レイの冒険。そして……3
それから数日間、私達は勇者の動向を探った。
「お兄ちゃん、今日はあそこに行こうよ」
「わかった。ただな……エリサに怒られるんだよな」
「お兄ちゃん、いいでしょ?」
「ま、しょうがないか」
何処から見ても、仲良し義兄弟。手を繋ぎ、町中を歩く。すると微笑ましい目線を向けられる。
「ルアちゃんはお兄さんと、仲良しで良いなぁ〜〜」
「ありがとうございます、カオリちゃん」
そして私は、2人いる勇者の1人、女勇者に懐かれていた。あれは服を買いに行った時の話し。
「どうしよう?」
服を買うのは、村に長居をすることになったから。
「今までは、軍服を着回せばよかったけど」
戦場に出れば下着すら変えられない。それは、小競り合いに出ただけの私でも理解できる。なので仕事中は、女性を諦める為、意識を作った。
「急に戻れと言われてもね」
こいう機会があるのは嬉しいが、戸惑いが大きかった。素直に聞くのも抵抗があり、作った意識との向き合い方、それをディゴエゴに相談した、帰ってきた言葉が。
「駄目ですレイさん」
「ディエゴ?」
突如、肩を掴まれる。それは顔を青くしながら、私に懇願しているようにも見えた。
「年若い子が、惰性になってはいけません。エリサは貴方を可愛がっている。そんな子に、おしゃれを忘れさせたと妻が勘違いしたら、私は離婚届を渡されてしまう。それに、グラム将軍にこの事を知られたら」
頭を殴り気絶させる。そして彼から財布を奪い、町の服屋に繰り出した。
(流石に、乱雑に扱い過ぎかな?)
手持ちの少ない私に変わり、彼はお金を出してくれた。まぁ、デリカシーの無い発言をしたのだ、当然の罰ではある。
「後でお金は返そう。手持ちがないだけで私、高給取りなので」
これでも同盟で選出された将軍。多額の給料を貰っている。
緊急時に借りたお金、それを利子を付けて返す位は簡単なのだ。
鼻歌混じりに店に入る。しかし、本当の試練はここからだった。
「いらっしゃいませ。確か村に滞在している、めちゃくちゃ可愛い妹さん。名前を教えてくれる?」
「はい。私の名前はルアって言います」
村にいる人達は問題ない。ただ帝国兵が居るのだ。彼らが私の名前を聞き、地位と結びつける。
(でも帝国が警戒しているのは、同盟ではなくグラム将軍。私の正体に気付く、可能性は低いですけどね)
用心として村にいる間、私はルアという偽名で生活する。事前にディエゴと話し、決めた事だ。
「こっちの服も似合う。あ、これなんてどう?」
「えっと、自分で選ぶので」
店員さんに言ったのだが、彼女は目を輝かせ。
「チチチ、私の目は誤魔化せないよ。ルアちゃん、見せる相手がここには居ないからって、適当に服を選ぼうとしてるでしょ。せっかく可愛いんだから、私が最高の服を選んで上げる」
「私は手短にーー」
「だから勿体ない。お代は要らないから、私のストレス発散に手伝ってよ」
そして3時間、着せ替え人形として拘束されている。しかも、まだまだ伸びそうだ。
「お邪魔します」
「どうぞ」
救世主と成ったのが彼女。
(勇者?)
黒髪の少女と背の高い金髪の女性が入店する。
彼女たちについて、多くを知らない。4人で村に滞在していること。近辺に魔族が潜んでいるらしく、その捜索していること。そして勇者1人につき、同性のお目付役が1人居ること、これだけだ。
黒髪の彼女は、私と店員を見る。そして溜息を吐いた。
「しょうがないな」
彼女は店を一周。全ての服を見終わったのだろう。そこから一式服を選び、店員の前に置いた。
「彼女に一番似合う服、それはこれよ」
「貴方もいい素材。でも私にもプライドが……負けたわ」
彼女の選んだ服を見て、店員は折れた。肩を落とし、店の奥に消えようとする。それを勇者は呼び止める。
「待ちなさい。貴方も見ていかない? この子が輝く瞬間を」
「いいの? 敗者である私が、そんなお溢れを貰って?」
「いいわよ。だって貴方も、可愛いものが好きでしょ? なら同士よ」
「ありがとう旅の人」
手を取り合う彼女達。その時、私が思った事は。
「え、私の意思は?」
「すいません。カオリ様の我儘に、もう少しだけ付き合って貰えませんか?」
「わぁ、びっくりした。それはそうと、終わりが見えたので、多少なら構いませんが」
金髪の女性が背後で囁く。驚く振りをしつつ、十数分程度ならと了承する。
「私は後数着欲しいので。今度は1人でゆっくりと、っひ」
「マダ、エラベル」
「リベンジ、リベンジ」
「迂闊ですね」
燃料を投下したのだと、私は自覚する。結果、さらに2時間拘束され、半日を無事消化。ヘトヘトになりながら宿屋に戻った。
それからだ、女勇者カオリに懐かれたのは。
「時間ですカオル様。今日は東の洞窟が目的地です」
「わかってるよナジェンダ。じゃ、ルアちゃん。またね〜〜」
金髪女性を引き連れ、彼女は村の外に出る。彼らを村の入口で見送り終えると、背後には部下であるディエゴが現れた。
今回は本当に気付かなかった。叫びたい心を我慢し、普段の声色を意識する。
「どうしたのお兄ちゃん」
「レイさん、こちらが監視していた、男勇者とその御目付役が村を出ました。追いますか?」
「ねぇ、ティエゴ? 私達は、彼らの邪魔をしていいのかな?」
前から疑問だった。
彼らは異世界から召喚された。黒龍が持つ欲、それが原因で疎かとなる、使命の保険として。
帝国兵は敵、それは事実。だが彼ら勇者は、私達の世界に蔓延る、問題を解決する為に動いている。協力はもちろんする。だが、監視する必要があるのだろうか? いや、していいのだろうか?
(甘い自覚はある。勇者はともかくあの御目付役達は目を離した隙に、諜報活動や裏切り者を作るかもしれない)
この村に滞在して2週間。彼らを監視する以外にも、やるべきことは多くある。
それにこの村では、兄に同行する義理の妹、それを徹底していた。つまり、私が今欲している実践経験どころか、剣を振ることすら出来ない。
正直、時間を無駄にしているのではなか? と焦り始めていた。
「レイさん、私は貴方の部下です。尻拭いはしても、道を決める事は出来ない。貴方がここを去るというなら、そうしましょう。彼らを怪しむなら、それに従います」
「わかりました。後2日、様子を見ます」
これが私の判断。そして勇者達は、日が暮れても村に戻ってこなかった。




