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転生したら覚恕なんだけどヤかれるのは御免です  作者: 咲原魁里@覚恕転生


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三十五、今様

※サイドストーリ含まず、35話でようやくタイトル回収です

「春のやよいの あけぼのに


 四方(よも)の山べを見わたせば


 花盛りかもしら雲の


 かからぬ峰こそなかりけれ」

 

 吸(すう)が歌いながら白拍子(しらびょうし)を舞っている。

 雅楽「越天楽《えてんらく》」に慈鎮《じちん》和尚の作ったとされる歌詞をのせた越天楽今様である。

 

 場所は我が姉永寿(えいじゅ)女王の部屋。

 以前幹が猿楽を披露した縁で、とりあえず白拍子も見て感想を聞いて貰おうと思ったのだ。


 幹の舞う猿楽が動と静を兼ね備えたものであるなら、吸の白拍子はひたすらに、静。

 足踏みの拍子が歌と共に響き渡るが、扇を持ったその動き自体はゆっくりとした回転である。


 史実ではその流行のピークは平安から鎌倉、歌われる歌も今様(いまよう)という当時最新流行の歌であったが、この享禄《きょうろく》の時代では、現代でいう民謡や演歌に近いノスタルジックな雰囲気がある。


 味わい深い、とは思う反面。

 どうしても猿楽のような分かりやすさと派手さを好む庶民には理解されにくいのかなとは思う。

 服装も猿楽の仮面をつけた変化に比べると、男装の麗人という美しさこそあれど華やかさという一点ではやや及ばない感じだ。


「……以上でございます」

 舞を終えると、吸が一礼した。


「姫殿下、いかがでしたでしょう」


「そうねえ……」

 感想を聞かれて、永寿は考え込む。

 

「美しい舞ね、技術もあると思う」


「ありがとうございます」


「でも、それだけかな」


「あ……」


「……ごめんなさいね」


 褒められたと思ったが、お気に召さなかった。

 どうもそんな感じで、吸と永寿女王の間に気まずい空気が流れる。

 

「地味、とは正直よく言われます……」

 消えそうな声で吸が言う。


「ただ、伝統芸でありますので。あまり崩しの効かない舞でもあります」


 幹の猿楽は狂言と結びつき能楽という芸能として、変化を受け入れて現代まで生き残る。

 一方吸の白拍子は、このまま衰退し一部の者が知るのみの芸能となる。いやその化粧や舞踏技術は芸妓舞妓に受け継がれると唱える者もいるが、服装からして別物なので拙僧は眉唾だと思っている。


「そうなのね。

 ねえ憶仁(おくひと)、あなたの知識でなんとか助けてあげられないのかしら」

 永寿女王が、出家前の懐かしい名前で拙僧を呼ぶ。


「拙僧の記憶では何とも」

 白拍子に関する前世の知識など、ほぼ皆無である。

 

「そう……だったら、書物を頼る手は?」


「あっ」


 思えば、ちゃんと書物を読んだのはいつ以来だろう。

 出家が決まって般若心経と法華経は穴が開くほど読んだ記憶があるが、それ以外となると前世以来かもしれない。



 という反省点を踏まえ、それからは曼珠院から御所から、色んな所から本を借りて読んだ。


「最近全然話に乗って来ない」


「……ああうん」

 曼珠院の自室で本を読んでいると、幹が話しかけて来た。

 

「おい朴念仁、唐変木、虚気者(うつけもの)」


「……うん」


「ほら、またこれだ」


「吸のための調べ物だぞ?」


「嘘をつけ、目的と手段が入れ替わってる」


 バレたか。しかし一度火のついた読書の虫というのは止まらないのもまた事実。


「ふん、そんなに本が好きなら本と結婚してしまえ」

 と言う謎の捨て台詞を残して、幹は去って行った。


「おやおや。我らが姫君が、今えらい不機嫌で出ていきはりましたなあ」

 と入れ違いで入って来たのは新五郎であった。


「気にしないでくだされ、新五郎どの。

 どうせヘソを曲げても明日にはまたやってくると思われます」


「そう言うもんでっか?あ、これ頼まれ物の本ですわ」

 と新五郎は、数冊の本を拙僧の机に置く。


「あと思たんですが、愛宕はん」


「何でございましょう、新五郎どの」


「その……昔ぃの芸能を調べはるんやったら、それこそ、昔ぃの人に聞いたらええんちゃいます?」

 そうか新五郎の師匠の生き字引、三条西実隆か。せっかく弟子も来てるし、取りなしをお願いしようと思っていた所に。


「おい覚恕、客人だ。お主曰く、びっくりねーむだぞ」

 と珍平に声をかけられた。


 惜しい。拙僧が教えたのはびっくりねーむでなく、

 Big name(ビッグネーム)だ。


 

「こちらにおわすお方を何方(どなた)と心得る!

 堺の将軍、足利義維(よしつな)公にあらせられるぞ!」

「堺大樹の御前である……頭が高いっ、控えおろう!」


 えーっと、水戸黄門かな?

 あと自称将軍な。堺公方はまだ将軍認定されてないから。ついでに頭が高いと言いたいなら印籠持ってこい。

 

 さて義維は分かったが残り二名誰だ?


「六さん、元さん。その辺にしておきなさい」


 ああスケさんカクさんは細川六郎と三好元長か。


「時にお三方、拙僧にどの様な御用件でしょうか」

 

 堺公方の三人揃い踏みとか、悪い予感しかしないけど。

 ちなみに新五郎は見つからぬように退出し、珍平は何かあった時の為に隣の部屋で待機中だ。


「堺の商人、田中を知っておりますかな」

 と義維が尋ねる。


 さて、どう答えるか。

「はて、堺の田中と申されても。どの田中かおっしゃっていただけねば、何しろ拙僧は無駄に顔が広うございますゆえ」


「おい惚ける気か!」

 と六さんこと細川六郎。


「田中與兵衞(よへえ)の事に決まっておるだろう!

 お主が繋がっているのはこちらでも掴んでおるのだ」

 と元さんこと三好元長。


 このスケさんカクさんガラ悪いなあ。

 がしかし、相手の意図は察した。元さんの言葉を信じるなら、例の人質事件の事か。

 それもどうやら、拙僧の関与を疑っている。

 さて急な訪問で手持ちのカードがないときた、どうやってあしらったものか。

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