木下姉妹の特技
マンションへと戻り、冬子の自宅から持ち出したデスクトップパソコンを部屋へ運び込んでいると、それに気づいた雪乃が目敏く声をかけてきた。
「あーっ! お姉ちゃんとマサキさん、家に戻ってたんだ! 私も行きたかったのに……!」
「雪は朝ごはんも食べずに寝ていたじゃない」
「そうだけど……。ねえ、ママは戻ってきたりしてなかった?」
「ううん……まだ、誰もいなかったよ」
「そっか……。今度は私も連れていってね? 私だって自分の部屋から持ってきたいものが色々あるし」
「そうだね、今度は一緒に行こう」
冬子の自室へパソコンを運ぶと、彼女は目を輝かせながら早速ドライバーを手に本体のサイドパネルを開け、作業を始めていた。
「ふははは……っ! 私の愛機に、こんなハイエンドのグラボを搭載する日が来ようとは……! この部屋の前家主には感謝の言葉しかありません!」
岡田の仕事部屋の棚には、新品のPCパーツがいくつも未開封のまま放置されていたらしい。冬子の話によれば、ひとつで数十万円もするような最上位クラスのパーツらしい。
「マサキさん、髪伸びたよね。私が切ってあげようか?」
リビングで一息ついていると、隣に座った雪乃が僕の襟足を引っ張りながら覗き込んできた。
「そう言えば、だいぶ伸びたな……。毎日必死で気にしている暇もなかったよ。雪乃は髪を切れるのかい?」
「うん! 自分の前髪も切るし、お姉ちゃんが部屋に引きこもるようになってからは、ずっと私が切ってたんだよ?」
「それじゃあ、お願いしようかな」
「にっしし、任せて! カッコよくしてあげるね!」
雪乃は嬉しそうに笑うと、僕の手を引いて脱衣所へと連れて行った。
このペントハウスの脱衣所は大理石造りで極めて豪華であり、大きな一枚鏡を備えたドレッシングルームのような造りになっている。
「ここには床屋さんが使うようなエプロンが無いから、服は脱いじゃった方がいいよ」
言われるがまま、僕は服を脱いで全裸になった。
「ついでにお風呂も沸かしておくね」
雪乃は気を利かせてボタンを押し、湯船にお湯を溜め始めてくれた。
「どのくらい切る?」
「うーん、雪乃にお任せするよ」
僕は普段から髪型やファッションに頓着するタイプではない。一応接客業だったので、襟元や耳周りに重くかからない程度に清潔感を保っていれば十分だった。
「そっかぁ、私の好きにしていいんだ……にひひっ」
雪乃は悪戯っぽく笑いながら、どこで見つけてきたのか電動バリカンを手にしていた。嫌な予感がして背中にツンと緊張が走る。
「……大丈夫だよね?」
「当たり前だよ! 私の大事なマサキさんが笑われるような無様な髪型になんてしないよ!」
雪乃は胸を張ると、バリカンのスイッチを入れた。ブーンという振動音とともに、後ろの首筋あたりから刈り上げ始めていく。
「フンフンフン〜♪」
上機嫌で鼻歌を口ずさみながら、手際よくバリカンを滑らせていく雪乃。
最初は不安だったが、後ろと左右にバリカンを当て終えると、彼女は「よしよし」と満足そうに頷き、今度はハサミと櫛を手にして長さを整え始めた。
「手つきが本物の美容師さんみたいだね」
「でしょー? 友達にもよく言われるんだ! 私、勉強は苦手だからさ、将来は美容師とか美容系の仕事に進むのもいいのかなって思ってたんだよね」
「いいと思うよ。自分に向いている仕事に就くのが一番だからね」
「それかさ……マッサージ屋さんとかもいける気がするんだよね」
「マッサージ?」
「うん。人に触れるのは平気だし、気持ちよくなってもらえると、私もうれしいから」
「……そっちのマッサージは、あまりお勧めできないかな」
「そっち? あーっ……エッチな方のマッサージのこと!?」
「違うの?」
「違うしー! でもでも……マサキさんがしてほしいって言うなら、全然いいよ?」
軽口を叩き合いながらも、雪乃の視線は真剣そのものだ。真面目な顔つきでハサミを細かく動かしていく。
「こんな感じで、あとは毛先が自然になじむように……」
シャキシャキと素早い手つきで毛先にハサミを入れていく。
「どうかな?」
鏡に映る自分を見ると、驚くほど整っていた。
「いつもの床屋さんよりずっと上手だよ。雪乃は本当に美容師に向いているよ」
「でしょー! にゃははっ! マサキさんの髪型さ、サイドの刈り上げのラインがちょっとおじさんっぽくて、ずっと気になってたんだよね」
褒められた雪乃は、嬉しそうに満面の笑みを咲かせた。
「次は髪を洗いますから、服を脱いでお風呂場へ移動してくださいねー」
「はい、美容師のお姉さん」
なんとなく美容室ごっこのような空気になってきたが、素直に付き合うことにした。洗い場に腰掛け、シャンプーをつけてもらう。
「痒いところはありませんかー?」
「先生、耳の後ろをもう少し強めにお願いします」
「アハハハッ! 先生とかウケるんだけど!」
和気あいあいと冗談を言い合いながら、シャンプーを流してもらう。
「じゃあ、お体も洗いますねー」
「はい、先生」
「プッ、もう先生はいいってば!」
雪乃は笑いながらスポンジに泡をたっぷりつけ、僕の身体を丁寧にゴシゴシと洗い始めてくれた。
「……うん、すごく気持ちいいよ」
