わかるだろ?」
タートルは問うた。
「強奪の覚悟はできているか?」
〇
強奪という言い方には賛同できない。誘拐され監禁されている女の子を助けようというだけなのに言葉選びが乱暴だと思う大和だった。
タートルは黒騎士たちに歩み寄り「砂クジラを捕まえたのか?」と問う。
「そういうお前は誰だ?」
黒騎士どもに怪しまれているタートル。それもそのはず彼はもう黒い鎧を身に着けていない。同業者だとは思われていないのだろう。
「僕の名前はタートル・アール。同じ魔王様に仕える黒き騎士だ」
だが怪しまれたままだ。やはり話し合いというのは無理があると思われる。
しかし同業者と思われていないタートル本人はそれがたいそう気に入らなかったらしく相手の鎧に掴みかかってしまった。
「おい貴様らその黒い鎧を僕も着ないと分からないのか?!」
黒い鎧の騎士たちは口を揃えて言い放った。
「「「分かんねえよ!!!」」」
これにはまいってしまったようでタートルは無言のまま檻の方に歩み寄り手をかけた。
「確かにかわいそうだな。こんな檻に入れられているのは。このままどこへ行くのだ?」
「お前みたいな怪しい奴に言う訳ねえだろ」
このままではタートルの怒りが我慢ならなくなってしまう。
タートルは白い召喚板を構えた。
「大和、デュエルだ。デュエルしかない。この状況は」




