息抜き
「さて気分直しだ。レイ何がしたい? 今日は付き合うぞ」
「じゃ、デートして下さい」
顔を逸らし、右手を伸ばしながら言った。心情的には受けてもいいが。
「……どうしよう」
「ご褒美。アズサとデートしたんですよね?」
「あれは……そうなのか?」
アズサの言うデート。それは帝国の都市、ハーケンでの事だ。あの時は様々な狙いがあった。暗殺者を帝国各地から呼び寄せるなど。
あくまで作戦の為。しかし、今から行うのは違う。
「違うと言ったらアズサは怒りますよ。ちなみに、この場で同意しないと私が伝えるので」
「逃げ道なしか」
僅かに顔を曇らせる彼女、それを晴らすには示す必要がある。
俺は彼女の手を取る。しかも勢いよくだ。
「行くぞ。ただしレイに取ってはデート。俺に取っては講義だ。俺が好きなのはアリスだからな、そこは譲れない」
彼女を引っ張り人混みを進む。「わかってますよ」小さな声が背中から聞こえた。
最低だという自覚はある。それでも俺は、彼女に惹かれていた。
健気に後ろを着いてくる。期待をすれば応え結果を出した。悪い気がする奴はいないだろう。思わせぶりな態度だとしても、伝えるべきだ。
「俺はレイの事が好きだぞ。アリスの次の次位に。」
最後の言葉は余計。思いつつ、顔が熱くなったのを自覚する。
「え、待って下さい。もう一回、もう一回でいいから言って。お願いグラム」
ねだる彼女に何も言わない。
(俺だって恥ずかしいんだ)
カフェに無言で入り、膨れた彼女にメニューを渡す。レイが注文を終えた、それを確認すると。
「さてレイ、俺は言ったよな? 講義だって。じゃ、答えてもらおうか。会談に参加している国、その名と特徴を」
彼女の肩が跳ね上がる。騙したな、恨めしげな目を送ってくる。
「まずは名前からだ。はい」
俺は気にしない。むしろ楽しくもあり、手を叩く。彼女は口で踏ん張り感情を抑える。その後、記憶を漁った。
「えっと……グランヴェル共和国。後はその……あれあれ」
出てこないようだ。次第に焦る彼女、目に不安が色濃く出始めたところで。
「落ち着け。別に知らないからって怒るわけじゃない。どの程度知ってるか、その確認をしているだけだ」
あくまで確認。これから起きることを、より深く理解出来るように。
「名前だけなら、まだ幾つか出せる筈? 自由都市リリネア、亜人の国サラサ、あと海の食べ物で有名なモルドナ」
「それだけ言えれば十分だな。ソマリスはともかく、大陸有数の鉱山を持つ、ダルダインは抑えて欲しかった。その辺りはしょうがないな。まぁ、リリネアを覚えていれば安心かな」
ほっと、胸を撫で下ろした彼女。その態度に俺はムッときた。さっきの緊張した様子もそうだが。
「命を掛けた場以外じゃ、俺は怒らんぞ。そりゃ、村での印象もあるから、思われてもしょうがないんだが。俺だって人間だから、機嫌が悪い時はあるけども」
「はははそうですね、すみません。でもごめんなさい。笑いが止まらなくて」
目に涙を携えてまで、笑う彼女。顔を逸らし腕を組む。そして拗ねながら話しを戻す。
「リリネアとサラサは半共生状態。ダルダインは鉱山だけの国だ。前述の3国は、武力の面で他国に大きく劣っている。そしてモルドナは過去、シルバード王国に借りがある。ソマリスだが、この国は大陸有数のババを引いた国だから、こんな機会でもないと助けられない」
「ババ?」
「そう。大陸で最も貧しい土地を持つ国。それは本題じゃないからいいや。問題はグランヴェル。民も政治に参加できる、といえば聞こえは良い。だが一番成熟されていない国家形態であり、尚且つ熱意が無ければ腐る木だ。そして最も……忘れてくれ」
話に熱中していたらしい。
