生み出された英雄
「お前たち止まれ、ここは王城だ」
正面口から入ろうとする。当然のように守衛が現れ、首元に槍を突きつけた。
「落ち着けって。槍が当たったらどうする? それで? どうして入っちゃいけないんだ?」
揺れる穂先を収めるため、両手で兵を宥めながら問う。
「今は国家の代表達が重要な会議を行っている。誰も入る事は出来ない」
「そうか、なるほどなるほど」
頷き、納得の笑みを深める。そして衛兵の背後を指差す。
「あそこの赤いシミはなんなんだ?」
返答はない。衛兵は急ぎ振り返る。
「ちなみにだ、俺が誰だか知ってるか?」
背後から声を掛けると、衛兵の動きは止まった。そして動き出したと同時、俺に向かって槍を振るう。
その一撃は姿勢を低くし回避。
「我らが怨敵グラムしょーー」
横から飛び出した金色の影。それに衛兵は腹を殴られ、蹲った。
基本、門番は2人1組。死角に隠れていた衛兵は、レイの背後から斬りかかる。
「っは?」
何もない空間、そこに現れた衝撃により剣は弾かれた。手を離れ、衛兵の背後に剣は音を立て転がる。
「器用だな」
「まだまだです」
思わず出た言葉。俺は武器の習熟に時間がかかる人間だ。手にした魔剣を即座に使いこなす、俺には出来ぬ芸当だ。
感心しつつも足は止めない。棒立ちの衛兵、その顎を掠めるよう拳を滑らせた。脳を揺すられ、衛兵は倒れる。
「何故わかった?」
「何故わからないと思った?」
彼女に拘束されている衛兵、いや間者か。膝を曲げ、俺は不動の笑みを見せる。
「何も隠せてない。槍から伝わる恐怖も、死角に隠された血の匂いも」
「ッガ」
彼との会話を楽しむ。しかし、後頭部に加えられた衝撃、それにより間者は意識を失った。
「レイ、俺は今、楽しんでんだろ?」
「それより急ぎますよ」
「心配ないと思うぞ?」
「何故ですか? 問題があると思ったから、ここに来たのでしょう?」
「間違いじゃないんだが」
頭部をかきつつ、真剣な彼女を見る。これを聞けばレイは憤る。正確にはこの国に住む人達は皆か。
「他の国はな、自国の護衛を連れているんだ、しかも集団で。だから身くらいは守れる筈」
「はぁ? 私達は要塞で缶詰なのに護衛を連れている?」
「追加情報を言うと、我が国の兵及び騎士の殆どは王城にいない。居ても最低限だ」
眉が寄っていく彼女。俺は頷きつつ、目を閉じ笑みを見せた。
(だって楽しみだろう? レイの戦いを後ろから見れるのだから)
「主催国は責任を求められる。なのに」
表情の変化に彼女は気づかない。当然だ。彼女は俺の前を歩き、会議を行っている王の間へと突き進む。
そして階段を登った時だ。剣戟が耳に届く。
「援護……グラム離して下さい」
彼女の肩を掴む。突っ込もうとしたレイは出鼻を挫かれ、一度力を抜いた。
「まぁ、聞けって」
彼女を止めた理由。今回の事件で俺がどんなスタンスを取るか、それを明確に表すためだ。
「レイ、今回の7国同盟。各国がそれぞれ代表を出し、特別な地位を与える形で話が纏まる。そういう手筈だし、陛下から直接伝えられたんだ、間違いない」
「それが何か?」
首を傾ける彼女。しかし普段の無垢な目ではない。焦りが交じる、ぶっきらぼうな返答。子供が行なう、興味のないことへの態度そのものだ。
「本来はお前が、護衛として会談に参加する予定だった。つまり同盟によって各国から選出される代表者に、お前が選ばれる。だからな、俺を使ってみろ。今から俺はお前の指示通り動く、理解できたか?」
「は、はい。わかりました?」
彼女は目を開き、呆然としていた。現実感が持てず、剣を落としそうになった時、ある声が聞こえる。
「ラクザ、大丈夫か?」
「ああ、俺達はシルバード王国の騎士だ。こんなところでやられるか!!」
彼女は駆け出す。そして左側の通路に飛び出す直前、俺へと指示を出した。
「グラムは彼らを、敵は私が仕留めます」
「了解」
敵は二手になっていた。
追い込んだ騎士達に近づき、トドメを刺そうとする者。後ろから指示を出し、生き死にを娯楽として捉えている者。
後衛からの指示に従い、ローブの男が騎士へと詰め寄った。
仲間を庇い、騎士が剣を構える。だが力の差は歴然。騎士の腕は押され、胸を斬り裂かれた。
心配なのは騎士の容態。斬り裂かれはしたものの、鎧を着ている為、傷は浅い。
(良き騎士だ)
押されているとはいえ、腐っても騎士。相手の全力を引き出し、己の存在に集中させている。彼らのお陰で、相手の背後を苦労せず取れる。
息を潜め、相手の背後に詰め寄る。そして首を一撃で飛ばした。
「大丈夫か?」
「は、はい。ってグラム将軍!! 王城に居ていいんですか?」
「駄目だから内緒。今はアイツの部下やってる」
人差し指を立て、口の前に置く。次に彼女へ目を向ける。
今日の主役は俺ではない、彼女なのだと示したかった。
習うように騎士も彼女に目を向ける。
彼女は目に見えない斬撃を利用し、左右同時の攻撃を仕掛けた。
ローブを着た男は彼女の剣を受け止める。しかし認知できない斬撃に左腕を斬られ、痛みで体を硬直させた。
(レイの奴。剣を受け止めさせたな。後衛職は痛みに馴れていない。だからこそ隙が生まれる)
彼女の剣は輝き、ローブの男を光の中へと消し飛ばした。
「まじか!!」
「あの子見覚えがあるぞ。ほら例の賢者捕縛」
「確かにな、凄いやつだ」
彼らも苦戦したであろう相手。それを彼女は一瞬で返り討ちにした。背を熱く見るのは、必然のことだ。相手を片付けた彼女はこちらに寄ってきた。
「グラム、その人達は?」
「無事だよ。傷も命に関わらないしな」
「良かった」
肩を撫で下ろす彼女。
「なぁレイ、見せつけてやれよ。国のトップを守るので精一杯な、お前の同僚になる奴らに、格の違いを教えてやれ。負けんなよ」
目を瞑り、息を鋭く吐く彼女。
「当然です。貴方の横に並ぶ、それを実現するためには負ける事は許されない。特等席で見せて上げますよ」
彼女は燃えるような目と、自慢げな笑みを携え宣言した。
(ロイ、感謝するよ。俺はレイに、与えられる全てを渡せた。お前が機会をくれなかったら、悔しくて渡せなかっただろうな。なんせレイは、真っ当な俺を直ぐに超えるだろうから)
手が届かなくなるのはまだ先。
敗北を認めるのは辛いものだ。それ以上に誇らしい、彼女を導いた者として。
(こりゃ駄目だ。悔しくてたまらないや)
一時抜かれる可能性がある、それも認めた相手にだ。
俺はポケットに手を隠す。そして彼女にだけは見られないよう、拳を固く握った。




