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転生したら覚恕なんだけどヤかれるのは御免です  作者: 咲原魁里@覚恕転生


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十八、鎮火

「さあ寺の皆様、その球を火に投げ込んで下され」

 拙僧がそう言うと皆が水桶を床に置き、幹が籠で持ってきた球を次々に投げ込む。

 球は炎の中で破裂し、面白いように火の勢いが弱まっていく。


 儀右衛門に作らせたもの、それは携帯用消火器だ。

 最初は現代でもよく見かけるボンベに入ってホースのついた赤い消化器を作ろうとしたのだが、中身を圧縮する技術と圧力に耐えうるボンベの制作が難しく断念した。

 

 代わりに考えたのは投げつけて炸裂する火薬玉。これ自体は鎌倉末期、蒙古軍が元寇で持ち込んだ技術で鉄砲より前になる。

 それを応用したこの消火球は衝撃で火薬が作動し、灰や泥といった燃えにくい中身が破裂する。原理は単純だが消火能力は目の前の火元で実証されている。


「ふん、松本とやら。今回は負けを認めるが良い」

 何故か幹が上から目線で言い放つ。


「いいや、今回は引き分けだね。少なくとも目的は達成出来た」

 そして松本も謎の宣言をする。


「負け惜しみか、残念頭」


「そう思うなら朝、もう一度火元を確認する事だね。

 その消火道具、大きな欠陥があるから」

 それだけ言うと松本は、夜の闇に紛れて姿を消した。


 そして朝。

 火の放たれた三門を確認して、松本の言葉を理解した。

 確かに火は消えた。消えた、が。

 消火球を投げつけられた柱は灰と泥でこれでもかという程に汚れていた。しかも柱の中にまで染み込んで汚れが落ちそうもない。これでは文化遺産としての価値も半減だろう。


 東福寺の僧の面々も、感謝すべきか微妙な表情だったし。やれやれ、これは改良が必要か。



 さて曼珠院に戻ると、庫裏で武野新五郎が倒れていた。

 

「ああお帰りなさい、覚恕さ……し、新五郎どの!?」


「儀右衛門、昨日は助かった」


「もったいないお言葉で……って一体何が!?」

 儀右衛門は拙僧の言葉に反応すべきか、新五郎の心配をすべきかで感情の置き場に困っていた。


「おそらくだが儀右衛門、新五郎どのは酔っ払ってるだけだと思うぞ?」


「酔っ払い?もしや……ああっ!?」

 何かに気づいて、儀右衛門は声をあげる。


「まさか新五郎どの、ここに置いてあったアレ呑んじゃいました?」


「あ、うん……ようけ強い酒やったけど良い匂いがしたさかいに」


「あれ消毒用に作った実験用の高濃度の奴ですからね!全くもう……」

 儀右衛門は頭を抱えた。


 まあ、急性アルコール中毒で亡くなられても厄介だ。後で僧医を呼ぶか。

※作中の豪商は特殊な鍛錬をしております。絶対に真似をしないでください。


 

「遅かったね」

 拙僧の部屋では、当然のようにコタツに入った幹が待っていた。


 実はコタツが普及したのは室町時代。

 弱火の囲炉裏の上に机と布団を置いた堀りコタツ形式である。


 と言っても導入したのは最近、頻繁に幹が来るようになってからである。

 そもそも修行の身である拙僧にコタツなど本来贅沢品なのだが、これがないと幹が寒さを口実に「暖めて」と密着してくるのだ。


 ちなみにその話をすると珍平は羨ましがり、儀右衛門は「その手があったか」と膝を叩いた。

 なんだよ、その手があったかって。


「東福寺の事後調査で色々あったのだ」


「ふうん」

 さして関心のないような口ぶりで幹が言い、拙僧が自分の机で書き物を始めると、


「……入らないの?」

 と聞いてくる。


「そうまでして密着したいのか」


「……嫌?」


「嫌では、ないけども」

 僧侶として、どうなんだ。


 そもそも男女七歳にして席を同じゅうせずと言う言葉が……あ、拙僧まだ数えで五歳だったか。


「早くこっちに来て、わたしの身体の火照りを鎮めて欲しい」


「色々誤解を招く表現をやめい!」

 

 しかも、棒読みの無表情で言われてもな。


「……つまらない」


「そう思うなら大原に帰れ」


「雪の降り始めたこの中を?鬼だ、鬼がいる」


 ちなみに彼女の家までは歩いて半日の距離だ。確かに帰らせるのは少々酷な話であるが……


「言っておくが、流石に泊まらせる気はないぞ?」


「失礼な、わたしもそこまで非常識ではない。

 その場合は比丘尼御所(びくにごしょ)にお世話になる」

 そう言って幹は口を尖らせる。


 比丘尼御所というのは皇女や公家の姫君が出家して入る尼寺、通称尼門跡(あまもんぜき)が密集する一角で、ここ曼珠院からも近い。


 というか、この女に非常識という概念があったのが驚きだ。

 しかも尼門跡を宿代わりに考えてる時点で十分失礼なんだがな。


「夫婦水入らずの所悪いな、覚恕に来客だ」

 珍平が拙僧にそう告げる。


 もはや、夫婦じゃないと説明するのも面倒になってきた。

 と言うか、そこは拙僧が帰宅早々の方を労うべきだろう。


 それより、はて?

 拙僧側に来客の予定はないが。


「待たせると面倒そうな相手だ、早く行った方が良いと思うぞ」



「お前が噂の糞坊主か」

 開口一番、罵倒された。

 

 だいたい崇められるのが普通だったので、一周回って新鮮である。


「何しろ稚児にございますれば、申し訳ありませぬ」


「ふん、可愛げのない子供よ」


「……失礼ながら、お名前をお伺いしても?」


「細川尹賢(ただたか)だ」


 ああ讒言(ざんげん)で香西氏を殺させた張本人の。

 そう言えば戦に負けて京に舞い戻って来てたんだっけ。

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