【88】ザハル再婚計画【後】
因みに今回の回は重いです。
重いのですが綺麗事で済ませれる内容じゃないのです。
何度か読んで頂けると、2人の心情が解ると思います。
即解りした人は天才!
紅葉もちらほらと散見できる少し肌寒い季節。
2人は里より少し離れた山へ向かっていた。
「もうこんな季節になったのね。
少し寒くなってきたわね。あんた大丈夫?」
「それはこっちの台詞だ。なに?そのヘソ出しとミニスカ。ほらよ」
ザハルはそう言うと自身の羽織っていた上着を頭から被せた。
「うぷ。ちょ!何すんのよ!」
「見てるこっちが寒いんだよ。着たくないなら捨てとけ」
セリーナは少し下唇を噛み照れを隠し何も言わず服を羽織る。
「寒くねーか?」
「うん。意外と気が利くじゃない」
「そうか。ありがとよ。
寒くねーならなによりだ。お嬢さん」
「あんたより年上ですけどね」
「そういう意味じゃなくてだな。
はぁ……まぁどっちでもいいわ」
セリーナは少し躊躇いながらも、解決しておきたい疑問などを質問することにした。
「あのさ……話したくなかったら話さなくていいんだけどさ、あんたの奥さん、レーニアって人の事を教えて欲しい」
「何が知りたいんだ?」
「1国の王であり勇者だったとしか知らない。あとは、あんたが唯一愛した女性だったって事くらいで、他は何も知らない」
「そこまで知ってるなら他に知りたい事ってなくないか?」
「違うの。そうじゃなくて……ヒューマンとの関係性を絶って数十年経過してるにも関わらず、未だ苦しんでるみたいだから」
「そこはお前と同じとも言えるのではないか?」
ザハルはセリーナの顔を数秒見つめたあとに橋まで移動し滝が降りてくる景色を見つめながら話し出した。
「理屈じゃないんだよな、お互い。
頭じゃ、とうの昔に理解している。
それでもあの子が死んだ日、時間になると毎回強烈に思い出す。
俺の場合は死に至るまでの瞬間映像を」
「助けれなかった時のこと?」
「そう。明らかに魔王より俺の方が強い。にも関わらず、世界の真理により魔王は勇者、勇者は魔王でしか殺せない。
どんなに削っても殺せない。結局は直接対決するしかないのだが、レーニアのレベルではどんなに削られた魔王でも、良くて相打ちだった。
つまりレーニアの死は確定していたのだ」
「そんな事って……」
「そうだね。救いはない」
「そもそも魔物の方がレベル上限が大きいし、ヒューマンには圧倒的に不利じゃない!?」
「そこなんだよ。真理そのものを変えなければ負の連鎖は永遠に続く。別にヒューマンを助けたい訳ではない。力の均衡がこうも大きく崩れた状態では勇者が負けたとき、ヒューマンは蹂躙されるだけになる。あの時は俺が居たから蹂躙されなかったが……」
「世界の真理……」
「まぁセリーナには関係ない話だよな。
レーニアの話をする上で、この話は必要だと思って伝えたに過ぎないから、気にしなくていい」
「気にするに決まってるじゃない!
何よ!その理不尽!
レーニアの努力は!?レーニアの命は!?全部無駄だって突きつけられてるみたいじゃない!」
泣き怒りながら話すセリーナ。
ザハルはかなり驚いた。
セリーナがレーニアの不毛な宿命を憂い激怒したことに。
同時にザハルは涙した。
何となくレーニアが救われたような気がしてならなかった。
「ちょ!何で泣いてんのよ」
「分からねーけど止まらないんだよ。
というか泣いてるのはお前もじゃねーか」
「ザハル……話してくれてありがとう。
あんた相当重荷を詰め込んでたのね……」
「セリーナ、少し時間をくれないか?
話をしたい相手が地上で眠ってる」
「勿論よ。行ってあげて」
「戻ってきたら、絶対に話さなければならないことを君に……セリーナに話す」
「うん。待ってるわ」
ザハルはそう言い残し、マイムの所に戻り理由を告げ1人地上へ戻った。
場所は勿論、レーニアの眠る墓である。
「久しぶりレーニア。
凄い言いにくいのだがね、俺……ある女性と再婚しようかと思ってる。
初めてだったんだ。レーニアの不毛な宿命に対して、本気で怒って泣いてくれた魔物側の相手が。
種族は古代種のヴァンパイアなんだよ。
俺も今じゃヴァンパイア種になってるんだけどね。
………………
…………
……
本当に君と過ごせた時間は大切な宝物だ。
幸せだったよ。ありがとうね。
昔レーニアが言ってくれたように、俺も前に進んでみようかと思う。
また話には来るけど、1つの区切りみたいなものかな。
レーニア……俺、行ってくる。
バイバイ」
いつもはレーニアと話すとき暗い顔のザハル。
しかし今回は何処か吹っ切れたようにも思えるほど、爽やかな表情にも思えた。
ザハルはその足で里に戻り、セリーナの元へ向かった。
「ザハル、戻ったのね」
「たった今ね。セリーナ、少し話せるか?」
「うん」
「俺達って敵は共通だよな?」
「そうなるわね」
「お互いのことは殆ど知らないよな?」
「うん。残念ながらね」
「形式上は同盟のための婚姻だしお互いのことをあまり知らない。
だけど俺は結婚して徐々に知っていくのもいいと思ってる。
セリーナはどう思ってる?」
「私も同じ。失った相手や傷も忘れることはないけど、同じ痛みを抱え同じ敵を持つ。
貴方と同じ道を歩みながら2人にとって最善を模索したい」
「ありがとう、セリーナ。
ノクターン家8代目当主、セリーナ・ノクターン殿。
今では名字すら持たない男ではあるが、私と結婚して頂きたい。
色々な画策が動いてはいるようだが、俺の思いは1つだ。
君と共に歩みたい」
「お受け致します。
嬉しい……ありがとう、ザハル」
「して、俺は名字をどうすべきか。
婿になっていい?」
「いいわよ」
「かるっ!」
「仕方ないじゃない。
ふふふ。よろしくね、お婿さん」
「う、うん」
2人は照れを隠すことなく大いに恥じらう。
そっと手を繋ぎ幸せを噛みしめていた。
傷は消えずとも新たな道を歩み始めたザハルとセリーナ。
今回の結婚でザハルは遂に生涯の伴侶を得たのであった。
セリーナ・ノクターンとザハル・ノクターン。
オスクリダドにしても強力な仲間とバックアップ種族を得たのである。
2人が手を繋ぎ戻ってきたとき、姉のエリンとマイムはハイタッチし喜びを分かち合った。
情報は直ぐにエコーへ伝達され、エコーとキアはガッツポーズをしたのであった。
「ねぇザハル。私にレーニアさんを紹介してくれない?」
「ああ、勿論だ」
ザハルは笑顔で返答したのであった。
今回の回は私が実際に追体験しPTSDと戦っていまして、その感情をザハルに重ねて書いてます。
その時の感情を表現として表すのに苦労して時間を費やしてしまいました。
お待たせして申し訳なかったです。




