三十九、法要
ごめんなさい順番一個ズレてた(涙
西暦1532年、天文元年の残暑のある日。
便所コオロギこと細川尹賢の一周忌の読経を、息子の細川次郎に依頼された。後の氏綱で、以前話した「実質的な後継者」である。
ああ、道永の元を去った後にどうなったか気にしてなかったが史実通り亡くなってたか。
木沢長政という細川六郎配下の家臣がいて、コオロギには木沢軍に追われて溺死説と囚われて切腹説の二つの説があるようだが、この世界線では折衷案のようになっていた。
嵐で増水した川に飛び込んで、日数が経って損傷の激しい遺体の首だけが届けられたらしい。
コオロギに対しては思う所が色々あるが、僧侶として手厚く弔ってあげようと思う。今後本名で呼ぶつもりは一切ないが。
一周忌の法要には、コオロギが当主だった細川の典厩家は当然ながら、同じ細川の野州家からも何人か顔を出していた。
驚いたのは細川道永の弟で野州家当主の晴国で、え、あれが?と正直思った。
史実から逆算すると三十代後半のはずなんだが、十代半ばにしか見えない。歳が離れ過ぎじゃね?
あーでも、実は若かったって説もあった気がする。
ちなみに次郎が晴国より少しだけ上で二十前後。心なしか、彼を見る晴国の目が険しい。
それもその筈で、この二人にはちょっとした因縁がある。
次郎はコオロギの実の息子であると同時に、道永の養子でもある。
そして父に似ず優秀であったので、道永は引退後の義晴の補佐、つまり政治の後継者として次郎を指名した。
晴国にしてみれば道永の弟であり野州家当主という格がある。後継者として外された事を根に持っているようだ。
相手が裏切り者コオロギの息子である点も、気に入らないポイントだろう。
やれやれ、この親戚同士の争いが尾を引かねばいいが。
細川という家系はどうも内輪もめの避けられない因果にあるらしい。
さて拙僧は今、大和国(今の奈良県)に来ている。ある商人と会うためだ。
「戸名階屋参太と申します」
鹿のツノの被り物をした赤い鼻の男が自己紹介をする。
いや奈良なのに鹿じゃないんかい!
ってかクリスマスには早いよ!
そもそも拙僧が何故ここに来ているかと言えば、先日の一向一揆の騒動で焼けた興福寺について、京都商人の巡屋“みっしょん”双衛門から相談を受けたからだ。
「今回の騒動、大和の豪商三人が関わっておりましてですな」
奈良の豪商、確か歴史書では橘屋主殿・蔵屋兵衛・雁金屋民部の三人が一向一揆の首謀者だった気がする。
「とはいえ、焚き付けたもののまさか寺まで焼くとは思っていなかったらしく謝罪したい、しかし当の興福寺は許す気はなく一向の者を“しゃっとだうん”してるそうですな」
そこはシャットアウト、な?シャットダウンだと意味が変わってくる。
「で、三豪商が部下の商人に相談という名の丸投げをしたらしく、困り果てた知己の戸名階屋さんが更にこの、みっしょんに相談して来たと言う訳ですな」
いや京都商人巡屋よ、自分の呼称はそれで良いのか。以前拙僧が間違って呼んだのが原因ではあるけども。
「ちなみにその押し付けられた商人ですが、鹿の角を扱った商いと、最近では硝子細工を仕入れて売ったりしているようでしてな」
……ほほう、みっしょん。詳しい話を聞こうか。
という経緯で目の前にいる鹿商人のトナカイに会いにきたという訳だ。知識欲には勝てなかったよ。
「でトナカイどの、詳しく話を聞きたいのだが」
「ええ、ボクに分かる範囲であれば何なりと」
トナカイはボクっ子だった!見た目四十くらいのオッサンなのに。
まあボクという言葉が呼称として定着するのが後世であって、言葉自体は古代から僕が存在するが。
それはさておき、トナカイから今回の大和国の詳しい状況を聞く。
例によって再現ドラマにするとこんな感じ。
薄暗い建物の中、三人の男が座っている。
フードに隠れてお互いの顔は見えないが、フードの上にそれぞれ漢字で「一」「大」「春」と書かれている。
「「「南無阿弥陀仏」」」
彼らは最初に一向衆の短い念仏を唱え、会議を始める。
「しかし、我々が煽動したとはいえ一向衆はやりすぎでおじゃる。のう春日の?」
一と書かれたフードの男が顔のすだれを触りながら口を開く。
「ええ、一乗はんの言う通りですわ。
大乗はんもそう思うでしょ?」
春と書かれたフードの男が、目の前の木彫りの鹿を走らせながらそう続ける。
「春日さんの言うとおりで。まさか寺を焼くまで行くとは。我々は利権さえ自由になったら良かったのでね」
大と書かれたフードの男が計算用の算木をいじりながら話を締める。
……って、ちょっと待った。
誰が橘屋で蔵屋で雁金屋だよ!
まあトナカイ視点ではこうなってるから仕方ないか。
話を続ける。
「出来れば謝罪したいが、興福寺は一向衆の顔も見たくないらしい」
と大乗。
「それは困る、商売あがったりでおじゃる」
と一乗。
「となれば我々以外の、一向の息のかかってない者に頭を下げに行ってもらう必要がありまんなあ。
そう思いまっしゃろ?戸名階屋はん」
「ええっ、ぼ……ボクですかあ?」
春日に急に名前を呼ばれて、トナカイは狼狽する。
「当然でおじゃる。我々の損失は大和の座全体に関わる由々しき事態」
「まあ戸名階屋さんなら優秀ですから?きっとこの問題を解決してくれるでしょう」
一乗と大乗も念を押すようにそう口を開く。
「は、はあ……頑張ります」
豪商達にそう言われては、トナカイもソリを走らせるしかなかったのだった。
さてトナカイを連れて、興福寺に向かう。
「某、一乗院の坊官の傍観でごじゃる」
と、このクソ暑い時期に防寒着で顔を隠した男が対応した。
防寒の坊官で傍観って、三段オチかよ!
しかも防寒着に某の漢字、三豪商のフードといい、いかにも顔を隠して他人事ですって態度のようにも思える。
こっちもたらい回しする気満々かよ、勘弁してくれ。
ここまで馬鹿にされると流石に怒るぞ、俺も。