互いのコップと皿は既に空、新たに注文してもいいが。
「どうします?」
笑みの中に名残惜しさを宿す彼女。俺の答えは決まっている、彼女の為に今の時間を使う。
「レイが決めれば良い。ここで追加注文をしたいならそれでいい。別の所に生きたいなら構わない、どうする?」
「じゃぁ、グラムの意見が聞きたいので、買い物に付き合って下さい」
「いいぞ。今日は全部奢ってやる」
後、僅かな時間だけだしな。その言葉を胸にしまい、会計を済ませ店を出た。
「早く行きましょう」
彼女に手を引かれ街中を歩く。行き先はそれこそ様々だ。
鞄や帽子、ワンポイントのアクセサリー、高級店には行かなかった。露天などの小さなお店ばかり。
彼女が俺の財布に気を使ったか? それとも田舎者の価値観故か? 俺は聞けない。似た価値観の持ち主だ、疑問よりも心地よさが勝ってしまう。
唯一、店に入ったのは、服を買う時のみ。
「お嬢さん、夏物は季節が終わるのでお安くしますよ」
店員に言われ、気分良く選んだ彼女。結局、ワンピースと冬服を一着ずつで落ち着いた。
「少し暑いですね」
「着込んでるからな」
軍服で街中を歩くわけには行かない。俺達は、前もって用意していた、上着に身を包む。
おかげで彼女の容姿に惹かれ、振り返った者以外には、さしたる興味を持たれていない……はず。
前を歩く彼女は足を止めた。手を後ろで組み、振り返る。
「私は、グラム以外には興味がないので」
見透かす言葉。俺は人差し指を頬でかきつつ。
「本当に今日は鋭いな」
「グラムは感情が顔に出やすいと最近気付いたので。柔らかい雰囲気な時限定ですけどね」
「それって普通じゃないか?」
「その普通を理解されないのが、将軍グラムでしょ?」
「違いない」
鼻を鳴らし歩く。その横を満面な笑顔で共にする彼女。これがデートと言わずなんという……だがやっぱり言えないか。
「でもこれは、デートとは言えないですね」
「だな、ごめんな」
先ほど、心の中で言い淀んだ理由。それは俺を見る周囲の目だ。老人は当然、成人済みの男女、そして子供までもが手を合わせ拝んでくる。
異様な雰囲気に気まずさを覚えていた。
「ちょっと頑張り過ぎた」
「グラム将軍はそれほどまでに国民に必要とされている。という事です」
砦や要塞を帝国から守ってきた。そして、道すがらにある村や街。無力な者から何かを奪う、帝国の有り方が許せず、無作為に救ってしまった。
「面倒だが間違ってないよな」
「はい」
自分の事ではないのに、彼女は嬉しそうに同意する。誇らしさを覚えながらも心の奥底では。
(目的を果たしたら、この国を出ないとな)
冷静さが、心に水を掛ける。違うな。本当の理由は、彼女や王子、知り合いと離れるからだ。
空を見ながら考える。次の瞬間、地面が揺れた。
「なんですか一体?」
彼女は屈み、首を動かす。しかし、震動の方角は掴めていない。
(無理もない。俺も予想してなかったら、わからなかった)
緩めている所に、起こった不意。街中の人々は気付かず、変わらぬ生活が動いてる。それほど、小さな衝撃だった。
「王城ですか?」
彼女が、答えに辿り着けたのは、俺がある方角を見ていたから。
首を振り肯定。彼女に手を伸ばし笑う。先程とは全く別の意味で。
「ま、予想通りだな。行くぞレイ、仕事の時間だ」
「はい。付いていきます、どこまでも」
恐らく、敵と味方の区別はつかない。敵は潜入。我が国の騎士服、又は軍服を手に入れている。だが、見破る方法はある、命令すればいい。
俺達以上の権力者は、城に殆どいない。王と王子位。つまりだ、逆らう奴はぶっ飛ばせば、わかりやすくて爽快。
「始めようか。同盟成立、その最後のひと押しを」




