歪んだ支配欲
「奈緒、それじゃあ帰ろうか」
声をかけると、奈緒はパッと表情を輝かせて駆け寄ってくると、僕の腕を愛おしそうにしっかりと抱き抱えた。
「そんなに嬉しいのかい?」
「はい! マサキさんや雪乃ちゃんたちが待っているマンションに、早く戻りたくて溜まらなかったんです」
チラリと大場の方を見ると、彼は露骨に口惜しそうな顔でこちらを睨みつけていた。これ以上、無駄に彼の憎しみを買うのも得策ではないだろう。
「……奈緒、あまりベタベタすると大場くんが気を悪くするぞ」
「あ、マサキさんとの関係は大場さんにもちゃんと話してありますよ? それでも友達になりたいって言ってくれていました」
僕から見れば「隙あらば奈緒を奪いたい」という男心が透けて見えるのだが、奈緒は彼の言葉を言葉通り素直に受け止めているようだった。
だが、大場が真剣に奈緒を好いているのは事実だし、万が一僕の身に何かあった時、彼は命がけで奈緒の力になってくれるタイプだ。そう考えると、彼と良好な関係を保っておくことは決して悪くないのかもしれない。
車に乗り込んでも、奈緒は助手席から体を倒し込むように寄り添ってきた。
「あの……いつもの橋から、川を見てみたいです」
マンションの近くまで戻ってきたところで、奈緒がポツリと呟いた。
ふたりにとって、あの橋は野外での情事を意味する暗号のようなものになっていた。
僕は何も尋ねず、ハンドルを静かに橋の方向へと切った。不安そうに僕の顔を伺っていた奈緒の瞳に、パッと眩しい笑顔が咲く。
「マサキさん、大好きです。入院している間、ずっとマサキさんのことばかり考えていたんですよ」
「……エッチなことかい?」
「そ、それもありますけど……! もしあの日、マサキさんがベランダに現れなかったらどうなっていただろうとか……私はマサキさんの役に立てているのかなとか……もし、二度と迎えに来てくれなかったらどうしようって……不安でたまらなかったんです」
「君は僕の大事なパートナーだよ。迎えに行かないわけがないじゃないか。……でも奈緒、君は僕のどこがそんなに好きなんだい、セックスかい?」
「それもあります……けど……正義感? ううん、違うな。とにかく、私たちのことを命懸けで守ろうとしてくれるところとか……私なら諦めてしまうような状況でも、考えもつかないような無茶苦茶な方法で成し遂げてしまうところが……すごくカッコいいんです」
奈緒はズバ抜けた身体能力と性格の良さを持ち、女性としても化粧などしなくても十分に綺麗で、愛らしく鍛え抜かれた肉体美を誇っている。平凡な男の僕には、およそ不釣り合いなほどの魅力的な女の子だ。
そして彼女はこれからも外で活動することが多く、大場のように彼女に言い寄り、惹かれていく男は後を絶たないだろう。
(……奈緒を手放したくない)
彼女は僕を過大評価している。その理由の一つは、屋外での過激なセックスなど、彼女の常識では追いつかないような非日常の刺激で僕が彼女を振り回し、魅了しているからだ。
(もう少し、彼女を僕色に染め上げる必要がありそうだ……)
心の中で、ドロリとした独占欲と支配欲がメラメラと燃え上がっていくのを感じた。
僕は橋へと向かう手前の角を曲がり、電車のガード下の暗がりに車を滑り込ませてエンジンを切った。周囲を見回しても、ゾンビの影はない。
「……橋には行かないんですか?」
「橋まで我慢できなくてね。そこのガード下でいいだろ?」
「はい……私も、はやく欲しかったですから……っ」
薄暗いガード下に足を踏み入れると、僕は彼女をコンクリートの冷たい壁に押し付けた。そして、奈緒が穿いていたジャージのパンツを強引に引きずり下ろした。
「えっ……いきなりですか!?」
「言っただろ、奈緒と一緒にいたら我慢できなくなったんだって。……嫌かい?」
「そんなわけないですっ……! マサキさんが私を激しく求めてくれて……すごく嬉しい……っ」
ジャージのフロントジッパーを下げ、シャツを乱暴に捲り上げてブラジャーごと豊かな乳房を露出させると握るように掴んだ。そして現れた硬い突起に吸い付き、舌先で転がすように弄んだ。
「あっ……今日のマサキさん、すごく激しい……っ」
乳首を吸い上げながら股間へ手を伸ばすと、奈緒の愛液はすでに溢れ出し、指先を濡らしていた。
僕は自分のズボンを押し下げ、固く脈打つ肉棒を露わにした。そして奈緒の太ももの間に割り込み、濡れそぼったワレメへ一気に押し当てた。
「もう……入れるのですか……っ!? ああぁっ……乱暴すぎます……っ。けど……すごくいい……ッ!」
ズブズブと根元まで突き挿すと、奈緒は歓喜のあえぎ声を漏らした。
「……もっと乱暴にするけれど、いいかい?」
「はい……っ」
尋ねると、奈緒は上気した瞳で僕をじっと見つめ、深く頷いた。その瞳の奥には、恐怖ではなく期待と妖しい欲望の色が宿っていた。
僕は彼女の首元を両手で強く掴んだ。そして腰を激しく打ち付けて肉棒を突き刺しながら、首を絞める手に徐々に力を込めていく。
「あぁっ……はぁっ……はぁっ……っ!」
「どうだい……? 苦しいかい?」
「め、目の前が……フワフワ……します……っ」
「もっと……してもいいかい?」
奈緒はコクンと頷いた。僕は恍惚とする彼女の首をさらに強く絞め上げながら、激しく腰を動かし続けた。
「あぁぁっ……はぁっ……はぁっ……頭がフワフワして……すごく……気持ちいいです……っ!」
「それなら……このまま続けるよ……っ」
奈緒が自覚しているかは分からないが、彼女は今、自分の命を完全に僕の手の中に委ねているのだ。もし僕がこの手の力をほんの少し強く込めすぎれば、彼女の命は簡単に途絶えてしまう。
そう考えると、彼女の存在全てを完全に支配しているという狂おしいほどの全能感が込み上げ、下半身の興奮はピークへと達した。
腰を打ち付け続け、彼女が白目を剥いて失神しかけるギリギリの限界を迎えた瞬間、僕は抑えきれない快楽とともに彼女の体内深くへと激しく射精した。
奈緒もまた荒い息を吐き出しながら、低酸素状態がもたらす未知の絶頂に身を震わせていた。
『何をしている!! 警察だ、そのまま動くな!!』
突如、背後から凄まじい怒号が響き渡った。
暗闇の中、僕がコンクリート壁に全裸の女性を押し付け、首を固く絞め上げている──その異様な現場を外部から見ればどう映るか。
一瞬にして己の犯した狂気の状況を客観視した僕は、冷や汗が一気に噴き出し、激しい混乱に陥った。




