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僕がこの世界で生きるワケ  作者: 京衛武百十
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見逃した

結局、リセイは動くこともできずに、<少女の姿をした魔人>が茂みの中に消えていくのを見守るしかできなかった。


別に、


『少女の姿をしていたから見逃した』


わけじゃない。ただ、本当に迂闊に攻撃を加えることができなかっただけだ。調子に乗って追撃しようとするとその隙を突かれて逆襲される可能性が高いと感じたのである。


それが証拠に、完全に気配が消えると、


「はあ~っ!」


と大きく息を吐きながら、腰が抜けたようにその場に座り込んでしまった。


極度の緊張に、リセイの精神がそれ以上持ち堪えられなかったのだ。


体を動かしたことによる発汗以上に彼の体を濡らしたのは、<冷や汗>だった。


そしてそれは、リセイだけじゃなかった。


「大丈夫か、リセイ……?」


そう問い掛けたライラも、青褪めて冷や汗をたらしている。


「はい…なんとか……」


体の方は異常はない。どこも痛くない。ただ、腰から下に力が入らない。


張り詰めた緊張感が辛うじて支えてくれたものの、これが現実だ。


だからリセイがあの魔人を取り逃がしたことを責める者もいなかった。むしろ、


「いやほんと、よくあれを追っ払ってくれたよ!」


「お前がいなきゃ俺達は今頃どうなっていたか…!」


と感謝の声を上げる。


けれど、リセイの方は浮かない顔だった。


『僕がいるときばかり、こうやって魔獣とか魔人とかが現れる……


やっぱり僕が……』


ベルフ、アムギフ、そして今回のジュオフスと<魔人>。


偶然にしては続きすぎている。


これはもう、あの<自称女神>が言ったとおり、リセイ自身が魔獣や魔人を無意識のうちに呼び寄せていることは間違いないだろうと思えた。


すると、部隊を整列させて重傷者がいないことを確認したライラが、


「よし! これより帰還する」


と声を上げた後、


「リセイにはさらに詳細な話を聞きたいので、私と一緒に馬に乗れ」


と命じた。


「……はい…!」


一瞬、ギョッとなったリセイだったが、素直に応じた。何を訊かれるとしても仕方がないと思った。


もしかしたら、今日の食事も、このことについてだったのかもしれないとも思った。


それが、今回のことで早まったということなのだろうと……


なのに、リセイを先に馬に座らせ、彼を抱えるようにして一緒に乗ったライラは、街に向けて移動を始めてすぐに、


「ありがとう…お前のおかげで一人も犠牲者を出さずに済んだ……礼を言う……」


と切り出した。


その声がまた柔らかくて、まるで包み込まれるかのような。


「隊長……」


思わず振り返ると、そこには、本当に彼を労わり慈しんでくれているのが分かる、穏やかな表情。


こういうのを、


『菩薩のような』


と言うのかと、リセイは思ったのだった。



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