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洗濯





 街路樹の幹に、べったりと貼りついている。

 青白く光る、ぶよぶよした塊。

 

 人間の腕くらいの太さの、やたらとでかいイモムシみたいな魔災獣が、ゆっくりと身をくねらせていた。

 

 鎖を振り上げて、思いきり叩きつける。

 

 金属が幹を打つ高い音と一緒に、イモムシがべりっと剥がれて落ちた。


 アスファルトの上で、どすん、と鈍い音がする。

 

「……これで、四匹目」

 

 さっきまで、街路樹に二匹、電柱に一匹。全部、似たような大きさで、同じように青白く光っていた。

 

 魔災獣としてはかなり小さいけど、イモムシとしてはだいぶ、というか、かなり大きい。

 

 虫が苦手な人が見たら、それだけで気絶してもおかしくないくらいだ。

 

 自分は、そこまで虫が苦手じゃない。

 親戚の家で出された蜂の子も、見た目のわりには普通に食べられたくらいだ。

 

 落ちたイモムシが、もぞもぞと這おうとする。

 裾から鎖を一本すべらせて、ぐさり、と突き刺した。

 

 串刺しになったイモムシが、しばらく苦しそうに身をよじる。

 

 ぶよぶよした体の中を、青白い光がぐにゃぐにゃと流れているのが見えた。

 

 やがて、その動きもだんだん鈍くなり——くたっと、力が抜ける。

 

 鎖の先で、イモムシ串がゆらゆら揺れた。

 

 じっと、それを見つめる。

 ぐう、とお腹が鳴った。

 ……イモムシ串を見つめる。


 

 しばらく黙って眺めていると、輪郭が崩れた。

 青白い光がほどけるみたいに散って、黒い煙と一緒に粒子になって、夜の空気に溶けていく。

 

 魔災獣は、死体が残らない。

 ちょっとだけ、勿体ない。

 

 いつもの、公園の方向に体を向けて、帰路についた。



  

───



 

 人気のない早朝の、公園。

 昼間は時々子どもが遊びに来る遊具も、今はひっそりと黙っている。

 

 水飲み場の蛇口から流れる水の音だけが、やけに大きく響いていた。

 

 蛇口の下で、いつものパーカーとハーフパンツを丁寧にこすり洗いしていく。

 

 替えがきかないので、日頃から汚さないように気をつけてはいるが、定期的に洗うことにしている。

 公園の水道だから、洗剤なんてものはない。けれど、水を何度か変えて洗えば多少はマシかな、と思いながら無心に洗う。

 

 洗っている間、着る服がなくなる問題は、今はない。

 

 すでに変身しているから。

 

 変身しているあいだは、肌寒さもあまり感じない。

 どうせいつも、人目につかないように動いているのだから、変身したドレス姿でもあまり変わらない……と、自分では思っている。

 

 一通り洗い終えて、水を軽く切る。

 

 裾から鎖を伸ばして、濡れた服を引っかけた。

 雑木林の奥。公園の端っこ。

 人から見えにくい位置にあるフェンスまで、鎖をするすると走らせる。

 服を挟むように鎖を動かし、フェンスにぺたりと貼りつける。

 

「……よし」

 

 少しずつ、鎖の操作が上手くなってきている気がする。

 手ほど器用には動かせないけど、高いところに手が届いたり、触りたくないものを直接触らなくていいのは、本当に便利だ。

 

 鎖を裾に戻して、フェンスにぶら下がったパーカーとハーフパンツを眺める。

 

 当たり前だが、しばらく乾かなそうだ。

 

 特にやることもないので、近くの茂みのそばに、体育座りで腰を下ろした。

 

 土と草の匂いが、湿った靴下越しにほんのり上がってくる。


 

 ふと、数日前のことを思い出す。

 

 この公園の、もう少し開けた道沿いのところで。

 どこかで聞いたことのある三人組の声が、笑いながら通り過ぎていった。

 

 きっと、似た声の子ならいくらでもいる。

 

 もし本当にあの子たちだったとしても、昼間の自分は、公園の雑木林か、路地裏のダンボール布団の中に隠れているから、そうそう見つからないはずだ。


 

 魔力で居場所を探知するとか、そんなすごいことができない限りは——大丈夫。


 

 そう考えて、ポケットから小さな紙袋を取り出す。

 とっておいた、どんぐりが少しだけ入っている。

 

 ひとつ取り出して、殻を割ってそっとかじる。


 

 ……しぶくて、かたい。


 

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