魔剣
彼女を連れ裏路地に来ていた。そしてドアノブを掴み建物に入る。
「えっと、王城には行かないんですか?」
「行ってもいいが相手も手強そうだ、準備をしていかないと。まずは武器の調達。現地調達って方法もあるが、個人的には好きじゃない」
陽の光は一切入っておらず、中は真っ暗だ。
「げほ。なんか埃っぽいですね」
咳き込む彼女に申し訳無さを覚える。ロイが帝国に向かってからずっとこの場所を放置していた。置かれた机には埃が敷き詰められている。
この責任は誰にあるか? もちろん不在の人間だ。この場にいない奴が全て悪い。
「あ〜〜ロイめ、管理を怠りやがって。レイ、火の魔法は使うなよ。爆発するから」
「え?」
口を開けた彼女。仕草が面白く、背中を反らしながら笑う。
窓に近づきカーテンを開く。そして部屋の中に日差しを取り込んだ。
日に照らされる部屋の中。壁には様々な武器が置かれている。斧や剣は勿論、槍にハルバードという変わり種まで、武器の長さも一通り揃えられていた。
彼女は恐る恐る武器に近づく。そして身の丈に合わぬ、大剣に手を伸ばした。
「重い」
「これだけあれば武器は足りるだろう? ほら好きに選べ」
「はい。で〜〜も、何を選べば?」
顔を赤くし、大剣を壁掛けに戻す彼女。自分に合う獲物を瞬時に見つけるのは大切な技能だ。間違っていたら止めれば良いし、悩ませよう。ただし発破は掛ける。
「悩むなよ。普段使いしてる物は、サイズと重さを調べればわかるだろう?」
彼女はともかく、俺と将軍が要塞に閉じ込められていた理由は、各国が対等に会議を行なうためだ。
他国から、過敏な指摘があったのは事実。だが武力で圧は掛けたくない。それをしては帝国と同じだと考える、シルバード王の気遣いだ。
だから俺は、武器も事前に取り上げられている。
(将軍はともかく、俺は武器の種類は問わないけどな)
拳より威力が出れば良い。普段遣いしている武器は、所詮店で買ったもの。多少値は張ったが、こだわる物ではない。
これがガイルに壊された斧なら、王城に潜り込み、取り戻す事を画策するが。
「レイは剣として、俺はどうしようか?」
武器を選ぶ基準は、その日の気分。使えない物は弓などの遠距離物、選択肢として端から除外している。本当に近接武器であれば何でもいいのだ。
弓を持っていくとしたら奴の為か。
「アレイスターは王宮にいるし、持ってくか? 弓は取り上げられているはずだし……でもなアイツ、剣も普通に使えるんだよな」
奴の生態は狩人。狩人は弓だけが獲物ではない。剣や斧、取り回しの良いものなら、基本使える。弓が得意ではあるのは間違いなが。
「これで行くか」
弓を背負い、剣を帯剣する。最後に手投げ斧を腰に装備し彼女を探す。
「レイ行くぞ……って何処行った?」
目を離して数分、彼女の姿が消えていた。一通り部屋の中を探してみたが、どこにもいない。隠れる場所は無いはず。
「まさか? でも、あそこに行っても何もない」
外出したかの確認をする為、出入り口に向かう。埃の動き方から、家の中にはいる様子。
レイの行き先は確定した。ここには隠し部屋がある。
仕掛けの解除はこうだ。
壁に掛けてある剣を3度触り、机に指定の本を置く。そして試し斬りに置かれたマネキン、その首を真後ろに捻ると壁がスライド、隠し通路が現れる。これを10秒以内に行なう。
「いや、どうやって見つけた? これは?」
机の上にはメモが置かれていた。それには隠し扉の解除方法が書かれており、筆跡からしてロイの物だ
「あの馬鹿」
思わず頭を抱えた。目を覆いながら隠し通路を歩く。
(確かにレイなら問題ないが、他の奴が見つけたらどう……凝ったことしてるな)
気になったのは、インクの触り心地。文字の部分だけ、やけに滑る。
「この触り心地、間違いない。ロイの奴も随分金かけたな。このインク、個人判定までやると結構高いぞ」
彼女の魔力に反応し文字が浮かび上がる、特殊なインクを使用し、メモは書かれていた。
「ま、いいか。アイツ持ち出し。凝ったことをする、理由が気になるが」
メモを捨て通路に入る。長さとしては3メートル程。幅と高さは1人分だ。
問題なのは何故ロイが、彼女を隠し部屋に誘ったのか? あの部屋は殻だった筈。
「何もないだろレイ。早く戻って武器を」
「凄い」
部屋の中に入ると彼女は剣を持っていた。 隠し部屋にある武器は、表の物とは格が違う。それはこの武器を集めた、俺が一番良く知っている。
「どうしてここに?」
誰がこれを持ち込んだ? 考えるまでもない。
隠し部屋に置かれた物、それは俺の魔剣コレクションだ。
俺は狂戦士だ。だから武器にはこだわっている。曰く付きの物から逸話がある一品まで。魔剣と呼ばれる物も多く所持している、かつて頼ろうとした手段だ。そして一族を出る際、母に預けて来たものだ。
だから戸惑った。いや語弊があるな、困った本当の理由はそこではない。これらの武器は俺に適合しなかったものだ。一族の倉庫に眠ってる筈。
(だからこそ……か)
俺には必要のない物、手放すのに後悔はない。心の内に彼女へ託したい強い思いもある。
(大きな期待だな)
表情を緩め、彼女の肩を叩く。
「レイ、この部屋にある武器、全部やるよ」
彼女は固まる。そして両手を突き出した。
「え……貰えません。貰えませんよ。いったい幾ら掛かるんですか?」
「123」
指を折り桁を数える。指が8本目に突入した辺りで、彼女の顔は真っ青になっていた。
「無理です、返せません」
彼女は持っていた白銀の剣。それを元の場所に戻し、胸を撫で下ろす。
「いいのか? これがあれば、俺との差を縮められるぞ?」
言葉を聞き肩が跳ねた。先程、彼女が戻した剣を掴み、眼の前で揺らす。
「この剣は風の魔剣。こっちは水に土。使用者に適正のない魔法属性が使えるようにするものだ。しかも、使用者が最も得意な属性と同等の適性で。こっちの剣はやばいぞ。こいつの凄い所はな、所有者が持つ魔剣を異空間に格納。この武器が生成した剣に、格納した魔剣の能力を付与できるんだ」
俺が説明する魔剣に彼女は魅入られていた。思わず手が伸び、その手に剣を持たせてやる。
意識虚ろで剣を撫でる彼女。耳元でトドメの言葉を贈った。
「俺に並ぶんだろ? 期待してるぞ」
本心をぶつける。先程までの朦朧とした顔ではない。剣を強く握り彼女はこちらを見た。そして頭を下げ。
「出世払いでお願いします」
「俺には必要ない物だ。だからやるよ」
彼女に武器の説明をしていく。真剣な表情と武器を握る姿、それを目にして気付いた。
(あ、王城を襲った奴らで試し切りするつもりだ)
好戦的な彼女を見つつ、少し羨ましい。
武器と共に成長する。使い潰すだけの俺には出来ないことだ。眩しい。そして先の姿を見てみたい。
隠れ家を出る際、彼女の背を叩く。
「存分にやれ。俺が背中を守ってやる」
「はい、それなら億人引きです。今回の首謀者、譲って貰っても?」
「しょうがないな。なら意地でも勝てよ。その戦いに、俺は手を出さないから」
「わかりました。約束です」
「そうしよか」
互いに小指を繋ぎ、城まで歩く。




