番外編:3 50階からセーフティエリアへ
◇
全員が50階に飛んだのを確認してフロアーを進む。先頭は精鋭部隊Aパーティーで、次に私達エリオット様のパーティー、後ろに精鋭部隊Bパーティーの順番。
通路は上の階より少し広くて、天井も高いな……。
このフロアーも上の階と同じで、石を積み上げた造りだけど少し暗くなった気がする。壁や道がボワッと微かに光っているのかな? まだ見えるから灯りがなくても歩けるけどね。
50階から55階までに出てくる魔物は、ランクB+のヴァイパとサキュバス、ランクAのオークキングとマンティコアで、56階からは『A+』にランク付けされたデーモンが出てくるそうです。
デーモンはランクA+なんだ……。
最前列を進む精鋭部隊Aのリーダー、ライオット・ウィリアムズ様は、褐色の髪と目で身長がアルバート様くらい高い。テオみたいなガッチリした体格じゃなくて、今日いるメンバーで1番ムキムキした筋肉の持ち主。
大きめの盾を持っていて、剣を振るたびに風を切る音が聞こえそう。盾タイプの騎士様で、ヴァイパが出て来ても力で負けてないと言うか、ねじ伏せているように見える。
「精鋭部隊Aのリーダーは凄いな……ヴァイパと四つに組んでも勝つんじゃないか」
「テオ、俺も勝つと思う」「うん、私もそう思う」
少し進むと、黒い槍を持った魔物が見えた。
真っ黒のドレス姿で、髪も肌も目も全てが黒なんだけど、とても綺麗な顔をしていると思う。半分見えている胸元なんて凄いよ……あれを”たわわ”って言うんだろうな。
「おっ、サキュバスだ」
「テオ、片手剣を試したい!」
「タロウ、分かった。エリオット様! あのサキュバスを譲ってくれ……」
「ん? テオ殿、分かった。ライオット……」
テオが、エリオット様に断りを入れて、タロウと一緒に精鋭部隊Aを追い越して突っ込んで行った。
「タロウ……、前にインキュバスで試したじゃない……」
私はブツブツ言いながらテオ達を追いかける。
テオとタロウが攻撃を受けたら『ヒール』を飛ばそう。魔法や攻撃で受ける弱体異常は、ネックレスが癒してくれるから。
『ギャアァァーー!』
残念な低いだみ声が響いた時には、テオとタロウが斬りかかっていて、私が追い付いた時にはもうサキュバスが倒されていた……早過ぎる。
「フッ、やるな」「「なっ……」」「「!」」
テオとタロウは精鋭部隊Aの皆さんに認めてもらえたかな? 私は何もしていないけど。
「あっ、エリオット様、ドロップ品は誰に渡せば?」
テオの声に、サキュバスが消えた場所を見ると『帰還石』が転がっていた。タロウが攻撃すると、80%位の確率で何かドロップするのよね。
「ん? ああ、ドロップ品は各部隊で回収する事になっているから、ロペスに渡してくれ」
「分かりました」
「回収……」
タロウ、残念そうな顔をしないで。私達への依頼は『お手伝い』で、ドロップ品は騎士団が回収するけど報酬はもらえるからね。
「あっ、オークキングだ!」
タロウの声よりも早く精鋭部隊Aが突っ込んで、手慣れた様子でオークキングとジェネラルオークの2体を倒してしまう。ドロップ品は……ゴミ武器で、騎士様が通路の端に投げ捨てている。
「タロウ、また俺達で来るからな」
「テオ……分かった」
あぁ、スタンピードの時、タロウはオークキングのドロップ品を聞いて倒したがっていたからね。
この辺りは定期的に間引いているのかな? 魔物の数がそれ程多くないから、先頭の精鋭部隊Aだけで問題なく魔物を倒して進み、51階への階段で精鋭部隊Aと精鋭部隊Bが入れ替わった。
精鋭部隊Bのリーダーはセドリック・フォレスター様。金髪碧眼、中肉中背の王子様みたいな騎士様です。もう1人の騎士様と2人で交互に盾を回しながら攻撃し、3人目の騎士様がHPを削る戦い方をする。
魔物との戦闘中、攻撃を受けた騎士様が声を掛けて少し下がった。ポーションを飲みながら、後衛にいる宮廷魔術師のシリル様に向けて指で合図をしている。1本とか2本とか……ああ、指の数で受けた弱体が分かるようになっているのかな?
