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74.不器用同士

 家に帰ると浮かない顔をしている四人がいた。

 話を聞くと元治おじさんからいろいろケアをしてもらったのは知っていたが、やはり心配でここに私が帰ってくるまでみんなでいようと思ったらしい。

 私はそれを聞いて『大丈夫ですよ、心配してくれてありがとうございます』と彼らが喜びそうな言葉を述べた。

 そして、元治おじさんから連絡が入った通り、ぼたんちゃんのことは操られていたため、その時の記憶がない。ということを守り、武藏さんには何も言わなかった。



 自室に戻ると一気にまったくもって自分勝手だと、憎悪が湧いた。自分と、奴らに。

 いつもの自分ならあははー、くそだなと思うくらいで済ませたのかもしれないけれど、今日はだめだ。一発あのおめでたい奴らを殴りたい。そして私自身も殴り飛ばしたい。

 今はできるだけあの人たちと話したくなくてあんなふうに返答したけど、大丈夫なはずがない。大丈夫だったらキリトの隣で目が腫れ上がってしまうくらい泣きじゃくったりしない。

 とりあえず気晴らしに枕をベットに投げつけてみた。

 だが、そんなことをしてもただ、いろんなものに対するみじめさが増量してしまっただけだった。


 私はため息を吐きながら今日のことを整理した。

 もう親のことは仕方がない。そうだったんだと言うことで片付けよう。でもピンクの髪のやつはダメだ。許さん。

 そして、ヒーロー側。

 元治おじさんのいる派閥は一応信用できる。

 でも、弥生閏らが属している派閥は信用はしてはいけない。敵だ敵。魔族という種族というだけで敵視し、中身を見ようともしない。だから今日みたいなことがおきる。

 もう二度とあんなことをおこしてたまるか。


 ……そういえば。源になれば、どのくらい私という存在を誤魔化せるのだろうか。

 危険でも、試さないと次に進まないよな。

 やらなければやられる。その状況は嫌でも知っている。

 もう、同じ過ちは繰り返さない。




 次の日、学校が終わり、勉強会が終わると笑顔の紀異さんに手を引かれてカルタカフェに連れていかれた。

 そして今、私の目の前にはおいしそうな丸いチョコレートケーキと綺麗な白が基調のティーカップに入った琥珀色の紅茶が並べられている。

 少し呆気にとられている私の隣にはそんなやつをまじまじと見てくるキイの姿。なんだこれ。え、何だこれ。


「食べて」


 彼女から優しい圧を感じた。

 これはどういうことなの、と惚けて聞くように私は首を傾げてみる動作をしてみる。


「これね、椿さんが出してくれるもので私が一番好きなやつなの」


「?」


「食べて。おいしいから。食べて」


 彼女は私にケーキと一緒に渡された細いフォークを持たせてくる。あ、これは拒否権なんてものはない奴だ。

 私はここで拒んでもなにもいいことはないので、素直にいただきますと言ってからケーキにすっとフォークを入れる。すると、パキパキと板状のチョコレートが中に入っていたのだろうか。それが割れる音が耳に入る。うお、この音は絶対おいしい。

 一口分をフォークに乗せ、それを口の中に運ぶと隣で彼女が安心したかのように笑った。

 そんなにこれが……いや、そうではないかもしれない。もしかしたら、あのどちらかに。


「……どう? おいしいでしょ」


 口内にビターなスポンジとクリームの中にある小さい粒の甘さが広がる。


「うん、おいしい」


 おいしい、とても。

 またケーキをパクリと口の中に入れる。そのおいしさに早く全てを食べてしまいそうになるけれど、早く食べた分だけそれの減る速度は速くなる。

 あたりまえだけれど、それが少し惜しいなと思えてしまった。


「凛和ちゃん」


「ん?」


 変なことを考えていたのがばれたのかと思い、内心焦る、が、そうではなかった。

 

「そんなに大事に食べないでも、おかわりはあるからね」


 そうではなかったけど、そんなにこれを私は大事そうに食べていたのだろうか。

 わからない、けれど、心当たりはある。

 

 少し恥ずかしくなりながら彼女にそれを悟られないように了承と感謝の言葉を伝えると、なぜか少し上機嫌なキイはうんうんと満足そうに頷いてから、マスターにもらった私と同じケーキを食べ始めた。その顔に幸せそうな笑顔が浮かぶ。

 おかわりはある、か。


 少し行儀が悪いけど、チョコレートだけをフォークですくって口に運ぶ。


「甘い」


 でも、この甘さは嫌ではない。

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― 新着の感想 ―
[一言] >『大丈夫ですよ、心配してくれてありがとうございます』と彼らが喜びそうな言葉を述べた。 凛和ちゃん大人だねえ……
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