四十六、馬借
「調子はどうだ?」
拙僧は運河関所ゲート前の、馬借(馬の小口配送)の栗林米浴にそう尋ねる。
「気分で言うなら最悪ですよ、よりによってあの新五郎さんが”この米“に今回大金を賭けてるそうじゃないですか」
あーうん、そうだよなあ。
頑張ってくれとしか言えないけど。
さて大津から京都蹴上の運河開通から数ヶ月が経った。
開催当日は蹴上側で幹や吸の舞も含めた開通式で大いに盛り上がったが、別な意味でもこの場所が盛り上がっている。
半分は拙僧の趣味だが、馬借の関所通過自体を一つの娯楽要素に昇華した。
多分意味がわからないと思うが、まずは競馬の開催の時の競走馬のゲートインを思い浮かべて欲しい。
発想の発端は馬借の関所通過の手続きの簡略化であった。運河側から京都に抜ける馬借ルートが関所経由で全部で五つある。
これを運河側にゲートを作り、京の関所は通過せずルートごとの専用道路を通し一般人が入って来れないように出口に見張りを置く。
その5ルートを一斉スタート、ルートの距離を全て同じにして、計測係を置いてタイムを測ったらレースになるよねと閃いて、到着順位を賭け事の対象にしたのだ。
ちなみに前世が高校生なので競馬を賭けた経験はないが、馬が擬人化して走るスマホゲームは散々やり込んだ。
ちなみに賭け事は金銭の法律縛りが厳しいため、現代の某玉入れ遊戯のように賭けで貰えるのはある景品、それを別の店で現金に交換する三点方式を採用している。
そのある製品とは「あた碁」の金属駒で、馬借競馬に使用するようになってから表面に偽造防止の刻印制度を採用した。
ところで、この馬借競馬、基本は馬に乗って荷物を持って走るのだが、たまに手ぶらの人間も一緒に走る。
これは賭けの対象外になるが、走るが本人が優勝すると通行料がタダになる大食いチャレンジ方式のため、参加者が結構いて、しかもそこそこ勝っている。
以前峠街道に協力してもらった聖護院の八橋が人間参加部門の常連で、負けてもそれも修行の一貫だとやたらポジティブなのが人気である。
今のところは蹴上側だけだが、それなりに見物客も出る人気でスタート地点が見える物見台の入場料や屋台だけでもかなりの収益が見込めるため、今度大津側にも同じものが作られる予定なんだとか。
「さて、今日こそ勝たせてもらいまっさ」
と物見台特等席に陣取る新五郎。
彼は毎回大穴狙いで、故に予想がほとんど当たった事がない。
ちなみに配当は馬借の技術もだが、持ってる荷物の扱いも加味される。レースはおまけで本来は荷物を届けるのが本業なので、早く走るあまり荷物を壊してしまっては何にもならない。
ちなみに賭け事の売り上げ金の一部が勝率に応じて通行税軽減に反映される仕組みだ。
そちらの売り上げが好評なら将来は無税、ないし賞金を出すことも考えている。
さて、全ての馬がゲートに入ったようだ。
馬のゲートは二重の扉になっていて、受付を済ませたらあらかじめ最初のゲートを事前に配られた鍵で開ける。これが通行手形代わりだ。
そして全部の馬の準備ができたら……二番目のゲートが一斉に開く!
ちなみに法螺貝の音色がなったら人力で開ける仕組みなので、タイミングが同時というわけにはいかず。
「ああっ、某の賭けた馬借が一瞬出遅れた!」
と新五郎が不満を漏らす通り、今後はまだ改善の余地がある。と言っても誤差の範囲内であるし、何より新五郎、お主の賭けた米浴は荷物を大事に扱うから遅いし配当が高めなのだぞ?分かって賭けてるのかなあ。
さてゴール地点までは結構な距離があるため、中間地点での順位も随時報告が届く。
現在米浴は最下位だが、馬借業務慣れてない新人が乗ってる馬がいくつかある為か、トップで走ってる馬を除けばさほど到着時間が変わらない感じだ。
「先頭の馬、何かの問題起こして止まってくれへんかなあ」
と、縁起でもない事を言い出す新五郎。
だからこれは賭け事はおまけで、本業は荷運びだと何度言えば。
「調子はどうですかな、新五郎どの」
とやって来たのは京都商人の巡屋双衛門。
「巡屋はん、それは某の商売の事でっか?
それとも今の賭馬の事でっしゃろか」
なるほど、賭場とかけてトバとはうまい事を言う。
馬借賭け事は言いにくいと思ってたので今度使わせてもらう。ただ
「……」
ほらほら、巡屋が呆れてるぞ。普通に考えて賭馬じゃなくて商売の話に決まってるだろう、このギャンブル狂いが。
などと話をしているうちに、馬借の一向は最後の中間地点、競馬で言う所の最終コーナーを通過した。
どうやら米浴は頑張って、順位を二位まであげたようだ。
「よしよし、今回は行けるでぇ!」
順位を聞いた新五郎は上機嫌だ。
このまま必殺技の青い薔薇で逃げ切ってくれないかな……いや、あれはアプリゲームのライスなシャワーの方だったか。
そもそも同じコースを走っているわけではないので、抜きつ抜かれつの鍔迫り合いが発生しない。
その代わりに進路妨害の審議も起きないけど。
そして結果は……
「ああ、また勝てへんかったぁ」
がっくりと項垂れる新五郎であった。そもそも、勝ちたいと思うなら穴狙いやめようよ。




