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転生したら覚恕なんだけどヤかれるのは御免です  作者: 咲原魁里@覚恕転生


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十、愛宕(挿絵挿入)

 さて、最近拙僧の呼称が一休の再来から愛宕権現(あたごごんげん)にランクアップした。


 そもそもの発端は新五郎が曼珠院に訪れた際、拙僧の師匠の慈運様が防火設備の話をした事からだ。

 新五郎はその仕組みに興味深々で、堺から数人の商人や職人を見学に呼び寄せ他の邸宅でも再現出来るかと勉強会が開かれた程だ。

 

 そしてその効果は絶大で、堺で火事が起きた時に周囲の家屋は焼けたのに設備を施した家だけが残った。

 これが噂になり尾鰭がついて、最終的に拙僧が防火を司る地蔵菩薩、愛宕権現に奉られる騒ぎにまで発展するのだった。


 いや本当、勘弁して欲しい。おちおち外も歩けないではないか。


「そうだ愛宕様、良い事を思いついた」

 と幹が言う。いやいや、この蒸し羊羹女の「良い事」は碌な事じゃないと耳を塞ごうとすると。


「これは本当に良い話だから聞いて、親孝行が出来る」

 と真剣な顔で見つめてくる。


 蒸留器の功績もあるから一応聞いてみたら、何とこれが妙案であったのだ。

 


「文を読んだが、相変わらず奇妙な事を考えるのう」

 数日後拙僧は御所に足を運び、天皇即位を間近に控えた父に謁見していた。


「恐れ入ります」


「しかし面白いとは思う。何よりそなたの知名度、効果はありそうじゃし協力は惜しまぬよ」

 そう言って父はニヤリと笑う。

 案を考えたのは拙僧でなく、幹だが。


「やりようは任せるが、大臣と良く相談するが良い。

 朝廷は前例のない事を嫌う者も多いでの」

 

 まさにそこで、今からやろうとしている事は前代未聞なのだ。


——さて、そろそろ種明かしとしようか。

 史実では父の後奈良天皇は宸筆(しんぴつ)、自分が書いた書を売って収入の一部にしていたらしい。

 

 皇族直筆の文章となれば確かにそれなりの価値はあるだろう。

 だがこれが、今が旬の防火の生き神様と崇められる愛宕様の父が書いたもので、持っているだけでご利益があるとしたら?

 庶民は唱えるだけで救われるという南無阿弥陀仏のように、分かりやすさを求める生き物だ。

 

挿絵(By みてみん)

「ほっほっほ。長生きはしてみるもんじゃのう」

 拙僧の案を聞いた生き字引は、愉快そうに笑った。

 

 父の助言を聞いて拙僧は、何かあった時の為に三条西(さんじょうにし) 実隆(さねたか)に相談に来ていた。そしてこの生き字引なら拙僧の案を気に入ってくれると思ったのだ。


「自らの知名度を父の即位式の資金稼ぎに使うとは、実に天晴れな考えであるの」


 そう、父の協力を求めたのは自分の私服を肥やす為ではない。目的は即位の為の資金調達。

 何しろ朝廷にはお金がなく、そして即位式にはお金がかかる。史実でも父、後奈良天皇は即位してから式を行うまでに10年掛かったとされている。


「しかし、それだけでは不十分であるの」

 生き字引は、拙僧の案の問題点を指摘する。


「あの箱入りの公方様にも協力願う必要があろうの。ついでに、その箱の見張り番もじゃ」


 なるほど、足利将軍家とその側近の管領の細川高国か。ちょうど拙僧と同じ頃に出家し道永(どうえい)と言う法名を名乗っている。家督を譲った息子が亡くなった為、今は管領職に復帰しているが。

 

 史実でも「即位礼を挙げたところで実質が伴っていなければ王と認められない」と管領が献金を突っ撥ねた例があり、そもそも将軍家に臍を曲げられでもしたら即位そのものが危うい。


「では、こちらも入道を紹介しようかの。あやつなら公方様とも縁が深い」

 入道?生き字引の知古というなら、かなりの大物が出てきそうだ。


挿絵(By みてみん) 

「ほう、お主があの愛宕権現か」


 大舘(おおだて)常興(じょうこう)。史実では九十まで生き、実に五代の将軍に仕えた武将である。

 今は出家の身で、伊予入道の別名でも呼ばれる。


 そして会ってみたら思った以上に入道の、いや妖怪ぬらりひょんのイメージが強かった。生き字引と同じくらいの年齢であるはずなのだが、老獪を通り越して化け物じみた怖さすら感じる。親しみ易さのある生き字引とは真逆の印象だ。


「何も取って喰おうというのではない、楽にしてよい」

 と伊予入道は言うが、本当に気を許したら喰われてしまいそうだ。


「実隆より話は聞いた。公家と繋がりを持ちたいと?」


「はい、恐れながら」


「なら今度は公方様を曼珠院に出そう。あれも友を欲しておる、仲良くしてやってくれ」

 そう口にする伊予入道の顔が、少しだけ柔らかくなったような気がした。


 

 さて将軍家と縁が出来たと浮かれていたつもりではないのだが、ここで拙僧は一つ見落としがあった。


「えっ近衛どのが、ここ曼珠院に避難される?」


「ああ、それも丹波の香西元盛(こうざい もともり)氏殺害がきっかけらしい」

 坊官珍平の報告に、拙僧は驚いて声をあげる。

 

 しまった、その歴史を失念していた。


 丹波の国人に香西元盛という者がいて、彼は細川道永の重臣。しかし殺害された。

 道永の従弟である細川尹賢(ただかた)の讒言(ざんげん)、悪意の告げ口によって。

 その後は殺された香西の兄弟が激怒して丹波の有力武将、特に道永の天敵の細川晴元や三好元長が挙兵、桂川原の戦いと言う争いを引き起こした結果、道永と将軍家は敗北し近江に逃亡する事になる。


 例えば、細川尹賢の讒言がなければ香西元盛の殺害を回避出来たかもしれない。

 史実を大きく曲げてでも止めるべきであったか?


 まあ過ぎてしまったことは仕方がない。

 史実通りならまだ挙兵は十月頃、猶予はある。


 それより近衛どのだ、道永の香西殺害の動きだけで避難を決めるとは洞察力のある方だと思う。

 いや待て。確かこの時代の近衛氏といえば有名なのは准三宮の近衛尚通(ひさみち)。とすれば。


「ちなみに娘も連れて来るそうだぞ」

 まさか慶寿院、足利義晴の嫁になる女性か!?

10/25挿絵挿入

(三条西 大館)

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