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僕がこの世界で生きるワケ  作者: 京衛武百十
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倒し切れる光景

「げはあ…っっ!?」


リセイの全力の掌打を胸に受け、<少女>が、声、と言うよりは、


『肺の中にあった空気がリセイの掌打によって破裂するように押し出された』


と言った方がいい<音>を発しながら、まるで自動車に撥ね飛ばされるようにして吹っ飛び、太い木の幹へと叩きつけられた。


少女の体がぶつかった木は、あまりの衝撃に傾き、太い根が地面を裂いて地表に現れる。


漫画やアニメでは、こういう時、木の幹が弾け飛ぶようにして折れたりするのだろうが、これだけでも十分、有り得ないことが起こったのだと、その現場を見た者には察せられた。


ましてや、敵に見立てた丸太に木剣を打ち込む鍛錬なども行う兵士や騎士だからこそ、それが有り得ないことだとよく分かる。


鍛錬用にしっかりと地面に打ち込んだ丸太は、人間の力では傾けることすらできないからだ。


普通の人間ならこの一撃で体の中がぐちゃぐちゃに崩れて、


<肉のスープが詰まった皮袋>


になるだろう。


当然、それを見ていたライラ達の頭にも、血を吐いて動かなくなる魔人の姿がよぎった。


なのに……


なのに、少女の姿をした魔人は、その場に膝を付きはしたものの、苦痛に顔を歪めはしたものの、燃えるような目でリセイを睨みあげ、歯を剥き出したのだ。


『あ…あれで生きてるのか……っ!?』


『こんなのどうやって倒すんだ…!?』


兵士達はおろか、ライラやレイすら、蒼褪めた表情で呆然と見詰めた。


けれど、唯一、その魔人の視線を真っ直ぐに受け止めて、睨み返している者がいた。


リセイだ。リセイだけはまだ決着がついていないことを察していた。この程度では終わらないことを理解していた。


この<少女>に打ち込んだ掌打の感触が、それまでジュオフスらを倒した時のものとは全く違っていたから。硬く引き締まった筋肉が衝撃を受け止め、内臓にまではダメージを通さなかったことが感じ取れてしまったから。


『この()……強い…力が強いだけじゃなくて、ものすごく打たれ強いんだ。手加減なんかしたらこっちが一瞬でやられる……っ!』


だからリセイも、構えは解かなかった。次に来るどんな攻撃も受け止めて、返してみせようと強く思った。


再び、リセイと少女の姿をした魔人との間でビリビリと空気がきしんでいくのが目に見えるようだった。


が、少女の姿をした魔人は、リセイが一瞬でも隙を見せれば襲い掛かろうという気概を見せながらも、じりじりと、背にした木の幹を回り込むように移動していく。


間合いを取ろうとしているのは、さすがに察せられた。しかしだからといって迂闊に追撃を掛けようとすれば逆に返り討ちになる未来も見えてしまう。


リセイが攻撃を仕掛けようとしないのもそれだった。


この場で倒してしまいたい。けれど、倒し切れる光景がまったく頭に浮かんでこなかったのである。



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