【87】ザハル再婚計画【前】
繰り返しザハルは力の制御を行っていた。
来る日も来る日も。
どれだけの月日が経過しただろう。
未だ制御の糸口すら掴めてなかったザハルは自身への苛立ちを隠せなくなっていた。
「クソが!何が違うってんだ!何万回やっても毎回同じ所で消えやがる」
「少し休んだら?ザハルは昔から根を詰め過ぎなんだよ」
「今までこんなことはなかった」
「そうだね。イライラもしてると思うけど実の所、楽しくもなってるんじゃない?」
「あ、ああ。そうだね。コイツを制御できたときのことを考えたらと考えるだけで白飯3杯食える」
「ははは……本当にストイックだよね。
いや?ここまで行くと変態かも?」
「マイムさんや、可愛い見た目でサラッとディスるのやめてくれる?」
「え?ディスってないよ。褒め言葉」
「お、おう。そう言うならそういうことにしとく」(マイムって無自覚ディスラーだからな……)
悪戦苦闘をしているザハルを優しくも強い眼差しで見つめるセリーナ。
彼女が少し緊張した面持ちなのは、ザハルの気晴らしにヴァンパイア属に伝わる絶景癒しスポットへ連れ出そうとしているからである。
まったく……ウブすぎるだろ!
セリーナは今、タイミングを考えていた。
ザハルをアドバイスするタイミングではないよ。勿論お誘いの。
「こんなのどうやって誘うのよ……ねぇ姉上、教えて欲しいのだけど……姉上?」
エリンの居たところに貼り札があり
『大事なのは笑顔よ。
あとは気合いよ気合い!転んでも立ち上がるの。1歩進んで2歩下がりそうになったら歯を食いしばって3歩進みなさい。そうしたら辛かったことは笑い話になるわよ。
つまりは気合いと根性よ。
ファイト!愛する妹へ』
と書いてあった。
「いいこと言ってる風でただの根性論じゃないの!
時代錯誤にも程があるわよ!
でも何か吹っ切れたわ。姉を頼れないという事が分かっただけでも収穫としないとね。
いいわよ。行ったろうじゃんか!」
苛つくザハルの元へ遂にセリーナが動いた。
密かに見守っていたマイムとエリンは心から同じ事を思った。
″行ったーーー!!!″
「やり過ぎよ。今そんなに詰め込んでも結果は変わらないわ」
「ああ?うるせーよ。説教しに来ただけなら帰れ」
「説教なんてしないわよ。あんた古代種を舐めすぎよ。一朝一夕で習得できるわけないでしょう。
古代種で生まれても制御に苦労するのは至って普通よ。
貴方は確かに凄いわ。この短期間で沢山の力を制御できて。
でもね、たまには息抜きをしなさい」
ザハルは何かを言い返そうとしたが、体力が尽き膝から崩れ落ちる。
それを見たマイムが即座に回復を行い、ちゃんとした説教をマイムから受けることになった。
「皆ザハルのストイックさを心配してるんだよ。それに同盟種の長が心配してくれてるのに、あんな言い方はダメだよ」
「うるせー。アイツに心配される筋合いはない。本心では絶対に和解したくないと思ってる奴に、いちいち言われたくない」
「それはザハル、君の勘違いだよ。
もしずっとその考えしか抱けないなら、君の方がずっと幼いという事だ。
よく考え直してみな!」
これまでにもなくマイムは強い口調でザハルを諭す。
「俺は……誰よりも強くならなきゃいけないんだ。時間もそんなにない。魔王の種が生まれている以上、また繰り返すことになるかもしれない。
……レーニア……」
ザハルの後悔、懺悔、愛情。
あれから幾年の月日が流れても、ザハルの心から切り離されることはなかったのだ。
「毎日夢を見る。あの瞬間の夢を。
お前達に分かるか!?
目の前に居たんだ。魔王など優に凌駕する力を持ちながらも世界の理が原因で魔王を殺せない。あの状態まで削ってもレーニアが勝てる相手ではなかった」
「うん」
マイムも力無く寂しそうに返事をする。
マイムも鮮明に覚えている戦いだ。
やれる限り最大限の事をしても救えなかったザハルの痛み。
戦いに出る前に聞いたザハルの話。
それとレーニアの思い。
マイムは唯一知っている生き残り。
「なぁマイム……俺は、俺だけなぜ生きてるんだろう。レーニアも子供達も勿論両親も居ない。訳の分からない寿命の長さゆえにこれから数百年、数千年は確定的でレーニアに会えない」
「うん。生きている理由はさっき君が言った通りだよ。世界の理を変える事こそが君の使命だと思うよ。
それにね、今僕は少し嬉しいんだ」
「ん?」
「だって初めてこの件に関して本音を言ってくれたじゃない」
「まぁお前だからな。もし話すとしてもマイムかキアにしか話せない。変に気持ちは分かります。とか言われると今の俺なら殺す自信がある。だから話さなかった」
「それとね、綺麗事を抜きにしても君は何があっても生きなきゃならない。君に命を託して死んでいった者達を忘れたのかい?グリース。
アルコさん。
ベリーさん。
フィリックス王。
レーニア女王。
失った悲しみも多いけど託された思いも多いんじゃないの?」
「……」
「まだわから……」
「分かっている!全て!全て忘れた事なんてない!俺が八つ当たりしてるのも、全て分かっている!」
「分かっているなら……一緒に謝りに行こう。セリーナさんはここの長でザハルは訓練場と衣食住を提供して頂いてる立場だよ。心から憎んでいたら、ここまでの待遇をすると思うかい?
