2026年x月1日 AM10:00
あの人に、会える。
そう思うだけで私、喜多条皐月はドキがムネムネする。
……いや逆か、落ち着けわたし。
今頃は生徒会室で、生徒会長や他の役員と会っていることだろう。
でも、わたしはそこに顔を出さない。
多分他の生徒会の面々は、また皐月の気まぐれが始まったかと思っているのだろう。
失敬な、直接皆んなの前で会わない理由が少なくとも三つある。
まず一つ目。
わたしの「くーるびゅーてぃ」のイメージが崩れる。
あの人を前にして破顔する所など、万一にも他人に見られる訳にはいかない。
そして二つ目。
正直いうと、あの人に会うのが怖い。
記憶を失っているだけなら、まだ想定内だ。
わたしと同じ前世の記憶持ち、というご都合主義は期待していないし、それなら今頃わたしを探しにくるはずだし。
でももし好感度マイナスからのスタートだったら……
他の人達みたいに、あの人がわたしを拒絶するのは想像したくない。
最後に三つ目。
矛盾するようだけど、それでもわたしはあの人に仕掛けたい。馬鹿な事を言ってるなと呆れさせたい。
あの人が、困って苦笑する顔が見たいのだ。
渡り廊下に座ってあの人を待って、どれくらい経っただろう。
寒いし、お尻が痛くなってきた。
あとお腹もすいてきた。
……いくら何でも、遅すぎる。
文句の一つも言いたくなるが、準備して待っているのはわたしの勝手である。
まあ良い、こっちの世界に生まれてから16年、会えるのをずっと待っていたんだ。
今更二時間程度でジタバタ……あっ。
来た。あの人が来た。
理事長は大学生って言ってたけど、全然高校生で通用するくらいの童顔じゃないか。しかも前世よりイケメン度が上がってる気がするやばい。
いやいや落ち着け、前世のわたしは演技派女優だった。
わたしは心に壁を作り——演者モードに切り替わる。
「猿楽ぅ!?何とまたマニアックな」
あの人が背後で声をあげる。
よし、掴みはオッケー。
「うん、蒸し羊羹と踊る動画が好き。これは譲れない」
わたしは平然とそう答える。
「なるほど……あんたが喜多条の妹の方か」
姉と何を話したんだろう?
ちょっとだけ気になるが、わたしは言葉を続ける。
「何故わかった。ああそうか、あなたが今川焼きか」
「今川ゼロな」
ああ、なつかしいな。このやりとり。
このノリ、間違いなくあの人だ。
なら、もう一歩踏み込んでみるか。
「来るのは知ってたが、生徒会に行くのを忘れてた。失敬失敬」
「いやいいよ、ここで会えたし」
おい天然ジゴロか、こいつ。
かなり踏み込んだ発言に怒ると思ったら、逆に会えて嬉しいだと!?※嬉しいとは言ってません。
「心が広い人間は大成する。きっとあなたなら、宗教寺の代表も狙える」
もはや何を言ってるかわたしにも意味不明だが、嬉しくて思わずそう口にしていた。
「えっと……」
うん、流石に困った顔をしているなあ。
でも不快感は表に出てない。
あのいつもの困ったような、けど、どこか喜んでるような苦笑だ。
うん、その表情が見たかったんだ。
「お久しぶり、そしておかえり」
気づけばわたしは、思わずそう言ってしまった。
相手からすれば初対面なはずなのに。
「あ、ああ。ただいま?」
あの人は疑問系だ。
そうだよね。
この人は500年前のわたしを知らない、あるいは覚えてない。
それは少し寂しい。
けれどこの人の名前のように、ゼロから新しい関係を築いていけばいい。
そして前の人生より楽しくしてやる、そう思ったのだった。




