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レイの冒険。そして…… 2

【】この内側の文字は、手話の会話内容です。


 紛らわしくてすいません。



 そして私達は目的地に着いた。なんてことはない普通の村、ある一点を除けば。


「ディエゴ隠れて」

「わかりました」


 家の影に身を隠し、宿屋に入る集団を覗き見る。


「予想通り、帝国兵がここにいる」

「はぁ」


 緊迫感を持つ私。それに対し、彼は溜息を吐いた。


「文句があるなら口で言って下さい」

「ここが何処か、当てて下さいレイさん」

「シルバード王国の国境付近にある村です」


 私の返答に、頭を抱えるその態度。流石にムカつく。そんな時は魔法の言葉で耐えるのだ。


(エリサさんに言いつける。言いつける)


 極めて冷静に努め、彼に聞く。


「で、ここは何処ですか?」

「自由都市リリネア。正確にはその近郊にある農村といった所ですね」


 リリネア? 同盟相手の?


 最初、彼が何を言ったのか理解ができなかった。固まる私に彼は説明をする。


「そもそもですよレイさん、私達が身体能力を強化しているにも関わらず、丸一日全力で走り続けて、国境を超えないと思いますか?」

「確かに。ディエゴ、彼らを見張る」


 王国内なら問答無用で捕らえる所だ。

 

 だがここはリリネア。彼らの本質は商人であり統治者ではない。

 都市での犯罪は治安維持の為、厳正に対処する。そこから離れた村々には自衛を求めた。

 都市から兵を送る場合はあるが、それは事前の厄災に対処する為。リリネアにとっての村とは、防波堤としての意味しかない。


 だから、帝国兵がここに居ても、不審ではあるが問題ない。


「了解しました。後で遭難時のマニュアルを渡しますので、暇な時に見て下さい」

「わかりました。勉強しておきます」


 村に迷い込んだ理由。それは私が焦り、現在地が見失ったから。部下を持つ者として情けない。せめて迷った際に、適切な行動を取らなくては。


(顔には出さず心で反省、部下の前だ、その覚悟はある)


 反省を引きずれば、部下は不安がる。帝国兵を前に隠密をしている最中だ、尚の事。ディエゴは問題ないとしても、他の人間はどうだ?


「ディエゴ、彼らが入った宿屋に私達も泊まりましょう」

「わかりました。ただし……」

「わかってます。今回は兄弟を演じましょう」

「了解です」


 軍服を着ていないが、私は同盟で大きな役職を与えられた。顔を知っている人間がいるかもしれない。

 彼の背に姿を隠し、村の宿屋に入る。


「いらっしゃい。なんだい、恥ずかしがりやのお嬢ちゃんだね」


 店に入ると、恰幅が良い女性が出迎えてくれた。笑みを返し、応対は彼がする。


「すいません。妹が失礼を、あ、義理のですけどね。妻の妹で」


 女性の鋭い視線。私達の容姿が似ていない、それが理由だろう。彼はそこを悟った。そして、先手を取ることで追求から逃れる。


「兄さん、ごめなさい」


 頭を下げ、遠慮を態度で表す。


「いいえ。大丈夫ですよ」

「アンタ達、いい兄弟だね。疑って悪かったよ。ここ最近、失踪事件が増えて、皆ピリピリしてたんだ」

 

 涙を流す女性。それを諌め、鍵を貰って部屋に入る。


「兄さん、おばさん良い人だったね」

「そうだな。ならこの村で少し休もうか。路銀に余裕はあるんだ、暖かくなるまで滞在しよう」


 それらを口に出しながら、手話で本音を伝える。


【運良く隣の部屋を借りられましたけど、どうしますか?】

【会話は兄弟を装いつつ、本題は手振りで。どちらにしても慎重に、時間を掛けて行きましょう。相手の狙いもわからないので。それで良いですよねディエゴ?】

【了解です】


 私は壁に耳を付ける。そして会話を盗み聞く。


「情報によると、この周辺に魔族がいる見たいです勇者様」

「わかりました。軍服は脱いだほうが良いんですよね?」

「たっく、ようやく脱げる。熱くてやってられない」


 聞こえるのは3人の声。しかし、先程見た人影は4人。

 

