子猫
「僕の部屋に少し荷物を置いておきたいから、車で待っていてほしい」
「壁を登るのですか?」
「壁に取り付けてある排水管を登るんだけどね」
高級ミニバンでの車中泊を経て、目覚めると既に昼を回っていた。
コンビニから持ち出した食料で簡単に腹を満たした後、昨夜トイレの窓から放り投げておいた食品や飲料水を二人で回収し、車の後部に手際よく詰め込んだ。雪乃の実家はここから車で10分ほどの距離らしい。ひとまず様子を見るため、今日は彼女を自宅まで送り届けることにした。
「……ねえ、井上さん。昨日のあのメモ、書いたの井上さんじゃありませんよね?」
雪乃が助手席から、ふと探るような視線を向けてきた。
「鋭い観察力だ。よく分かったね」
「そりゃあそうですよ。……わたし、お店にいるとき、ずっと井上さんのことを見ていましたから」
「それは嬉しいな。それじゃ、少し行ってくるね」
「あっ、ちょっと……もう!」
まだあどけなさが残る子供だと思っていたが、やはり本質は一人の「女」なのだ。
彼女の追及を笑顔で誤魔化し、僕は素早く車から降りた。慣れた手つきで排水管を伝い、3階のベランダへと静かに降り立つ。サッシを開けて部屋に足を踏み入れた瞬間、背後から不意に声をかけられた。
「おかえりなさい、井上さん」
「彩香さん……!? どうして僕の部屋に?」
「あなたが下の駐車場で、女の子と荷物を車に詰めているところからずっと見ていましたのよ」
「なるほど、それで出迎えてくれたんだね。……約束通り、頼まれて特定していた物を持ってきたよ」
「ありがとう。立ち話もなんですし、中へ入ってくださいな」
彩香の部屋に招かれると、香ばしいコーヒーの香りが鼻腔をくすぐった。
「いい香りだね。コーヒーなんて、随分と久しぶりに感じるよ」
「ふふ、お疲れ様です。……それにしても井上さん、随分と艶っぽい匂いがしますわね? やっぱり、あのお転婆なバイトちゃんを抱いたのですね」
「彩香さんに隠し事はできないな」
「うふふ、あら……こんな物まで律儀に持ってきてくださって」
隣に腰掛け、僕がリュックから物資を取り出していると、彩香の細い指先がコンドームの箱を捉えた。彼女はそれをトントンとテーブルに置くと、吸い込まれそうなほど妖艶な微笑みを浮かべた。
「――ねえ、1箱で足りるのかしら?」
挑発的な言葉に応じるように、僕は彼女の引き締まった腰を引き寄せ、唇を重ねた。彩香は僕の首に滑らかな腕を絡め、熟練した手つきで舌を深く絡ませてくる。背中を撫で回していた手をさらに下へと滑らせ、大人の女性ならではの肉感的で柔らかい尻の感触を堪能した。
「ねえ、井上さん。ここで1つ、使っていかれます?」
「……今日はやめておくよ。下で彼女が待っているからね」
「それは残念だわ。……それなら、コンビニで何が起こったのか、せめてお話だけでも聞かせていただける?」
「いいよ」
僕はコーヒーを口に含みながら、コンビニに戻ってから起きた出来事、店長と佐藤の醜い本性、そして雪乃を連れ出すに至った経緯を要点を絞って話した。
「あらあら、やはりそうなりましたか。私も以前から、あの店長さんには厭らしい視線を向けられていましたの。そういう下劣な方だとは思っていました」
「君のことを、見つけたら連れてきてほしいと言っていたよ」
「私のことは?」
「もちろん、生きていることも含めて完全に隠匿してあるさ」
「ありがとうございます。嬉しいわ……。そうね、その『子猫ちゃん』には、私の存在を教えていただいても構いませんわよ。私も一度、その子とお話をしてみたいと思っていますの」
子猫ちゃん。雪乃の性質をこれ以上なく的確に捉えた表現に、思わず感心してしまう。可愛らしくて無邪気だが、決して無条件に従順なわけではない。
――プップー!
