排水管(第2章始まり)
ここから第2章とします
大きなテーマとしてはゾンビ病原体の謎の解明ですが、引き続き壊れてしまった世界で主人公の井上マサキが色々な苦難にあらがう姿を、リアリティのある物語として書いていきたいと思っています。
目が覚めてリビングへ向かうと、冬子が朝食の準備を進めていた。
そしてその傍らには、ちょこまかと可愛らしく立ち働くもう一人の姿があった。
「咲愛、おはよう」
「おはよう井上さん。よく眠れた?」
「うん、まあね。ちゃんと眠れたよ」
昨夜は冬子や雪乃と遅くまでしていたため、ベッドに入ったのは明け方だった。数時間の仮眠程度だったが、思考は驚くほどクリアだった。
「咲愛は、自分の部屋で寝たんだろ?」
「うん。千鶴と一緒に寝たよ」
幼い子供二人だけで502号室に寝かせるのは少し不安もあった。だが話を聞くと、亡くなった母親の広瀬さんは以前から外泊が多く、幼い姉妹だけで夜を明かすことは日常茶飯事だったという。外部から502号室へ侵入される可能性も低いと判断し、咲愛の好きにさせていたのだ。
(……たしかに、可能性は低いがゼロじゃない)
僕はこれまで、このマンションの排水管や外壁を伝って何度も上階へ登った経験がある。一定以上の筋力と胆力がある男なら、外壁のパイプを梯子代わりにして登ることは十分に可能だ。
雪乃はまだ夢の中だったため、朝食は冬子、咲愛、千鶴、僕の四人で食べた。
食事の最中、僕が抱いている防犯上の懸念を口にすると、冬子がスープの匙を置いて頷いた。
「それでしたら、ベランダ側の排水管を物理的に取り外してしまうのが宜しいかと思います。あのパイプの構造を見る限り、一定の長さの管をジョイントで連結して壁に固定しています。ジョイント部分のボルトを外せば、一番下から数メートル分を根こそぎ取り外すことができるはずです」
食事を終え、ベランダに出て確認してみると、確かにパイプのジョイント部が頑丈なボルトで壁面に固定されていた。
問題は、あの太いボルトを回すための工具だ。どこかで見た気がして記憶を辿る。
(そうだ……店長がコンビニの備品入れに保管していたはずだ)
コンビニの陳列棚の組み替えや修理の際、店長が工具セットを出していたのを思い出した。
「私も作業をお手伝いします」
冬子が申し出てくれたので、二人で作業に向かうことにした。彼女は非力だが、僕が脚立に乗って作業する際、下から工具を受け渡してもらうだけでも大いに助かる。
久しぶりに、1階のコンビニへと足を踏み入れた。
崩壊の初期、僕が暴走したジープを突っ込ませて入り口を破ったため、ガラスの破片と焼き焦げた匂いが今も生々しく残っている。
「……誰か、入ってきたようだな」
「えっ……そうなのですか?」
「ああ。前に来た時より、店内が荒らされている」
以前、奈緒と一緒に保存食や日常品を運び出したが、まだかなりの飲料や缶詰が残っていたはずだった。だが棚を見ると、食べられそうな食品類はほとんど根こそぎ持ち去られていた。
知らぬ間に、誰かがこのマンションに侵入し、物資を漁っていた──背筋に冷たいものが走るのを感じた。
奥の清掃用具用ロッカーを開けると、狙い通り金属製の工具箱が見つかった。中から大きめのモンキーレンチとハンマーを取り出し、外の排水管へと向かう。
脚立を立て、ジョイント部のボルトにモンキーレンチを噛ませる。ハンマーでカンカンと軽く叩くと、固着していたボルトが容易に緩んだ。合計6本のボルトを外し、下からパイプを力任せに引っ張ると、ジョイントごとボルト受けが外れた。
同様の作業をもう一箇所行うことで、2階の床付近までの排水管を完全に撤去することができた。
「よし……これで簡単には登れないはずだ」
「ええ。梯子でも持参しない限り、ここから壁を登るのは不可能でしょうね」
脚立を下りながら話しかけると、冬子は外されたパイプと壁面をじっと見つめ、何かを思案していた。
「何か気になることでも?」
「はい。登らせないという本来の目標はこれで達成できているのですが……ひとつの懸念と、それに伴う提案があります」
冬子は指で壁面を示した。
「まず、見た目が非常に不自然です。配管が不自然に途切れているのを見れば、注意深い人間なら『上に生き残りがいて、侵入を防ぐために意図的に外した』と容易に察するでしょう」
「確かに……外した痕跡がくっきりと残っているね」
マンションの吹き付け塗装が配管の後にされた為か、パイプを取り外した部分だけ露骨に壁の色が違っていた。これでは、ここに人がいますとアピールしているようなものだ。
「そこで提案なのですが……ボルトだけを外した状態で、パイプを元の位置に組み直して復旧させるのはいかがでしょうか?」
「ボルトを抜いた状態で固定する……? どういうことだい?」
「見た目は通常通り配管されているように見えますが、ボルトがないため全体がグラグラと不安定な状態になります。つまり──」
「──罠、トラップになるわけか」
「はい。もし夜間に誰かがここを足場にして登ろうと体重をかければ、パイプごと崩落して落下します。侵入を阻止できるだけでなく、音で侵入者の存在をいち早く察知し、痕跡を確認することができます」
「なるほど……流石だな、冬子」
僕は感心しながら、言われた通りボルトを抜き去った状態でパイプを軽くはめ込み、外見上は元通りに見えるよう偽装を施した。
これで、見た目の違和感を消しつつ、トラップを仕掛けることができた。
だが、1階のコンビニを荒らした何者かが存在する事に不安が残っていた。
※少し過激な性描写や表現もありますから、ミッドナイトノベルに移行中です
過激な内容の閑話もあります。ラブシーンに少しづつ挿絵もいれてます。