「脱ぐなら自分の部屋に行ってトオル」

「俺はむしろ居たい。男だし、投げるな。俺が悪かったから。ベットを持ち上げるな、宿屋の人に迷惑掛かるだろ!!」


 扉が開く音がする。それと同時に2つの足音が遠ざかった。


「全くトオルは」

「中が良いですね。お似合いです」

「何を言ってるの? 友人以前に同郷だからね。そりゃ、普通の関係性には見えないけれども、私とアイツを男女の中にするのはやめて。流石に無理だから」


 声色が、背筋凍るといった様子で、彼女の言葉、それが本心だと伝わる。さらに聞こえるのは、服の擦れる音。

 宣言通りの行動だ。私達の存在に疑問を持っていない。それが確認出来ただけで。


(一旦はこれでいいか)


 耳を壁から離し、部屋の中で荷解きをする。そしてディエゴに手振りで聞く。


【帝国の勇者、って聞いたことある?】

【勇者ですか? なるほど、グラム将軍の話し通り、なんと俗っぽい龍だ。えっとレイさん、そんな恨めしそうな目で見られても】


 不機嫌だった。ただこれは隠さなくて良いと、先程、ディエゴに言われたのだ。


【グラムの馬鹿。また私以外に色々教えて】


 近くにある枕、それを彼に投げつける。枕は彼の頭部に命中。材質が柔らかい筈だが鈍い音を放つ。押された後頭部は壁に激突。勢いとしては壁に穴を開ける程、しかし、彼は衝撃を上手く逃がし、変わりにディエゴは意識を失った。


「やちゃった?」


 近づき、様子を伺う。呼吸に、眼球の動き、出来る限り調べた。そして彼が目覚めるまで、床に黙って座る。

 

 彼が目を覚ましたのは2時間後。

 

「今回はこちらが悪いので、何も言わなくて良いです。エリサもきっとそう言う」


 後頭部を擦りながら言った。


【ともかく、ここでは話せませんね。村から離れた場所に行きましょう】


 部屋の外に出る際、彼は小さな声で「流石に手振りをしながら、貴方の攻撃は対処出来ませんから」それに、頭を下げ続けるしかなかった。


 *

 

 宿屋を出た後、山を登った。

 中腹までは、人に見られる事を計算し歩く。そこを超えたら全力だ。山頂に着いた直後だが、互いに息は整っている。直ぐに話を始められる、そう思ったのだが。


「ここなら大丈夫でしょう。さて来なさい、今度は石でも構わない。対処して見せましょう」


 身体を広げ、彼は身構えた。


「いやディエゴ、投げませんよ?」


 やっぱりか。気まずさから頬をかく。


「そこを何とか。こちらに名誉挽回のチャンスを」


 必死に訴える彼。

 

 私が言える事ではないが、山を登った事で日が沈み始めた。ただでさえ旅人という、目を引きやすい存在だ。夜になってから村に戻れば、何か企んでいるのでは? と再度疑いを掛けられる。

 例え、村の住人が気にしなくても、帝国兵士は怪しく思う。


「いや、本題」

「わかりました。次の機会に」

「次はないです」


 ここはきっぱり言っておく。負い目のある攻撃では彼に防がれてしまう。敗北が決まった勝負はしたくないのだ。


「先程の話ですね。間違いなく法国は、異世界から勇者を呼んだ。私が俗っぽいと言ったのは、此度の魔王は勇者の力がなくても対処出来るから」

「対処出来る? 私が知る物語だと、勇者は毎回、命を掛けて魔王と戦い、封印するんですが?」

「此度は1000年に一度の、転生直前の龍ですからね。力が最も蓄えられた状態。本来であれば魔王を封印ではなく、消滅が狙える機会です」


 そして彼はメモを取り出す。


「グラム将軍の言葉を一言一句正しく伝えるなら、此度の龍は、千年前に盟約を結んだ王。つまり、帝国初代皇帝の夢である、大陸統一を果たすために力を尽くす。龍が魔王討伐に全力を使わないのはその為だと。ま、勇者がいれば、魔王の封印を片手間に出来ると思っているんだろうな、と。これが全てです」 

「そうか、だからグラムはあの時」


 王城で行われた、7国同盟成立の会談。その場に黒龍が現れた。その時グラムは、失望を隠さず黒龍を見ていた。


(ようやく意味がわかった)


 私は敵を知る。

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