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転生したら覚恕なんだけどヤかれるのは御免です  作者: 咲原魁里@覚恕転生


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四十八、興行

 白拍子や女猿楽、女歌舞伎など、女性発祥の芸能は以外に多い。

 一説では遊女文化、女性が男性を楽しませて金銭を得る職業と結びついたからとも言われている。


 ただ現代では白拍子は衰退し、女猿楽と女歌舞伎は政治的な意向で中断を余儀なくされる。

 今の歌舞伎は男性が女性を兼ねるのが当たり前だが、あれは女性が演じると風紀を乱すと言う江戸幕府により禁じられたからだ。


 そんな訳で、今の時代は女性芸能の絶頂期とも言える。

 故にお金持ちであれば女性興行主の一人や二人存在してもおかしくはないが。


「覚恕君、今は衆道が流行りなのよ!」

 と鼻息荒く力説する目の前の海老名黄身どり、やっぱり別な意味でおかしい。


 十一歳の少年にボーイズラブを勧めるな。

 まさかこの時代で腐女子に出会うとは思わなかったよ。


 ちなみに海老名家は代々本願寺に縁があるようで、焼けた山科本願寺のそばに西宗(さいしゅうじ)寺と言うお寺がある。

 ここは法名浄乗(じょうじょう)、本名を海老名五郎左衛門信忠の起こした寺で、彼は浄土真宗本願寺派の八代目蓮如(れんにょ)の弟子でもある。

 以降西宗寺は代々海老名家の氏寺となり、同時に海老名家が代々焼けた本願寺跡地の管理を担ってきたと史実にはある。


 それはさておき。

 とにかく目の前のBLお姉さんに話を戻すが、彼女こそ今回四座を本願寺跡地に招こうと画策した元凶もとい仕掛け人であった。


「しかしキミドリどの、これだけ広い土地があれば喧嘩せずとも四座分の能楽堂は作れてしまいそうだが」


 何も一個の能楽堂を巡って喧嘩せずとも、と思ったのだが。


「ちっちっち、分かってないわね覚恕君は。まあ素人だから仕方ないか」

 とキミドリに妙に玄人面されてしまった。


「その場合、大通りに面した座が有利になってしまう。

 だから四座は一つの座に絞る事で客を独占したいのよ」


 なるほど、理屈は分かった。

 それなら一つ解決策を思いついたが、まだ内情が分かってないので黙っておこう。また素人扱いされるのも癪だし。


「ちなみに、ある筋から金剛(こんごう)座と金春(こんぱる)座の立ち位置を聞いた。

 座の舞台の設置と、一人の猿楽師の取り合いになってるとか」


「一人の猿楽師?

 ああそう言えば、覚恕君は幹ちゃんの恋人だったわねえ」


「違うが」


「そんな照れて否定しなくてもいいのに」


 断じて違うが。

 

 しかし幹ちゃんと呼ぶくらいにはキミドリは仲が良いのかもしれない。

 拙僧を初対面で君付けで呼ぶ時点で、そこも信用ならないが。


「まあいいわ、どこまで把握してるか分からないけどお姉さんが説明してあげる。

 まず四座はここの土地に自分の座を持つことと、優秀な女猿楽師である幹ちゃんの両方を欲しがってるのだけど、座によって温度差があるわね。

 

 金春座はとにかく場所が欲しい、

 金剛座は、幹ちゃん本人というよりは他の座に取られて座の人気が落ちてしまうのが嫌なので囲いたい。

 

 この二座に関しては積極的な裏工作で大原の芸能仲間の喜屋武出(きゃんでぃず)にも声をかけたようね」


 キミドリにも知られてるのか、きゃんでぃず。

 そう言えばこの間グループ名の入ったノボリを作ったと言ってたなあ。


「観世(かんぜ)座は幹ちゃんが派手な立ち回りをしたので座主が欲しがってるわね、長俊さんのお気に入りでもあるし」

 その経緯は幹本人から聞いた。


「残る宝生(ほうしょう)座だけど、ここが良くわからないのよね」


「……わからない?」


「うん、具体的にどうしたいのかの意図がいまいち見えない。一応今回勝利した結果の舞台と幹ちゃんは欲しいらしいのだけど」


 確か宝生座は能で有名な世阿弥(ぜあみ)の弟・蓮阿弥(れんあみ)が興した座と言われてる場所だな。

 後に能の流派の一つ宝生流となり、確か現代でも東京水道橋に宝生能楽堂がある。


「そういえば、勝敗の投票はどんな形で行われるのだ?」


「ああ、それね。今回武野新五郎さんが、すぽんさあ?になってくれるのだけど」

 

 出たよ、拙僧と知り合った商人は横文字使いたがる説。

 で、スポンサーになった新五郎が何を提案したって?


「観客に渡された“あた碁”を投票箱に入れて、その重さで競うんだって」


 爆笑オンエアバトルのキロバトル形式かよ!


 

 かくして四座の猿楽バトルは紅葉の御所、大原第の能楽堂にて行われた。

 良くこの場所が抑えられたな、さすが名プロモーターキミドリ。

 確かに足利将軍の引っ越し前は祭舞司(さまいのつかさ)という朝廷の舞踊部門という建前で借りていたし、今でも人数は少ないものの祭舞司の役人が働く場所として機能しているけども。


 しかし聞いた投票内容が少々気になったので、拙僧は兄で忍者の覚悟にその辺りを探らせた。


 さて四座の猿楽バトルは幹とキミドリの二人で最前列の特等席から見させてもらったが、女性二人の芸に対する目は厳しく、かなりのダメ出しをしていた。

 そのせいなのか何なのか、四座の披露が終わった際には二人はすっかり仲良しになっていた。


 さて、猿楽四座の演舞と投票が終わって重さの計量……となったのだが。

 宝生座が圧倒的な重さで優勝……と思われたが。


「待て、そのあた碁。調べさせてもらうぞ」

 と観世座当主の観世大夫。


「な、何を」

 と驚く宝生座当主の宝生大夫。


 あた碁は運河の馬借レース賭馬(とば)の景品としても使われており、本物には製造番号の刻印がある。

 しかし宝生座に投票されたあた碁には、それがない。

 しかも、こんな事もあろうかと用意しておいた天秤に乗せたら、明らかに偽物の方が重い。


「道理で宝生座が態度を表明しない訳ね、最初から不正で勝つつもりだったと」

 とキミドリは苦い顔をする。


「投票をやり直しますか?」

 と観世大夫。しかし。


「その必要はないわ」

 とキミドリ。

「覚恕君から、面白い提案を貰ったのよ」


 そう、それは複合映画館(シネコン)の能楽堂版。

 四つの舞台の入り口を一つにして、不公平感を無くす。

 それでも入り口からの距離で揉めるようなら、ローテーション式にしてしまう手もある。

 楽屋は隣接しているから、頑張れば幹が四座に顔を出すことも可能だ。その分彼女の負担も増えるのだが。


「大丈夫、将来覚恕が無職になっても養っていけるように今から稼ぐ」

 と、嬉しいような嬉しくないような発言をするのだった。

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