【86】エコー・シガレット(後)
「さて何からお伝えしようか。
そうだな、やはり元ジェンノ王国丞相として一言詫びを申し上げる。
義兄殿の件、大変申し訳なく思う」
「兄弟通して関わっていたとは忌まわしいことだ」
「忌まわしい?我々が関わるのは当然でしょう。事は魔王軍とヒューマン軍の生き残りを懸けた戦いですぞ。
誰もが命を懸け、全力でぶつかった結果です。戦のために多くの者を死なせたことに罪はないとは言いませんが、残念ながら戦争とはそういうものです」
「義兄上は心優しく戦意など皆無のヴァンパイアだった」
「それでも戦に参加した以上は、我々からすれば″魔物″であり、魔王軍として討ち滅ぼす相手でしかありません。
お気持ちは十二分に察しますが」
「大切な身内を突然殺された気持ちがお前達に分かるものか!」
「先ほどもお伝えしましたが、十二分に分かります」
「何がっ……!」
「私と兄上は、まだ幼きときに父と母を暗殺されました。同時にです。
兄上は当時の奥様が女王であり、勇者であった為に魔王との戦いで若くして戦死しています。私より兄上は貴方が抱く心の痛みをよく分かると思いますよ」
「何が言いたい」
「そうですね。不躾で大変失礼な発言になりますが、セリーナ殿、今少し素直になられたらいかがだろうか?」
「私はいつでも本音で語ってるわ」
「単刀直入に申し上げますが、私はセリーナ殿と兄ザハルは良縁だと考えております。お互いの傷を知り痛みを持つ。
しかしながら互いにその部分で許しは無く、歩み寄りでの同盟」
「それは……!」
「あのですね。本当に恨み合ってたら同盟なんてこの状況ではあり得ないんですよ。あり得たとしても一時の事で必ず数年以内に戦争が始まります。
だが貴方は違う。貴方はザハルという人となりを見て同盟締結をした。
これは大きく意味が異なります」
「でも……」
「そうですね。ご不安な気持ちは分かります。兄も兄であんな感じですからね。
ゆえにこの良縁を最高の形で納めるために、私やマイム、貴方の姉上であるエリン殿が協力致します。
同盟ではなく別の形で確固たる絆を深めるべきだと言う事を伝え、私の話を終わります」
「ザハルが信頼できる男だということは、理解出来てるわ。種族も同じ。貴方の言葉には納得できることしかないわ。
でもそれが愛に変わるか、これは別問題でしょ?」
マイムは首をかしげながら単純な回答を出す。
「それは誰でもそうなるんじゃない?
だからサポートや時間が存在するんじゃないのかな?
気持ちに嘘をつき隠し通すのは苦しいよ。解放してあげたらいいと思うよ。
セリーナさんは素敵な人だしザハルにはピッタリ。
僕には2人が寄り添って活きていく姿しか見えないんだけどなぁ」
セリーナは少し沈黙をし、少女のように頬を染め、とてもシンプルな問いをした。
「本当に……手伝ってくれるの?」
その問いにはエリン、エコー、マイムが同調して答えた。
「!勿論!」
画してザハル再婚計画が密かに始まったことをザハルは知るよしもなく、聖母のようなエリン、ザハルの大親友マイム、最強の頭脳エコーによる緻密な計画が練り上げられていくのであった。
表向きは外交上の同盟締結を以前結んだものより強固にしただけに見えるが、彼らからしてみれば寧ろこれがいいカモフラージュとしてザハルに伏せることが出来ると考えていた。
そして迅速にエコーは次の一手を打つ。
ザハルに外交上の理由とヴァンパイアの能力を定着させるために、暫く里に滞在するように促す。
マイムも一緒に滞在するようにし、セリーナのサポートにはエリン、ザハルのサポートにはマイムという関係を作り上げる。
ザハルもまた能力の為と言われれば断る理由がなく、エコーの提案を即時了承する。
「因みにいつまで居れば良いんだ?」
