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第1章 セイントカードとクライカード

 倉間大和の異世界転移を導いたのは女神フリイヤという美しくも華奢な体をした超常的な存在。異世界転移という異世界召喚で彼を必要とする理由はカードでしか救えない異世界を救うため。大和が異世界へ転移した事情は異世界転移以前にカードコレクターであったこと、そして店舗のカード大会で優勝をした経験からだった。

 カードゲームは得意で趣味である彼がこの異世界グランドジービアには必要だった。

 女神フリイヤは彼が異世界でのカードゲームセイントカード大会で優勝したのも計算済みでこの結果になることは始まる前から分かりきっていたこと。

 そして大会優勝者へ贈与されるカードが大和へと渡される。

 ――セイントドッグガール。の公式イラスト違いとされている品。犬のコスチュームをした美少女のイラストだ。

 チュートリアルも終わったところでこれから大和の大仕事また人生が始まる。29歳となった年齢でカードゲームセイントカードで世界を救う役割を果たしていくこととなる。


      〇


 異世界グランドジービアを救う大和の旅路の先には魔王を倒す使命があった。そのため度々命を狙われることも多かった。魔王の手先である悪魔に心を蝕まれた者もいて、その度にセイントカードのカードゲームで女神の力により浄化していく。

 大会が終わり魔王討伐というボス戦へ向けた旅が始まった。ここから始まる旅は新幹線もタクシーもない。異世界都合の徒歩か馬車や牛舎に頼る形となる。

 チュートリアルを終了した大和と女神フリイヤは大会を終えた後、馬車に乗る手筈を整え、出発までの間にデッキのカードを組み直したり調整したりしていた。特に大和としては優勝賞品のセイントドッグガールは使いたいところだ。


      〇


 馬車に揺られて旅をしていく中で偶々一緒に乗り合わせた中年の男性乗客が嘔吐し発狂した。悪魔憑きだ。

悪魔憑きは突如大和の首を絞めつける。

「今、俺のこと馬鹿にして笑っただろ!!」

 叫びの内容は妄想による発言だ。

 大和は馬車の扉を開けて首を絞めつける乗客とともに転がり落ちると発狂した男性を突き放し、腕に装着してある白い召喚板と呼ばれる女神の力でセイントカードを現実に召喚することができる特別な板を構え、腰に着けていたデッキケースから40枚のカードの束を召喚板のデッキをはめる箇所に装填した。40枚のカードが自動でシャッフルされ召喚板に装着された魔法石が光る。