突然、階下から鋭いクラクションの音が響き渡った。
「なっ……雪乃の奴、何をやってるんだ!」
慌ててベランダから下を覗き込むと、ミニバンの運転席で雪乃がハンドルを叩いていた。その音に反応し、マンションの玄関付近を徘徊していた化け物たちが、一斉に車の方へと動き始めている。
「あらあら……本当に困った子猫ちゃんね」
「ごめん、放っておけないからもう行くよ」
「お待ちになって、井上さん。私が予想する『この世界の今後の推移』をレポートにまとめておきましたの。後で必ず目を通して」
彩香はそう言って厚みのある封筒を僕のポケットに差し込むと、小さなアトマイザーを取り出し、僕の首元に向けてシュッと香水を吹きかけた。
「女性に対して、隠し事はしないで。堂々とお話をしてくださいな。……私の言った通りにすれば、彼女は必ずあなたに従いますから」
「……分かりました。それじゃ、彩香さんもくれぐれも気をつけて」
「ええ、いつでも戻ってきてくださいね。私には、あなたしかいないのですから」
急いで排水管を伝って地上へと下りる。幸い、まだ化け物たちに完全に囲まれてはいなかった。運転席のドアを強引に開けて乗り込み、ギアをドライブに入れて激しくアクセルを踏み込む。ミニバンはタイヤを鳴らしながら、ゾンビの群れを振り切って街路樹の並ぶ道路へと急発進した。
「雪乃! どうしてクラクションなんか鳴らしたんだ! 化け物は音に引き寄せられるって分かっていただろう!」
「だって……! 井上さん、やっぱりあの上の階の女の人と会ってたんですよね!? なによその香水の匂い……プンプンさせて! 嘘を吐いてもダメですからね!」
「だからって、命を危険に晒すような真似をするな!」
「荷物を見たら、コンドームが1箱減ってるし……! まさか、あの人とそれを使ってた、なんて言わないですよね!?」
キキィーッ!
遮蔽物のない、見通しの良い幹線道路に出たところで、僕は荒々しく車を停車させた。周囲に人影も、走行している他の車両もない。
「――彼女が妊娠したら困るから、置いてきただけだ」
僕は彼女の目を真っ直ぐに見つめて言い放った。
「なっ……誰の子供を妊娠させる、つもりなんですか……っ?」
「僕の子供に決まっているだろう」
「ぐっ……な、何ですかそれ……。隠そうともしないんですね? 開き直りですか!?」
雪乃は怒りで頬を膨らませ、涙目のまま僕を睨みつけてきた。その必死な威嚇は、まさに彩香の言う通り、牙を剥いた子猫そのものだった。
「……何を笑っているのですか!」
「いや、雪乃は可愛いなと思ってさ」
「えっ……えへへ、って、もう! 誤魔化されないでください!」
「後ろに行こうか、雪乃。急に君が欲しくなった」
「もう……いい、ですけど……。後で、ちゃんと説明してくださいね」
不満げに口を尖らせながらも、彼女は素直に後部のベッドスペースへと移動した。僕がその身体を組み伏せるようにして唇を奪うと、彼女はすぐに目を閉じ、当然のように熱い舌を絡ませて縋りついてきた。
「はぁ……はぁ、んっ……。キスって、こんなに気持ちいいんですね……」
「雪乃。君は店の中で、あの店長や佐藤に無理やり酷いことをさせられたよね?」
「うっ……! はい……思い出したくもないです……」
「その嫌な記憶を僕の快楽で完全に上書きして、忘れさせてあげるよ。……僕のを、咥えてみないか?」
「いいですよ……。あなたのに触れるのは、全然嫌じゃないです。むしろ、自分から舐めてみたいって……キャー! わたし、何言ってるんだろ……っ」
「本当に可愛いな。それじゃ、お願いするよ」
僕は下衣を脱ぎ去り、車の内張りに背を預けて足を伸ばした。雪乃は恥ずかしそうに身をすくめながらも、まだ勃起していない肉棒を小さな両手で包み込み、じっくりと観察を始めた。
「ちっちゃいときは、こんなに可愛いんですね……」
彼女は躊躇うことなく顔を近づけ、その先端を優しく口内に含んだ。生暖かい粘膜の温もりと、少しザラついた舌の感触がダイレクトに伝わり、強烈な快感が立ち上る。何よりも、純真な女子高生を自分の意のままに従わせているという「征服感」が、僕の理性を狂わせていく。
「んむ……ちゅ、ぷ。……すご、大きくなってきました。井上さんのは、やっぱりすごく大きいです……っ」
「……誰かと比べているのかい?」
「比べてないです……っ!」
「ふーん……そうだ、少し待って」
動きを止めさせると、彼女は不思議そうに小首を傾げて僕を見上げた。しかし、僕が岡田さんの遺品から見つけた大人の玩具――小型のリモコン式バイブを差し出すと、彼女の顔は瞬時に真っ赤に染まった。
「これを、自分で使いながら咥えるんだ。興味があるって言っていたよね?」
「えっ……じ、自分で、しながらですか……?」
「そうだよ。自分でオマンコを刺激しながら、僕のものを咥えるんだ。……早くしなさい」
「……はいっ」
少し冷徹に、強めの口調で命令を下すと、潤んだ瞳で見つめたまま、小さく頷いた。
思いのほか従順に、僕の支配に身を委ねようとする彼女の姿に、ゾクゾクとするような暗い興奮が全身を駆け巡る。
「あれ……? この丸いの、スイッチが……。うわっ! 動いたっ!」
「それはリモコン式なんだ。出力を弱にしておくから、まずは自分のクリトリスを優しくなぞってみてごらん」
「はい……っ。う、あ……あんっ、ヤバい、これ……っ」
「ほら、自分だけで楽しんでいないで、早く咥えなさい」
「ふぁい……っ」
初めての玩具の刺激に翻弄されているのか、あるいは元々が極端に敏感な体質なのか。彼女はすぐに声を漏らしてしまい、まともに吸い付くことができずに激しく喘いでいた。
「雪乃は感じすぎてしまうようだな。……僕が君の頭を動かしてあげるから、君はバイブの刺激だけに集中してなさい」
意味が分からずパチパチと瞬きをする彼女の髪を右手で力強く鷲掴みにした。そして、彼女の頭をペニスに沿って、ゆっくりと、しかし容赦なく上下に動かし始める。
苦しいのか、彼女は反射的に頭を離そうと抵抗したが、僕は左手で彼女の後頭部をガッチリと固定し、逃げることを許さなかった。
「バイブで、自分のそこを強く刺激し続けろ」
冷酷に命令を下し、彼女の口内をまるで肉の玩具であるかのように扱い、自らの快楽だけを追求していく。
雪乃は喉の奥を突かれ、涙目を浮かべてえずきそうになりながらも、バイブを自らの秘所に押し当て、必死に僕の欲望を受け止めようと目を閉じて耐えていた。
(最高に気持ちがいい……この少女を完全に支配している……!)
