餌になれ
<魔人>の正確な目的までは分からないものの、明らかにリセイに対して意識を向けているので、自分に関わることであろうとは察せられた。
と言うか、
『まさか、僕に一目惚れとか……?』
敵の側にも美少女がいた場合にありがちな展開として、まったく珍しくもない話の流れが頭に思い浮かんでしまう。
しかしだからと言って自分がその当事者になったとしたらどうすればいいのかはまったく分からなかった。
まあ、大抵はなんだかよく分からない形で上手くいってしまうのだろうが、だからこそどういう道理でそうなるのかが分からないのだ。いかにもイケメンキャラなら普通に好かれても違和感もないものの、自分が特に理由もなく女の子に好かれるはずがない。
ただ、今回の場合、可能性があるとすれば……
『さっき、僕が負けなかったから…かな……?』
魔人がどういうメンタリティを持っているのかはさっぱりなものの、もし、見た目のとおり野生の動物に近いそれを持っているのだとしたら、
<強いオス>
というのはそれだけで魅力があるのかもしれないという推測はできる。
でも、だからと言ってそれが正しいという保障はどこにもない。そういう前提で変に友好的に馴れ馴れしくしようとして万が一間違っていたら……?
自分はともかくティコナやライラやファミューレに危険が及ぶのは嫌だ。三人以外の誰に危険が及んでも嫌だ。
だとすれば迂闊な真似はできなかった。
一方、ライラとしては、
『リセイを追ってきたのかもしれないが、少なくとも今のところは攻撃的じゃないな……』
と冷静に判断。その上で、
「リセイ…こいつはお前が目的だと推測できる。だから悪いが、お前にはこいつを街から誘い出すための<餌>になってもらう。
いいな?」
淡々と告げてきた。
どう対処すればいいのか戸惑っていたところに明確な指示が与えられたことで、
『<餌>になれ』
と言われたにも拘らず、リセイはむしろホッとした。
「はい……分かりました……」
素直にそう応える。
何しろ、この<魔人>とまともに戦えるのは自分だけなのだから、しかも自分を追いかけてきたのだとしたら、他の人に迷惑を掛けたくなかった。
けれど、それで納得いかなかったのはティコナだ。
「そんな…! リセイだけに押し付けるんですか!? 酷いです…っ!」
軍事的な知識のないティコナにとっては、どうしてもそう思えてしまうのも無理はないだろう。彼女はリセイのことが心配だからこそそう言わずにはいられない。
リセイにもそれは分かる。
「大丈夫だよ、ティコナ。僕なら何とかできるから……」
とは言われても、納得できないだろうことが。
「リセイ……っ!」
泣きそうな声を上げる彼女に、今度はライラが口を開いたのだった。
「大丈夫だ。リセイだけに危険な真似はさせない。私も一緒だ」