「デュエルだ!」

 突き飛ばされた男性は顔面に胃液が張り付いたまま悪魔の力を宿した黒い召喚板を構え40枚のデッキを装填した。カードは自動でシャッフルされ魔法石が光る。

「……デュエル」

 お互いに戦う意思を表す「デュエル」というワードがカードゲームのはじまりを告げる。二人はデッキから初手の手札となる4枚のカードを引き抜く。


※現在のデッキ枚数。悪魔憑きのデッキ枚数36。大和のデッキ枚数36。


      〇


 デュエルという掛け合いからカードゲームが始まる。襲った側の悪魔に操られた男性が先手を表したこととなり、男性からとなる。

「俺のターン」

 男はデッキからカードを1枚引き手札に加え思考する間もなく1枚のカードを黒い板の召喚板に配置した。

「クライ狸を召喚」

 悪魔の力により目が赤い狸が実体化され召喚される。クライ狸のコストは3。デッキから三枚のカードがデッキ右側の休憩エリアへ自動で流れるように運ばれていく。


※現在のデッキ枚数。悪魔憑きのデッキ枚数32。大和のデッキ枚数36。


 女神の力を受け実体化されるカードは主にセイントカード、悪魔の力を受けて実体化するカードはクライカードと呼ばれる。

「これで俺はターン終了」

 このように自分が動くターンを交互に繰り返して戦うこととなる。

 ターン終了の合図とともに次は大和のターンがやってくる。

「俺のターン。ドロー」

 カードを1枚引くと魔法石が光りエンジンのような音が鳴り回転する。

「俺は柴犬鎧まるいちを召喚」

 柴犬鎧まるいちはコストが3でデッキの上から三枚が休憩エリアへと運ばれていく。


※現在のデッキ枚数。悪魔憑きのデッキ枚数32。大和のデッキ枚数32。


「さらに柴犬鎧まるいちの能力でデッキから犬カードもしくはドッグカードを手札に加えるか召喚ができる。俺が手札に加えるのはジャーマンシェパード鎧ララ」

 手札に加えるを選択し召喚はしなかった。これも大和の戦略である。ジャーマンシェパード鎧ララの能力が手札から発動するという理由から。

 現状だけ見ると出ているカードがどちらもコストが3のためこのままだと相打ちになってしまう状況となっている。

「ターンエンド」

 大和がターンの終了を宣言した途端に目の赤いクライ狸が不気味な笑みを浮かべた。同時に悪魔に取りつかれた男性も笑みを浮かべてデッキからカードを選択するしぐさ。

 馬車から降りていた女神フリイヤは大和に助言の言葉を投げた。

「クライ狸は相手のターンで動く習性があります。自分のターンで片づけておくのが賢明です」

「分かっているよ。けどこのターンで無理だった」

 大和とのやり取りをしている間にもクライ狸の体がもこもこ膨らんでいく。男性がデッキからカードを選び取り召喚板のクライ狸に重ねて新たなクライカードを召喚した。

「変幻召喚。クライ大狸」

 飲食店の置物のような巨大な化け物狸が現れる。クライ大狸のコストは5だが、クライ狸の能力でそのコストの差分の2枚のみ休憩エリアへ送る形となる。

 このようにカードの中には変幻召喚という方法でのみ召喚できるカードが存在している。


※現在のデッキ枚数。悪魔憑きのデッキ枚数30。大和のデッキ枚数32。


 女神フリイヤは「これは相打ちの方がよかったのでは?」と大和に口出しするが、大和は「大丈夫だからさあ」と相手の戦略に脅威を感じていない。


      〇


 悪魔に取りつかれた男性の2ターン目が始まる。

 現在カードゲームの戦場となるフィールドには悪魔憑きの男にクライ大狸コスト5が一体、大和の場に柴犬鎧まるいちコスト3が一体。

 男はカードを1枚デッキから引き抜いて宣言する。

「クライ大狸でそのちっこい犬に攻撃!」

「させないんだな! 手札からジャーマンシェパード鎧ララの攻撃された時の能力を発動。このカードを召喚して、攻撃指定を変更。このジェーマンシェパード鎧ララに攻撃することになる」

「なんだと?!」

 クライ大狸が突如召喚されたジャーマンシェパード鎧ララへと向かい、大和のデッキからジャーマンシェパード鎧ララ分のカード召喚コスト5枚が休憩エリアへと運ばれる。

「さらにジャーマンシェパード鎧ララの能力。このカードが能力によって召喚された場合このターンの戦闘でやられたとしても休憩エリアに送られることはない」

 つまり相打ちになったとしてもジャーマンシェパード鎧ララは場に残るということだ。

 クライ大狸の攻撃はジャーマンシェパード鎧ララの鎧に弾き返され、黒い召喚板ではカードが休憩エリアへと運ばれていく。召喚され実体化していたクライ大狸は体が粒子化し消えていった。

 悪魔憑きの男は悔しそうな顔をしコスト3のクライ狐を召喚しターンを終えた。クライ狐も同じく赤い目だ。


※現在のデッキ枚数。悪魔憑きのデッキ枚数26。大和のデッキ枚数27。


      〇


 大和は女神フリイヤに対して笑みを浮かべて「ほら、大丈夫だったろ!」と言い自分のターンの始まりを告げるデッキからカードを1枚抜く動作をする。

「ドロー、さらに」

 手札からセイントガールドッグを相手に見せる。

「このカードを柴犬鎧まるいちに重ねて変幻召喚! 来い! セイントドッグガール!」

 柴犬鎧まるいちはわんわん駆け回りその身を変幻させていく。犬の耳や尻尾は生えたまま身は鎧を纏った美少女へと変わった。

「これがセイントドッグガールだ!」

 セイントドッグガールのコストは9だが、柴犬鎧まるいちの能力でこのカードを使って変幻召喚をする場合、召喚コストはかからない。つまり莫大なコスト9が柴犬鎧まるいちによってコストなしで召喚されたのだった。


