2026年x月26日 PM1:20
俺はうつ伏せのまま倒れたので、皐月が銃で撃たれる瞬間を見ていない。
代わりに視界に飛び込んで来たのは膝から崩れ落ちて駐車場の床に手をつき、土下座に似た体勢になった彼女の姿だった。
「逃げ……ろ」
声を絞り出すように、皐月が言う。
「でもっ!」
まさか彼女を見捨てて、自分だけ?
そんな非情な事が俺に出来るとでも?
「まだ言い争ってる……前に」
確かに出所不明な言語で、男たちは言い争っていた。
しかし。
——パン!パン!
追撃で撃ち込まれた二発の銃弾。
「……うわああああっ!!」
気づけば俺は、その場から反射的に逃走していた。
——パァン!
背後から撃たれた弾が太ももをかする。
痛い!が動けない傷じゃない。
振り向くと男は俺に銃を向けていて、反射的に俺は手にしたハードカバーの「言継卿記」で防御した。
——ポスッ。
果たして愛読書が、その銃弾の衝撃を吸収した。
そして相手の銃が回転式拳銃なのも幸いした。
弾丸を撃ち尽くし、しかも予備の弾を持っていないようだ。
その間に俺は痛む足を引きずりながら逃走する。
せめて警備か人の多い場所に出れば……
ってマジかよ!
奴ら、車で追っかけて来やがった!
うん、車?
『敵に車で追いかけられたら、この看板で撃退』
俺は皐月の言葉を思い出す。
そうだ、あの場所まで移動すれば!
痛みで朦朧とする頭で車の隙間を抜け、駐車場をショートカットして例の看板の場所に辿りつく。
車がここに到着するまで数十秒くらいは稼げただろうか。
『まず前もってオモリを外す』
既に半分くらいずらされていて、俺の労力は少しだ。
『車を引きつける』
ああそうだな。
何も知らない敵の車が、俺に突っ込んで来る。
『そして看板の裏に』
タイミング良く回りこんで。
『上の方をドーン』
テコの原理だな、倒れやすいように上の方を押す!
そして急に倒れ込んで来た看板を、避けようとして壁に突っ込む。
エアバッグが作動せず、車は派手な音をあげて壁に激突する。
ザマアミロと思ったが、その後がいけない。
どうも激突したのがガス管と電気配線らしく、火花と爆発音の後に、大きな炎があがった。
火災報知機やスプリンクラーは?と思ったが、沈黙したまま動作しない。
車で電気配線を破損したせいか、元々そういう構造だったのか、一向に火の消える気配がない。
なんだよ欠陥建築……か……はは、突っ込む元気もないや
銃で痛めて無理をした足が限界で、もう一歩も動けそうもない。
せめて手元に、杖になる物でもあれば違ったんだが。
周囲が煙に包まれて意識が遠くなっていく。
――焼け死ぬって、苦しいんだな。
もしも生まれ変われるなら、今度こそ俺は彼女を救いたい。
言継卿記を抱えながら、そう思うのだった。




