75.みかたが変わってしまった
はあ。と隣にいる私と同じくらいの座高の高さをした少女が頭を抱えながら大きくため息をついた。
そんな彼女に私は慰めるように声をかけようとお思ったが、なんて言葉を出せばいいのわからず、その様子をただただ眺めるしかない。あの人がいたのなら、この状況を見て腹を抱えて笑っているのだろうな。
そんなことを考えていると、彼女の鈴の音のようなかわいらしい声が聞こえてきた。
「あの人たちが変わっているって知ってたけど、知ってたけどさぁ、ここまでとは知らなかったなぁ……」
それを聞いて私はやはりあはははと、愛想笑いにできない何かを顔に浮かび上がらせることしかできない。
彼女は今、義理の兄と幼馴染たちの現実を知って頭を悩ませている。その人間たちは少し歪んだ趣味を持っていた。趣味を持っているのはいいことなのだが、周りに迷惑をかけるのならば話は別だ。
そして、彼女はその他人に迷惑をかけているのをあることがきっかけでついさっき、知ってしまったそうだ。
さっきまであんなにおいしそうにケーキ食べてくれていたのになあ。何してくれるんだ。
でも、私もあの趣味の餌食になりそうなことあったからな。あれは本当に軽くトラウマ案件。キリト様いなかったら私少しの間真っ白になっていたと思う。いや、真っ黒か? 前世……というには微妙だけれど、そんな感じの時にもされたことはあるけどさ、ちょっとそういうのって嫌だよね。
「まあ、そういうことやってるってわかっただけでも軽く進歩じゃない?」
「キイさんはなんでそんなこと言えるの……」
「同じく被害を受けそうになったから」
「…………」
凛和ちゃんが目を見開く。
と同時にカウンターの机に向けていた体をぐるんと私の方に向けて勢いよく頭を下げた。
「私の仮だけど、兄と幼馴染の愚行をお許しください」
「凛和ちゃん」
「……何でしょうか」
思わず私の口から出てしまった溜息から凛和ちゃんは何かを察したらしく、私のに向けてきた顔は引きつっていた。
その行動が面白くて、くすりと私と私の目の前で何かを作っていた髑さん笑ってしまう。
私はその笑った顔のまま、彼女に告げる。
「そんなことでいちいち謝っていたらきりがないよ」
「もうヤダ、あのクソヒーロー」
凛和ちゃん一日で強くなったなあ。
私は項垂れている彼女をみながら、そんなことを思って笑った。
***
「何だったんだろうな。あの黒い和服の魔族」
台所に立って夕食で使った食器を洗っているとそんなことがリビングから聞こえてきた。
先日の一件でもうヒーローのことは私に隠さなくてもよいと思ったらしく、先ほどから今日あった任務のことをヒーローたちは堂々と私の視界に入る場所で振り返っている。
「初めて見ましたよね。でも俺たちには何も攻撃せずにただ自己防衛だけして逃げて行った感じでした」
「あー、そうね。でもいい感じのかわいい子だったからもっと食べたかった」
「お前本当にそれを街中でする勇気はなんなんだ?」
「いいじゃない別に。人除けはできているんだし」
「……私も、食べてみたかった」
「お前らなー」
そして聞こえる笑い声。
やばいやばい。話を聞いているだけでも鳥肌が止まらん。
怖い。恐怖。恐怖がそこにあるよ。
今日もなぜか収穫は多かった。大きく分けて二つ。
一つはあんなに怖かった、もしかしたら源になっている時に彼らと出くわしたら私だということがばれるのではないか案件。それが秒速で解決した。してしまった。結論だけ言う。バレなかった。
これは本当に堪える。
そして二つ目。彼らはとんでもねえ奴らだった。
小さい魔族見つけたら犯そうとしていたと今日知った。まじでお前ら魔族だったら天界に送ってるからな! ふざけんなよ。なんかわからない道具を投げられたら身動き取れなくなって、腕掴まれたと思ったら親指以外の手の指をなめられた。何だこれ。ばか。馬鹿なのか。地味に気持ち悪かったよ。それに服脱がせようとして……いや、上の着物は脱がされた。源の服って着物脱ぐと白のレースがついたワンピースが出てくるんだーなんて現実逃避で思ってしまった。
マジでクソです。それで肩噛んでくるとか何? 舐められたとか何? クソ吸血鬼がマシに見えてくるのマジで何? これ絶対タイツとブーツ履いてなかったら足舐められてた。
よくこれであの時ぼたんちゃん何もされずに済んだな。
今日の任務? みたいなやつはさっさと終わらすことができたのに。終わってからがとてもひどくて、カルタカフェに帰ってから小一時間くらい項垂れてしまった。申し訳ないことをしたと思ったが、仕方がないといってその店にいた魔族たちは慰めてくれた。
とてもありがたかった。
それにしても。なんだこ。あの一瞬で全てが虚無になった。あっ私、こんな人たちの助け待ってたんだー。ふーん。みたいな。そんな、そんな……。
「凛和ちゃん?」
「えっうわっ!? はい!?」
急に声をかけられて私は焦る。この声は武藏さんだ。
今回は皿を割らなかった。
武藏さん、あの時のまたやってるよみたいな顔忘れませんよ。
彼は私の慌てたような声にごめんねと一言添えた後、気遣うような表情を浮かべてきた。
「なんか嫌なことでもあった?」
すごくありました。
「え?」
だけれど私はそんなことないですよ。何でそう思ったんです? みたいな顔を浮かべる。
そしてその表情を見てくれた彼は頬を軽く触りながらはにかんだ。
「いや、なんかさ、凛和ちゃんの周りの空気がちょっと重いような気がしたから」
気のせいだったらごめんねとまた謝られた。
「別に謝られることじゃないですよ。でも、もしかしたらそうかもしれません」
「え?」
こんどは武藏さんが先ほどの私のような顔をしてくる。
本当に思っている人の反応ってこうするんだな。
そんなことを思いながら私は顔をしかめてみた。
「だって魔族、とはいえそれを食べたかったんて言っている人、普通に引きませんか……」
「あー、確かに……そうかもしれない」
この反応は慣れていて気付かなかったとでも言いたげなものだ。慣れるぐらいいつものことなのか。そうなのか。ますますあれだな。取り返しがつかない。
「でも、私は食べてみたかったです」
「え?」
武蔵さんが顔を傾げながら声がした方向を向くとそこには赤い髪の女性がいた。
その少女ははにかむ。
「いろんな味、知りたいので」
それに。と赤い髪の女性もとい、紅さんは言葉を続ける。
「魔族に人権なんてものはないでしょう?」
そんなことを言った彼女の顔からは感情は読み取れなかった。




