スタイル・オーバーライド(3)
袋の持ち手が指に食い込む。
あまり記憶はないが、袋の中にはたぶん三、四セットくらいの服が入っていると思う。
痛くはないが、服って結構重いんだな、という感想を抱かせる。
――さっきまで着ていたピンクのパーカーは、もう袋の中だ。
試着室で最後に「これで行きましょう」と押し切られて、結局そのまま着替えて店を出た。
首元が少し整っていて、袖口がきちんとしているだけで、なんだか動きがぎこちなくなってしまう。
紙袋に軽く重心を奪われながら、通路を歩く。
外にいた時とは違う空気だ。人の声が多くて、頭の中が少しだけ薄まる。色々と考えなくて済む。
通路の左右に様々な店舗が立ち並び、前を歩く三人はそれぞれ目を奪われながら歩いていく。
角を曲がったところで、光莉の足が止まった。
「あ、見て。雑貨屋ある!」
言い終わる前に、光莉はもう入口のガラスの向こうを覗いている。
店の看板は丸っこい文字でカラフルで、分かりやすく「女の子向け」の雰囲気がした。
椎奈が一瞬だけ眉を寄せる。
寄せるけど、光莉のことは止めない。
「……寄るの?」
「寄る! ちょっとだけ!」
ちょっとだけ、が信用できたためしはない。
穂乃花は、またどこかで見たような苦笑いをして、後をついて行く。
……自分も、そのまま光莉に引きずられる。
店に入ると、布とビニールと、新品のゴム、柔軟剤、香水の中間みたいな匂い。
棚は低くて、子どもの背でも手が届く高さに小物が並んでいる。
とにかく色が多い。ピンク、ミント、ラベンダー、白。透明なケースの中に、キラキラするものが詰め込まれている。
アクセサリーコーナーには、ヘアゴム、カチューシャ、ピン留め。
値札が小さい。数字も小さい。
どれもあまり長く使うような物ではなくて、気分で変える前提の軽さがある。
様々な要素が普段とはかけ離れていて、この空間を異世界のように感じさせる。
「見て見て! この星のやつ、光るっぽい!」
「……あんたは、とりあえずピカピカ光ってればなんでも好きよね」
椎奈は言いながらも、棚を覗き込んでいる。
光莉はどこか強引で、椎奈も結局は光莉に付き合う。
そういう関係だ。
そんな二人から目を背けると、穂乃花は文具コーナーへ向かったのが見えた。
ノート、ペン、マスキングテープ。小さなスタンプ。
どれも可愛くて、意味がないほど種類がある。
自分は、とりあえず通路の端に寄る。
袋が邪魔で、身体を小さくしたくなる。
棚の高さがちょうど目の前で、視界に勝手に商品が入ってくる。
その中に、細いリボンが一本、ぶら下がっている。
リボンはグログランで、ほどよく硬い。指でつまむと形が保たれる。
端が斜めに切られていて、ほつれ止めがしてある。雑に扱っても崩れなさそうだ。
先には、小さな三日月のチャームがひとつ。光を受けて、ちょん、と鈍く光った。
色もいくつかある。
ピンク、白、薄水色、黄色、深い赤。
そして、ネイビー。
派手な棚の中で、ネイビーだけが少しだけ目立たない場所に置かれていた。
自分は、なんとなくそれを手に取る。
リボンの硬さを確かめるみたいに、指先で軽く引く。
……これ、何に使うんだろう。
そのまま立ち尽くしていると、背後から気配が寄ってくる。
「うん?くさりちゃん何それ?」
光莉が上から覗き込み、すぐに目を丸くした。
「え、かわい。リボンだ!」
商品棚を見ると、カードの端に小さく“BOOKMARK”とある。
「……“BOOKMARK”ってことは栞ね」
椎奈が右横から覗く。
……栞ってこういうのもあるのか。
左横から顔を出した穂乃花が少しだけ嬉しそうに頷く。
「本に挟むと、上からリボンがちょっと出るタイプですね……。可愛くて落としにくそうです」
「へー、しおりなんだ! でも普通の紙のじゃなくて、リボンなんだね! あたしも欲しいかも!」
「光莉には縁が無さそうだけど、結構おしゃれじゃない?」
「じゃあ、みんなおそろいで買お!」
光莉は即決だった。
言い終わる前に、すでに棚から目が痛くなるほど明るい色を取っている。
「色違いが、いっぱいありますね……」
穂乃花が棚を見て、指先で一つずつ確認する。
「ストラップにしてもいいし、バッグの目印にもできそうだね~」
「……それこそ鍵に結んだりしても、分かりやすいわね」
「わたしは……本に挟みたいです……」
みんな、それぞれ勝手に使い道を作っていく。
自分の手の中のネイビーのリボンを、なんとなく見つめる。
「ほら、くさりちゃんも。これで、お揃いだね!」
光莉に背中を押されるようにして、四人でそのままレジへ向かう。
――会計の細かい音と、袋が擦れる音。
自分の手の中には、ネイビーのリボンが残った。
小さい袋だが、また一つ袋が増えてしまう。
でも、それでよかった。