※現在のデッキ枚数。悪魔憑きのデッキ枚数26。大和のデッキ枚数27。


「勝利の瞬間は始まっている」

 大和は「でしょ?」と女神フリイヤに振り返って調子づいたテンションで問う。悪魔に憑かれた男に襲われたことで心配していたようだが、心配は無用な様子だ。

「セイントドッグガールの効果で、自分のフィールドの犬またはドッグの数、相手のフィールドのカードを手札に戻すことができる」

 セイントドッグガールが手のひらをクライ狐へと向け、明るく輝く手のひらから暖かい粒子が降りかかる。クライ狐はフィールドから消えていった。悪魔憑きの男は何度もクライ狐のカードを黒い召喚板に配置し直すも召喚されない。これはセイントドッグガールの能力によるものでカードゲームのルールでクライ狐は手札に戻った証明になる。

「き、きたねえ」

 吐いて顔面に胃液がついた状態の悪魔憑きに小言を言われむっとする大和であるが、そのまま攻撃態勢に入る。

「俺はセイントドッグガールにボーンソードを装備させる」

 アイテムカードは召喚板の聖獣のカードの下部に配置することにより効果を発揮できる。セイントドッグガールの下にボーンソードコスト1を配置することでデッキから自動でコスト分のカードが1枚休憩エリアへと運ばれていく。


※現在のデッキ枚数。悪魔憑きのデッキ枚数26。大和のデッキ枚数26。


「コストは1だが、このカードは装備したセイントカードのコストを3上げることになる」

 つまりセイントドッグガールのコスト9に対しプラス3が追加されコストが12となる。高コストの聖獣を立ててしまえばなかなか勝負をひっくり返すのは難しい。

「いけ! セイントドッグガールで攻撃! 続けてジャーマンシェパード鎧ララで攻撃!」

「うわあああああああああああ!」

 セイントドッグガールの物理攻撃とジャーマンシェパード鎧ララの突進を受けた悪魔憑きの男は後方に吹き飛ばされ黒い召喚板に装填されたデッキのカードが波のように休憩エリアに流れていった。


※現在のデッキ枚数。悪魔憑きのデッキ枚数9。大和のデッキ枚数26。


「俺はこれでターンエンド。次はあんたの番だ」


      〇


 もう勝負が決まってしまっているように見えるが、悪魔憑きの男はまだあきらめていなかった。

「勝ったと思ってんだろ?」

 大和は「ああ思っている」と正直に返す。

「まだ負けてねえからな。俺のターンドロー」


※現在のデッキ枚数。悪魔憑きのデッキ枚数8。大和のデッキ枚数26。


 ターンの始まりにカードを1枚引いたことで残るライフとなる枚数は8枚となってしまった。

「俺はクライ女狐を召喚」

 クライ女狐のコストは6。召喚コストとして休憩エリアへと6枚のカードがデッキから流れ運ばれていく。


※現在のデッキ枚数。悪魔憑きのデッキ枚数2。大和のデッキ枚数26。


「覚えておけ。カードの中には呪いを残せる奴がいるってことを」

胸につっかえるような捨て台詞が吐かれこの瞬間女神フリイヤは縦になるように大和の前に立ち塞がった。

「あんたが悪魔に憑かれているとしても呪いを勇者に残すことは私が許さない」

 大和に下がるように指示して両手の親指と人差し指で窓を作り怪しいクライ女狐を見るとその呪いの正体が明らかになった。

「こっくりさんね」

 攻撃すると呪われるならばだ。このままカードを引いて勝負がつくまで待てばいい。

「大和、攻撃すると呪われかねないわ。呪いって根性ひん曲がった奴が使うもんだから攻撃しないことよ」

「そうか、脅しか。いい勝負だったのに。残念なデュエルになってしまった。……俺のターンだな。ドロー」

 自分のターンに変わりカードをデッキから1枚引く。


※現在のデッキ枚数。悪魔憑きのデッキ枚数2。大和のデッキ枚数25。


 このままターンの始めにカードを1枚ずつ引き合い、悪魔憑きの男のデッキ枚数が0となり、大和の勝利となるのだった。


      〇


 魔王の配下である悪魔に憑かれた者はクライカードを使うようになる。そしてクライカードの中には呪いをかけたり残したりする極悪な所業を働くカードも存在する。クライカードを使う者はただちに浄化し、健全なセイントカードを使うように導くのも勇者の仕事でもあった。

 呪っても勝つとか、呪われても勝つは正気の沙汰じゃない。

魔王を倒せばクライカードもなくなることになる。だから勇者は旅をしなければならなかった。


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