スタイル・オーバーライド(1)
「そういえば、くさりちゃんって、いつもその格好だよね」
三人が持ってきてくれたお菓子をつまみながら、取り留めのない雑談を話半分に聞いていると、そんな質問が飛んできた。
少し返答を間違えれば怪しまれる、かなりまずい質問だ。
いつかは聞かれると思っていたが、やっぱり来たか、という感じもする。
あの古着回収ボックスも、この地域は子どもが少ないせいか、合うサイズの服がなかなか見つからない。
選択肢が少ない、というのは事実だ。
「……服を選ぶのが、めんどくさいから」
とりあえず、それっぽい言い訳を口にする。
実際、たくさん服があっても似たようなものしか着ないタイプなので、嘘ではない。
「そ、その気持ち、少しわかります……。パーカーって楽ですし、つい選んじゃいますよね……」
穂乃花が、少し懐かしむように頷く。
「そういえば穂乃花ちゃんも、初めて会った時はいつも似たような服着てたよね〜」
光莉が思い出したように言って、話題がそちらへ流れる。
——よし。
なんだかいい感じに話が逸れてくれそうだ。
たまにこういう答えにくい質問を投げてくるから、正直あまり公園に来てほしくないのだが……。
毎回お菓子を持ってきてくれるので、仕方なく同席している。
並べられたお菓子を見るに、きっと近所のおじちゃんやおばちゃんから貰ったものだろう。
昔から不思議なのだが、この独特で見覚えのあるお菓子たちは、いったいどこで売っているのだろう。
少なくとも、コンビニやスーパーでは見かけない。
人によっては苦手そうだが、個人的には好きなものが多い。
そう考えながら、目の前のクラッカーに手を伸ばす。
「……でも、そろそろその格好、寒くない? 衣替えしなさいよ」
椎奈にそう言われて、自分のパーカーの袖を見る。
確かに、五分丈くらいしかない。
他の三人を見ると、
椎奈は落ち着いた色合いの長袖に、動きやすそうなスカート。
光莉は明るい色のトレーナーにショートパンツで、足元はスニーカー。
穂乃花は薄手だけどきちんとしたカーディガンを羽織っている。
——そうか。
もう、季節はしっかり秋だ。
今はまだ涼しいくらいだが、これからどんどん寒くなる。
そうなると、この格好は確かに違和感があるかもしれない。
どう言い訳しようかと考えていると、手に持っていたクラッカーが目に入った。
よく見ると、小さな穴がいくつか空いている。
製造の過程で蒸気を逃がすために開けられたもの——だったはずだ。
焼くときに割れないようにするための、わざとの穴。
「む、虫食いがひどくて……しかたなく、これを着てる」
震えながら、咄嗟に思いついた言い訳を口にする。
どうだろうか、と恐る恐るクラッカーを齧りながら、椎奈の方をちらりと見る。
「はあ……まあ、確かに、あんたらしいわね」
いつもの呆れたような表情で、椎奈が言う。
「防虫剤は基本よ」と、妙にしっかりしたことを言われてしまい、なんだか光莉への対応と似たようなものを感じて、これまた悔しい。
「そ、それじゃあ……冬服、ないってことですか……?
それって、結構まずいのでは……」
穂乃花が心配そうにこちらを見る。
まあ、確かに冬服はない。
ついでに言えば、毛布もないし、家もないし、戸籍もない。
「じゃあじゃあ! 一緒に買いに行こーよ!
あたしも新しい服ほしいし!」
勢いよく立ち上がるブレイド。
光莉はこういうとき、いつも「一緒に行こう」と言う。
スイーツだったり、デパートだったり、行き先はさまざまだ。
そのたびに、自分の返事は決まっている。
「お小遣いが、もったいないから行かない」
いかにも小学生らしい断り方だ。
我ながら、はなまるをあげたい。
自分が小さい頃のお小遣いは月に数百円程度だったし、周りも大差なかった。
今の小学生の金銭感覚はよく分からないが、家庭ごとの差があるのは、きっと変わらない。
勝利のクラッカー二枚重ね食べをしていると、光莉がやけに優しい笑顔で口を開く。
「大丈夫! 今回はあたしがお金出してあげる!」
……新しいパターンだ。
断り続けたせいで、気を使わせてしまったのだろうか。
さっきの話題よりは、マシになったかもしれないが、これまた面倒な話になってしまった。
小学生に奢られるのは流石に情けないので、普通に嫌だ。
それにしても、光莉が自分からお金を出すと言い出すとは。
心配になった椎奈が、無言で光莉のおでこに手を当てている。
「そ、それなら……わたしも出しますよ……!
くさりさんには、もっと色んな服、着てみてほしいですし……」
「確かに、このままだと似たような長袖パーカー選びそうね。
私もその話、乗るわ」
そう言っていつもの善意と優しさで、椎奈と穂乃花も同意しはじめる。
……完全に断るタイミングを失ってしまった。
大人として非常に情けないが、困っていたのも事実だ。今後の為にも服だけは奢って貰おう。
……出来るだけ地味で安いのを選ぶようにしよう。