「ふふ、次は前を洗うね」
雪乃は妖しい笑みを浮かべ、手に泡をすくうと、胸元をなぞるように滑らせてきた。
少しくすぐったいが、胸や乳首の周りを泡越しに撫でられると、素手で触れられるよりも皮ふが敏感に反応してしまう。
「あ……なんか、大きくなってきてる、どうしてかな?」
雪乃に下から覗き込むような上目遣いでからかわれると、流石に照れくさい。
そして雪乃はシャワーのお湯で股間の泡を優しく流しながら、耳元で囁いた。
「ここのマッサージも……してあげるね」
そう言うや否や、彼女は屈み込み、硬くなりかけた僕の肉棒をパクリと口内に咥え込んできた。
温かい口の中で、舌をグチュグチュと粘り強く絡めてくる。
何とも言えない快感が突き抜け、下半身へと急速に血液が集まっていくのが分かった。
肉棒が完全に限界まで膨らみ切ると、雪乃は、チュポンッと音を立てて口から弾き出し、顔を傾けて竿の筋を舐め上げる。
「どーお? 気持ちいい……?」
「……すごく気持ちいいよ。雪乃、フェラチオがすごく上手になったね」
「えへへ、そうでしょ? ちゃんとマサキさんの気持ちいいとこも覚えてるんだよ」
雪乃は竿を手で握り締め、上下にしごき上げながら、亀頭の先端を再び口に含んで妖しく舌先で突いてくる。
「っ……ヤバい、出そうだ……っ!」
「んぐっ……いいよぉ……全部飲むから……っ!」
女性器に挿入するよりも強くダイレクトで強烈な刺激に、耐えきれず、彼女の口内へ射精した。
「んっ……ふぁ……いっぱいれたね……」
雪乃は喉を鳴らし、口いっぱいに広がった精液をコクンと愛おしそうに飲み干した。
(……この子は、そっち(夜)の仕事に行っても大成するんじゃないか……)
そんな不謹慎な感想が頭をよぎる。
「……マサキさんって、怪我の治りがめっちゃ速いよね?」
雪乃は自分の身体の泡をシャワーで流しながら、ふと僕の傷口を見つめて呟いた。
自分でもそう思っていた。切り傷の血もすぐに止まるし、ゾンビに食い千切られた腕の傷も、瘡蓋のしたの肉が盛り上がって固くなってきている。痛みも全くない。
「大人になってから大怪我なんてしたことなかったから気づかなかったけど……傷の治りが速い体質なのかな」
話しながら雪乃は僕の股に手を滑らせていた。
「こっちの回復も早いから、マサキさん大好き」
そう言って、雪乃は自分の服を脱ぎ捨てて全裸になった。
風呂上がり、リビングへ戻ると、冬子の部屋から何やら妙な絶叫が聞こえてきた。
『ふぉーっ!! 動いた! 勝つる……! これがあれば勝つるぞ……!!』
不審に思って部屋を覗いてみると、ケースのサイドパネルを開け放ったPCの前で、冬子が狂ったような勢いでキーボードを叩き叩いていた。
「あ……っ! マサキさん! お恥ずかしいところをお見せして申し訳ありません……! 実は……ムヒッ、私は『叡智』を手に入れてしまったのです……!」
「……どういうことかい? 分かるように説明してほしいんだけど」
冬子は頭の回転が速すぎる故に、会話のキャッチボールで2、3歩先の答えを一人で完結させて喋る癖があり、時に理解が追いつかないことがある。
「実はですね、私の愛機に前家主が所有していたハイエンドGPU──いわゆる超高性能なグラフィックボードですが、それを増設したのです! 正確には既存のボードと合わせて2枚差しです。私は筋金入りのオタク故にデータ収集癖がありまして、ネットが生きていた頃に使い道もないまま巨大なAIモデルを大量にローカルへダウンロードして保存していたのですが……それが功を奏しました! ついに32BクラスのLLM(大規模言語モデル)を、このローカル環境単体で稼働させることに成功したのです!」
「32B?LLM……? それは一体何なんだい?」
冬子の興奮気味な説明によると、ローカルLLMとは外部のインターネットやサーバーを介さず、自宅のパソコン内部のパーツだけでAIを直接動かすシステムのことらしい。そのためには膨大なVRAMが必要となる。
そしてAIの「賢さ」や「知識量」はパラメータ数(B=Billion/十億)で決まり、個人用PCで動作させられる最高峰の賢さを持つのが、この32Bという規模のモデルなのだという。
「……つまり、話題の高度なAIを、ネットが断絶したこの状況でもパソコン単体で使えるということかい?」
「そうなのです!! これがどれほど恐ろしいことかお分かりですか!? 崩壊前の世界なら、知りたい情報はネットで検索できました。ですが今はネットも検索エンジンも全滅しています。しかし……この32BのAI内部には、崩壊前に人類が蓄積したあらゆる分野の『知恵と知識』が凝縮されているのです! これは、この荒廃した世界を生き抜くための究極のチートツールに他なりません!!」
僕も以前、スマホでAIを使ったことはあった。確かに凄まじい技術だとは思ったが、生活に絶対必要か?と言われると疑問だった。
だが、冬子の言う通り、一切の情報検索が不可能なこの終末世界において──世界中の医療、機械修理、生存術、科学知識を網羅したAIが手元にあるというのは、とてつもないアドバンテージになるのかもしれない。




