2020年x月30日
「姫子、あんた輪廻転生って信じるか?」
「なんだい毬亞、藪から棒に」
ここは都内の落ち着いた老舗喫茶店。
二人の老齢の婦人が、珈琲と洋菓子を前にそんな話題で盛り上がる。
ヒメコとマリアは女学院時代からの腐れ縁で、高度経済成長期からバブル期までを逞しく生き抜いた仲でもあった。
「いやあたしの孫娘がね、前世の旦那に会いたいんだとさ」
「へえ、マリアの孫っ子は濃姫かなんかかい?
さしずめ旦那が織田三郎信長でな、ケケケケ」
ヒメコは笑いながら冗談で返した。
が、しかし。
「ちょっと違うね、ヒメコ。
彼女曰く、その信長に焼かれた比叡山延暦寺の覚恕だって言うんだよ」
「……それ、本当かい?」
マリアが真剣で、しかも話が具体的であったため、ヒメコも真面目に向き合う事にした。
「どうもあの子、冗談で言ってるようには思えないんだよねえ。しかも、それが原因で周囲と壁を作ってる」
「そりゃまた穏やかじゃない話だね、ふうむ」
そう言って、ヒメコは考えこむ。
「そう思い込んでるのか、本当に前世の記憶持ちかはわからないけど。
ただマリア、無下にそれを否定するのは愚策だね」
「そうなんだよヒメコ。可哀想に両親や姉からも相手にされてなくて、今はうちで引き取ってる」
「そっか、それは良い事だ。マリアは歴史が大好きだもんねえ」
そう言ってヒメコは目を細める。
「確かマリアの旧姓が京極だったね、近江の戦国武将の血筋だっけ」
「そうだよ?って言うかヒメコの旦那の仙家もそうだったじゃないか」
「京極家に比べたら格下さ。うちの宿六(夫)は何の間違いか、今や大会社の会長なんぞをやってるけどね」
仙家は明治時代までは仙見家を名乗り、戦国武将の万見家の分派であった。
織田信長の小姓として様々な業務を担った万見重元が有名で、別名を仙千代。
この仙千代の子だか孫だかから仙見家を名乗ったらしいが、織田家臣の中では同じ小姓の森蘭丸が有名すぎて地味な存在である。
ちなみに親類には秀吉の家臣で、のちに追放された神子田正治がいる。
「そうだ、戦国を舞台にしたゲームをうちの宿六に作ってもらおうかねえ。
マリアの孫娘もきっと喜ぶだろうよ」
ヒメコの夫の経営する仙グループはゲーム事業も手がけており、最近はインターネットを使ったゲームにも力を入れていた。
「いやいや孫の皐月はまだ小学生だよ。そんな子供に遊べるかねえ?」
「だったら同じくらいの、うちの孫のアキラも遊べるレベルなら大丈夫さね」
かくして小学生でも遊べる、戦国時代を舞台にしたバーチャル対戦格闘ゲーム「戦国甲冑姫」が産声をあげる。
やがて、そこに二人の孫は当然の事、今川零という思わぬ人物がプレイヤーとして参加するのだが、それはまた別の話。




