2026年x月26日 PM1:00
「ゼロ、遅い」
と言われて俺はスマホで時間を確認する。
待ち合わせの時間まで、まだ30分はある。
「わたしは2時間前から待っていたぞ」
それは、いくら何でも早すぎるだろう。
いやうん。関東と静岡の遠距離恋愛だし、会いたかったのは分かるんだけどさあ。
俺の名前は今川零。
目の前の少女は喜多条皐月。
信じがたい事だが彼女には前世の記憶があって、そこでは俺達二人はオシドリ夫婦であったらしい。※嘘です
初めて会った時に彼女から「久しぶり、そしておかえり」と言われ、それから前世に続いて夫、という事になっている。
「またその本を持ってる」
俺が小脇に抱えている本を見て、皐月が不快感を露わにする。
と言っても彼女は常に無表情だが、何度か会ううちに喜怒哀楽が分かるようになって来たので恐ろしい。
まあ会うのは久々だがビデオ通話で毎日のようにやり取りしてるからなあ。
「いや面白いんだって言継卿記。一度皐月も読んでみろよ」
「断固拒否する。ゼロの時間を奪う物と手を取り合うつもりはない。
というか、そんなにその本が好きなら本と結婚しろ」
何そのヤンデレ理論!?
「あ、そうだ皐月」
ショッピングモールに辿りついて、ふと俺は思いつく。
「今からなら映画の開始時間に間に合いそうだし、近道しようぜ?そこの駐車場を通った方が早い」
そう言って俺は、すぐそばに見える駐車場入り口を指差す。
ショッピングモールのシネコン入り口からでは、歩いて距離がある。
「見たかったんだろ?蒸し羊羹マン」
「いや、ダメだ。そっちを通るのは……まずい気がする」
皐月が、俺の提案を拒否する。
また始まったか、彼女の“直感”が。
時々彼女はこう言った理解不能の言動をする。
「大丈夫だって、何かあっても命まで取られやしない」
そう、確かに彼女の直感が当たって酷い目にあった事もあるが今までも何とかなった。
「ううむ、しかし」
「何かあったら、俺が守ってやる」
「……約束だぞ?」
そう言って皐月は、俺の手を握った。
しかし後で振り返ってみれば、この時ばかりは彼女の直感を信じるべきだったのだ。
駐車場をしばらく歩くと交差点のような場所に出て、そのうちの一方向に臨時の通行止めの看板が立っていた。
高さは俺の身長より上だ。
「いい事を思いついた」
と皐月が言う。絶対ろくでもない話だろうけど。
「敵に車で追いかけられたら、この看板で撃退」
何だ敵って。と言うか、やるなよ?
「まず前もってオモリを外す、車を引きつける、そして看板の裏に回って上の方をドーン」
具体的だな!ってか絶対やるなよ?!
それはさておき。
駐車場をしばらく歩いた時点で、奥の方から銃声が聞こえた。
いやそれが本当に銃声なのかは自信がなかったが、駐車場では普段聞こえない炸裂音であった。
ややあって黒いスーツ姿の男性が数名出て来て、明らかに日本語じゃない言葉で言い合っていた。
それはまるで映画のワンシーンであるかのように、全く実感がなかった。
そして男の一人が俺を床につき飛ばし、
「あっ」
と思わず声をあげる皐月。
背後からがっちり捕まれて、彼女の力では振り解けない。
「おい、何をしてる!離して!!」
必死に抵抗する皐月だが、
「@&#%$」
どこの国なのか、何を言ってるのかわからない言語を口走る。
そして男は皐月に銃を突きつける。
おい、やめろ!
——パアン!