彼女の限界など気にも留めず、僕はひたすら腰を突き上げた。肉壁の収縮と口内の熱が、僕の昂ぶりを限界へと押し上げる。
「ああ、いいよ、雪乃……すごく気持ちいい……っ。もうイく、口の中に全部出すからね……っ!」
彼女の喉の最奥まで一気に突き刺し、僕は堰を切ったように大量の精液を彼女の口内へと吐き出した。
「うぐぅっ……げほっ、ゴホゴホ……っ、はぁ、はぁ……っ! 息が、息が出来なくて……頭が真っ白になっちゃいました……はぁ、はぁ……っ」
あまりにも強引で、容赦のない蹂躙だった。怒り出すかとも思ったが、雪乃は荒い呼吸を繰り返しながらも、僕が与えた全てを受け入れてくれたようだった。
「でも……、井上さん。わたしも、今ので、何度も……っ」
雪乃は恥ずかしさに耐えかねたように、僕の胸元へと甘えるように顔を押し当ててきた。机の下で太ももをモジモジさせていたあの時のように、彼女の身体は僕の強引な支配と玩具の刺激によって、完全に快楽の頂点へ導かれていたのだ。僕は彼女の呼吸が落ち着くまで、その柔らかな髪や背中を優しく撫で続けた。
「……雪乃。僕は、この変わってしまった世界で、何としても生き残るつもりだ。そのためには、絶対に裏切らない、心から信頼できる仲間が必要になる」
「……わたしも、井上さんと一緒に生き残りたいです」
「けれど、この混沌とした世界で、言葉だけの信頼なんて簡単には見つからない。だからこそ、男と女は……セックスという最も深い行為で、強く、強固に繋がる必要があるんだ。だから僕は、自分が信頼すると決めた人間と、身体を重ねる」
「それって……全部、井上さんが中心の、井上さんの都合のいい考え、ですよね?」
雪乃が胸に顔を埋めたまま、小さく、しかし核心を突くように呟いた。
「確かにその通りだ。僕の自己中心的で、身勝手な考えなのは間違いない。だけど、僕はもう綺麗事を捨てて、その道を進むと決めたんだ。マンションにいる黒木彩香さんも、その計画に協力して僕に付いてきてくれると約束してくれた」
「あぁ……あの上の階の女の人って、黒木さんだったんですね。……すごく綺麗な人だから、わたし、震災の前からちょっと憧れていました……」
「僕は雪乃を命懸けで守ると約束した。だから……君にも、僕のこの歪なサバイバルに付いてきてほしい」
「わたしは……」
雪乃が言葉を詰まらせる。僕はあえて、彼女に逃げ道を与えない残酷な選択肢を突きつけた。
「もし無理だと言うなら、このまま君を自宅に送り届けた後、僕は君の前から永遠に姿を消すよ」
「そんなの……嫌です! 離れるなんて絶対に嫌……っ! わたしも、どこまでも付いていきます……っ。井上さんが他のお姉さんとエッチするのは……本当はすごく嫌だけど、でも、一緒に生き残るためなら、わたし我慢します……っ!」
こんな極限状態の中で、大人が未成年の少女を脅すような真似をするのは、お世辞にもフェアとは言えない。しかし、僕はこの愛らしく、自分を盲信してくれる少女を他人に渡したくなかった。だから、あえて狡猾で強引な手段を使って彼女を縛り付けたのだ。
綺麗事だけでは命を落とすこの新しい世界で、僕は僕の楽園を築くために、一歩ずつ狂気の足を踏み出していく――。
※少し過激な性描写や表現もありますから、ミッドナイトノベルに移行中です




