だんらん
日が沈むころに憩いの里に戻った。僕の仕事は終わりだが原口は施設に居住しているらしく、夜間もパトロールに出ると言っていた。
パトロールを終えてマンションへ戻ると、冬子と咲愛が昼食の準備を進めていた。
「マサキさん、奈緒ちゃん、おかえりなさい。お勤めご苦労様」
部屋から出てきた雪乃が、僕たちの顔を見るなり声をかけてきた。
「ただいま、雪乃ちゃん。学校にはもう慣れた?」
「それがさぁ、聞いてよー。私の学校の嫌いな先生が生き残ってて、マジ最悪なんだよね。通称『スケシマ』って呼ばれてて、何かと触ってくるんだよ」
「あー、そういう人いるよね……。私も部活のコーチに触られたことあるし」
「やっぱり!? 奈緒ちゃん可愛いもんね。……それよりお姉ちゃん、ご飯まだー?」
雪乃は奈緒と和気あいあいと話していたが、すぐに料理の匂いにつられて冬子の方へ視線を向けた。すると、冬子の手伝いをしていた咲愛が、ジト目を雪乃に向けた。
「雪乃ちゃん。ご飯くらいは自分でよそってください」
「や、やろうと思ってたところだし!」
雪乃は少し不貞腐れた様子で言い返す。
「雪乃ちゃんも、少しはお手伝いしてくださいね」
「私は勉強が忙しいの! それに木下家うちはこれでいいの。子供が口出ししない!」
「おいおい、喧嘩はダメだぞ。それに雪乃も、咲愛相手にムキになるなよ」
大人びた小学生と、どこか幼さの残る女子高生のやり取りに、僕は苦笑いを浮かべるしかなかった。
やがて食卓に料理が並び、みんなで昼食を囲む。
「あれ、今日の味噌汁、すごく美味しいね」
「咲愛ちゃんが、ご自宅から美味しいお味噌を持ってきてくれたんです」
冬子がそう教えてくれた。
「へえ、咲愛は料理もできるのか」
「おねえちゃんのご飯はおいしいよ! お母さんのはおいしくない」
咲愛の妹である千鶴が、無邪気にそう言った。
詳しく話を聞くと、母親の広瀬さんは家を空けることが多く、幼い千鶴の世話は殆ど咲愛がしていたらしい。それを聞いて、咲愛が同年代の子に比べてどこか大人びている理由に納得がいった。
そんな咲愛だが、どうにも雪乃とは相性が悪いらしい。一方で、姉の冬子とは妙に息が合っているようだった。冬子も頭が良いので、思考のスピードが近い二人は話が合うのかもしれない。
「そう言えば……この街で配信をしてる『ヒカマル』って知ってる?」
食卓での会話の合間、思い立って尋ねてみると、雪乃がすぐに身を乗り出してきた。
「もちろん知ってるよ! 私、リスナーだしね! お洒落だし、この街のグルメとか穴場のお店とか教えてくれるんだよ」
「ほう、彼女はそんなに有名なんだね」
「うん、凄く有名だよ! 学校の友達もみーんなフォローしてるもん」
彼女の垢抜けた雰囲気と明るい人柄に憧れる同世代の女子高生は多いのだろう。雪乃の興奮気味な様子からも、その人気ぶりが窺えた。
「それにね、お姉ちゃんの先輩なんだよ」
「えっ?」
意外な繋がりに驚いて冬子の方を見ると、彼女は静かに眼鏡の枠を押し上げながら頷いた。
「園原ヒカルさんは、私の在学中の先輩です。典型的な陽キャで、生徒会にも所属されていました」
「面識はあるの?」
「ええ、何度もお話ししたことがあります」
「お姉ちゃん、頭が良くて綺麗だからさ。目をつけられて生徒会に勧誘されてたんだよー」
雪乃が誇らしげに付け加える。
確かに、冬子ほどの美貌と頭脳があれば、自分たちのグループに引き入れたいという心理が働くのも当然だろう、と納得した。
(なるほど……園原ヒカルか)
一応、彼女の身の安全は確保できている。急ぐ必要はないが、冬子との接点もあるのなら、コミュニティに引き入れる仲間候補として、少しずつ距離を詰めていくのも悪くない。
この時の僕は、そんな風に甘く考えていたのだった。




