四十三、軽薄
木沢長政は、一言で例えるならチャラ男だと思う。
史実では彼女(主君)を幾度か変え、時に二股まで行っている。
ただ笑えないのが、このチャラ男ムーブで多くの人が戦に巻き込まれ亡くなっているという事実だ。
傾国の美女という言葉があるが、長政はいわば傾国のチャラ男といったところか。
このチャラ男はこの世界線でも史実通り、夏ごろに起きた飯盛城の戦いでやらかしている。
木沢長政vs畠山義堯のこの戦い、もともと木沢氏は代々畠山氏の家来だった、気がする。
チャラ男長政が細川六郎と三好元長の不仲に付け込んで、畠山一族に下剋上をかました感じである。
そしてチャラ男には六郎が、義堯には元長が援軍を送ったのだが、元長・義堯側を叩くべく六郎が本願寺を使ったが事態を更に面倒にした。
元長は法華宗に肩入れしており、六郎は宗教のライバル関係を利用しようとしたのだ。
その後は義堯の死、元長の自害と続いた。
更には勢いのついた一向衆の暴走が本願寺派の制止を振り切って、興福寺へ刃を向けるという最悪の結果となった。
と、ここまでが既に起きた話で。
まさにこの後、史実では本願寺に、更なる刃が突きつけられることになるはずである。六郎は本願寺を見限り、チャラ男と法華衆、更に六角氏に土一揆までが手を組んだ。
かくして史実通りに進めば多勢に無勢の一向一揆、更には本願寺への制圧が始まるのだろう。
史実でいう「山科本願寺の戦い」が。
その本願寺は
近江の六角定頼の軍勢、付近の土一揆勢
山村正次率いる柳本勢、そして主力の法華衆
に四方を包囲された形で攻められたと言われている。
その後山科の本願寺は社坊一つ残さず焼け落ち、大坂の石山御坊に拠点を移すことになるのだろう。
確かその移転先の石山本願寺も後に史実では焼けた記憶があるが。
本願寺には色々思うところがあるが、この火災は何としても防ごうと思っている。
たとえ松本と敵対することになったとしても。
まずは先ほど挙げた四方のうち、六角の軍勢から。
これは足利義晴経由で一時保留が叶った。流石カリスマ将軍。
次に土一揆にも心当たりがあって、そこのリーダーとは顔馴染みであった。
名前を栗林米浴。
米は英語でライス、浴びるのはシャワーで……うん、これ以上はやめておく。
彼の仕事は馬借、馬を使って荷物を運ぶ業務の元締めである。
彼とは運河に届いたまとまった荷物を小口配送する業務を、お願いする縁で繋がった。
ちょっと気弱で自称不幸を呼び込む体質らしいが、裏を返せば慎重とも言え、その真面目な仕事ぶりでお客様からの信頼も篤い。
なので拙僧からお願いしたら、性格的にもすんなりことが進むかと思っていたのだが。
「んー、本願寺ってあの蓮淳さんの所ですよね?」
と難色を示される。
「あそこは荷物の受け取りが無愛想、文句が多い、たまに入り口が留守と問題が多くて仲間うちからも不評でねえ。
この間なんか横を通っただけでも怒られたらしく」
あー、それは確かに嫌だろう。しかしそんな理由で寺を焼かれても困るのだが。
「しかし、あの寺の規模ならやり取りも多いのだろう?
それが無くなっては商売にも支障をきたすであろう」
「そこなんですよねえ……」
「本願寺には拙僧から注意しておく。なので今回だけ事をおさめてもらう訳にはいかぬか?」
「んー……」
拙僧の言葉に米浴は少し考えて。
「まあ、あの愛宕様がそこまでおっしゃるなら、一揆の皆も無理にとは言わないと思います」
「かたじけない」
こちらも、何とかなりそうだ。
さて残る山村正次と法華だが、都合よく一箇所に集まっていた。
と言うより、その二組を実質牛耳るのが……
「聞いたよ、六角と土一揆を抑えたんだって?」
そう、あの松本がここにいた。しかし。
「なら、僕も条件付きで焼き打ちを思い留まってもいい」
何と、あれだけ歴史改変を嫌がる彼から思いがけない言葉が。
「どう言う風の吹き回しだ?」
「ああまあ、結婚式は楽しませてもらったからねえ。
蒸し羊羹も美味しくいただいたし」
と、まるで幹のような物言いをする。
しかし同じ食べ物が好きだから仲良く出来るとは限らず、式の会場で顔を合わせた時には「猿娘」「残念頭」と悪口の応酬であった。
「何が条件だ?」
「実質トップの蓮淳をここに呼んで来る事。まあ無理だと思うけどね」
確か彼は史実では、炎上した本願寺から辛くも逃げ出したんだったか。
ちなみに実質お飾りのトップの証如は石山御坊に避難済みだ。
「山村さんもそれで良いよね?」
と松本が言うと、武将山村と思しき男がうなづく。
「と言うかそもそも、本願寺の中に入れるのかい?
確か君、蓮淳に死ぬほど嫌われてるんじゃなかったっけ」
その心配は不要だ、既に対策は考えている。
「しかし愛宕様の、おおむね予想通りの展開になりましたな」
と拙僧に声を掛けるのは本願寺と同じ浄土真宗、仏光寺派の代表、経光。
いずれ興福寺に学僧として出向く事が決まっているが、今回の計画の為に出発を伸ばしてもらっていた。
彼の付き添いとして今から本願寺に向かうのだ。