「勿論兄上がヴァンパイアの能力を完全に掌握できたら大丈夫ですよ。やはり古代種族の力ですから、苦労はすると先ほどセリーナ殿も仰っていました」
「そうか。マイム、付き合わせて悪いな」
「ん?全く問題ないよ。しっかりサポートするから安心してね」(違う意味だけど)
「エコー、その間オスクリダドを頼むな。バカばっかりだから苦労すると思うが」
「大丈夫ですよ。キア殿も居られますから。数ヶ月から年単位の時間を要しても問題ありません」
「ふっ……心強いな」
「兄上にこのような言い方は大変失礼とは存じますが……兄上、私を誰だかお忘れですか?」
「ははは。そうだったな」
「謀も問題ありませんよ」(申し訳ありません兄上……今がまさにそうなのです)
こうしてそれぞれに思惑がありながらも各キューピット達は位置に着き、指示者が生まれる形が完成したのであった。
エコーは兄ザハルとマイムを残し本拠に戻り、仲間達に事情を説明する。
「と、まぁ話は長くなりましたがある程度の時間は要するという事だけ、覚えておいて下さい」
因みにエコーが話した内容は能力定着のためと強固な同盟を維持するためと伝えたのである。
疑う余地のないもっともな理由に皆も納得する。
しかしエコーはキアだけには真実を伝えた。
「そうなのですね。主が……そうですね、私もその案には大賛成です。今後長く生きられる主には必要なプロセスであることは間違いないと思います。長寿同士、うん、その方が私も安心できます。ありがとうございます。エコー様」
「いえ、兄上ほどの人が人属との過去に引っ張られすぎるのは今後の兄上のためにもなりませんし、私達の活動にも支障を来すでしょう。
その点セリーナ殿との相性は抜群。結ばれれば必ずお互いに最大の相乗効果を生み続ける夫婦になれると確信しているのです」
「私もそう思います。私も何度計算をし直しても相性が250%という数値が変わりませんでした。何とか出来ないものかと、マイムと話していた矢先にエコー様の提案。私は心より賛同致します。
時折見せる主の悲しそうなお顔を拝見するのは、もう限界と思えるほど辛かったですから」
「普段は絶対に見せませんし、気取られる行動もしませんからね。マイムとも話して居たのですが、私達は気付いてしまうんですよね」
「レーニア殿と居た頃の主は常に幸せそうでしたが、レーニア殿が勇者だったこともあり、真に心を解放しているとは思えませんでした。しかしセリーナ殿であれば、その心配も皆無ですので、やっと本当の主の幸せが訪れると思うと強く安堵します」
「マイムも同じ事を言っていました。
何とか……いえ、必ず成功させますのでキア殿、バカ……いえ、私達の仲間たちを導いていきましょう」
「ええ。あ、それと言い直さなくていいですよ。あれらはバカですから」
と、海の方向を見ると吞気にバナナボートで戯れる牛、熊、ライオンが居た。
その光景を見たキアとエコーが呆れてしまったのは言うまでもなく、それに加え浜辺で筋トレに勤しんでいるロウガンと砂の城を作っては怪獣になりきって壊すを繰り返すケントも視界に入ったことで、キアはロウガンの元へ、エコーはケントの元へ行きゲンコツをしたことを追記しておこう。
エコーは考えていた。
全員バカだが冷静に考えたら、いや考えなくてもケントの行為が全く理解できなかった。
あれの何が楽しかったのだろうと。
ある意味、我が孫が1番バカかもしれないと頭を抱えたのは言うまでもない。
一方ヴァンパイアの村では、セリーナとエリンがザハルに力の使い方を教えていた。
「はぁはぁ……むじぃ」
「そう簡単にはいかないけど、まずは少しずつ現種と古代種の違いを理解していけば、ザハルであれば直ぐに飲み込めると思うぞ」
「もう一回だ」
「ふふ」(キャー!ザハルのそういう所が大好き)
エリンとマイムは思った。
あんためっちゃ好きやん……と。