あっ、黒い槍を持ったサキュバスが、妖艶な笑みを浮かべながら近づいて来た――精鋭部隊Bが突っ込んで行く。
「ヴァイパとサキュバスが多いな」
「「うん」」
テオの言う通りで、50~51階で現れた魔物の7割以上をヴァイパとサキュバスが占めている。
これは、50階から出てくる魔物の中でヴァイパとサキュバスが弱い魔物だって事を意味していて、階層が深くなると出てくる魔物の割合が変わってくるの。オークキングとマンティコアが増えて来るはず。
サキュバスが赤紫色の翼をゆっくり動かして、黒い槍を騎士様に向けた。
『ギャアァァーー!』
ボワッ、バァ――ン!
シュー! ズババッー!
サキュバスの魔法を詠唱しようとしたのか、シリル様とルーカス様が魔法を撃った。
あっ、槍を向けられ騎士様の動きが止まった――詠唱を止められなかったみたいで、『魅了』を受けた? 即、シリル様が『回復魔法』を飛ばしたけど、『魅了』はシリル様の『回復魔法C』では治せないのに……なぜ?
その直後、リーダーのセドリック・フォレスター様が『魅了』を受けた騎士様に魔法を飛ばすと、『魅了』の騎士様はその場に崩れるように倒れた。『スリープ』を掛けたんだ……。
後ろにいたモリス様が、私達の横を走り抜けて眠った騎士様に魔法を飛ばすと、騎士様の意識が戻った。
「……! 助かった」
騎士様はむくりと身体を起こすと、直ぐにサキュバスに攻撃を始める。
ああ……そっか、格上の魔物に属性魔法を使うのと同じで、治せなくても『回復魔法』を使うとスキル上げになるのか。
◇
その後、特に問題なく進み、54階へ下りる階段で休憩する事になった。
皆さん丸パンや干し肉を出して齧っているので、私達だけがサンドパンを食べるのが気まずい……。
「アリス……作って来た目玉焼きのサンドパンを、良かったら皆さんにも食べてもらおうか」
「うん……」
作り置きしているとは言えないからね。テオに言われて、タロウと私は皆さんにサンドパンを配った。
休憩の後、54階・55階のフロアーも私達の出番は無く問題なく進む。
そして、56階への階段を下りて右壁沿いに進むと、56階のセーフティエリアに着いた……貸し切りです。
岩壁に囲まれた部屋で、他の階のセーフティエリアと同じ広さかな。
精鋭部隊A・Bがセーフティエリアに入って直ぐの左右を使い、エリオット様達が奥の右側で私達が左側にテントを張る事になった。
今日、私……何もしてない。
「テオ、私、何もしてないから夕食をつくるね」
「おう、分かった。アリスのテントは俺が張っておく」
「うん、ありがとう」
私のテントはテオに任せて、皆さんが野営の準備をしている間に食事を作る事にした。
バッグから魔道具の調理加熱器を出して大鍋を乗せ、コカトリス肉と具沢山野菜でトマトシチューを作る。魔法で手早く作って煮込んでおく。
次にテーブルを出し、店用の作り置きのサンドパンを大皿に出した。目玉焼きとチーズ・特製の甘いソースを掛けたコカ肉・ピリ辛ソースのオークハムの3種類。
昼に目玉焼きとチーズのサンドパンを出したから、コカ肉とオークハムを多めに並べよう。1人2個ずつあれば良いよね。
「アリス、皆の料理を作ってくれたのかい? シチューにサンドパンまで……ありがとう」
「エリオット様、サンドパンは3種類ありますけど、1人2個ずつですよ。ふふ」
「分かった。皆にそう伝える」
エリオット様にお礼を言われたのが嬉しくて、オーク肉を一口サイズにカットしたステーキも追加で焼いたら、とても喜ばれた。
「「美味しいな……」」「アリス、美味しいよ!」「ダンジョンで、美味しい食事が食べられるなんて……「ありがたい」」「「「愛し子の手料理……」」素晴らしい」「アリスは料理が上手いね」「「アリス、旨い!」」
変なのも聞こえて来るけど、皆さんに美味しいと言ってもらえて嬉しいです。ふふ。
夕食の後、テオは、精鋭部隊AとBの皆さんに挨拶をしに行っていた。