どんなに腹が立っていても敬意を示さないといけないんじゃないの?
いつも君が言ってることじゃないか」
「マイム……手を煩わせるが、その、なんだ……」
ザハルはモジモジしていた。
自分の行動を恥じ、反省したものの小っ恥ずかしに押し潰されそうだった。
マイムもそれを直ぐ悟り苦笑いで了承した。
「まったく……じゃあ一緒に行こう」
「う、うん。すまん」
「その代わりちゃんと謝ること。」
「うん」
「相手の申し出があったら誠心誠意受け止めること」
「うん」
「何があってもレーニアだったら怒らないし、何よりザハルの幸せしか願ってないから。それとも君の中のレーニアは妬む人だったかい?」
「違う。あいつは常に俺の幸せと子供達の安寧を願っていた。俺には過ぎた妻だった」
「本当に素晴らしい人だったよね。何で適当の化身たるザハルに惚れたのか未だに謎なんだよね」
「すげーいい話の所からでも切り込んでディスってくるお前が凄いよ」
「まぁまぁ。あのね、セリーナさんも同じような方だよ。まだザハルには分からないと思うし、レーニアと比べるなと反発するかも知れないけどね。
謝罪後に2人だけでしっかりと話してみな」
「分かった」
ザハルとマイムはセリーナの元へ。
マイムが寂しそうに拗ねてしまったセリーナに声をかけ、両者が近距離で初めて向き合った。
「話しってなによ」
「あ、うん」
「ザハル!」
「分かってるよ。
俺のことを考えてアドバイスしてくれたのに、不遜な態度で返してしまい、大変申し訳なかった。
心より反省をしている」
少しビックリした表情のセリーナ。
マイムが少し耳打ちし頷くセリーナ。
「了解した。長として謝罪を受け入れよう。
それで、あんた休息と言っても大して休息も取らないで、思い詰めるから少し私に付き合いなさい。
気持ちが楽になる場所に案内するわ」
「ああ。すまない」
こうして2人は初めて2人だけでお出掛けをする事になる。
景色を見るだけかもしれない。
話をするだけかもしれない。
しかし重要なのはそこじゃない。
今初めて2人が同じ道を進んでいることが何より重要なのである。
2人の姿が見えなくなり、エリンがマイムに近寄り労っていた。
「よくあそこからザハル殿を動かしたわね」
「全部分かっていても今一度分からせる必要があると思って、敢えて彼の傷に触れたんだよね。本当は凄く危険な行為だけど、ザハルみたいなタイプには逆にこうでもしないと、動かないから。
でも僕も疲れちゃった」
「ふふ。お疲れ様、スライムちゃん。
それにしてもザハル殿は本当に沢山の仲間や家族に恵まれているのね。セリーナも家族や仲間はいるけど、どこか寂しそうな時が多いのよね。
ザハル殿と結婚したらザハル殿の家族や仲間が皆セリーナを大切にしてもらえたら、彼女は本当の幸せを見つけれるわね」
「そこは安心していいよ。ザハルは最終的に自分が決めた判断にケチ付けられる事をとても嫌う。
なぜならそこに至るまでに近しい者には必ず相談してるからなんだ。
ケチ付けるならなぜその時言わないんだ?ってのがザハルの生き方だから、今回結ばれたら……いや違うね、僕たちが結ばせたら文句を言える者は誰も居ないよ」
「そうよね。私もヴァンパイア族にケチ付ける者が居たら灰にしてあげるわ」
「え、エリンさん……そっちキャラだったのね」
2人でどんな話をするのか。
ザハルの心中は?
セリーナの思いとは?
遂に大きく止まった時間が動き出す!
次回でここは終わらせます。
なんとか前編と後編で終わりそうです。
ちょっとしたお願いを言いますと、誤字脱字があったら教えて頂けると助かります。
何度も見返してはいるものの、自分が書いた物は案外見付からないもので……




