顛末
あの男たちは、僕が意識を失っている何時間もの間、良子をただの肉人形に変えるための凄惨な陵辱を続けたのだろう。
僕が手に入れ、僕のものにしたはずの彼女を、あんな下劣な男たちが性の虜にするなんて――絶対に、許せない。
どす黒い怒りが限界を超えて脳内に炸裂した瞬間、僕の身体は思考よりも先に動いていた。
――パンッ!
一発目は外れ、弾丸が寝室の壁を派手に削る。男たちが驚愕してこちらを振り向くよりも早く、僕は良子にペニスを咥えさせていた男へ全速力で突進し、その至近距離から引き金を引いた。
――パンッ!
「お前、どうやって――っ」
男は言葉を最後まで紡ぐこともできず、頭部を撃ち抜かれてシーツの上に倒れ伏した。
――パンッ!
悲鳴を上げようとした、良子が跨がっていたもう一人の大柄な男の胸元にも、すかさず至近距離から弾丸を叩き込む。男は短い絶叫と共に動かなくなった。
時間にしたら一瞬の出来事だった。
良子は意識が朦朧としているせいか、僕が殺した男に跨ったまま腰を動かしたままだった。
「良子! 大丈夫か!?」
僕はすぐにベッドに駆け寄り、彼女の身体を抱きしめて男の死体から剥がした。そしてその手足を縛る縄をナイフで素早く切り裂いた。
「えっ……マサキ、さん……? いや、イヤアアアアッ! 見ないで! 嫌、こんな姿、あなたに見られたくないの……っ!」
自由になった良子は、真っ赤に腫れ上がった顔を覆い、激しく身を震わせて泣き叫んだ。僕は何も言わず、衣服の乱れた彼女の身体を強く抱きしめた。
「わたし……ちゃんと抵抗したのよ!? なのに、何度も殴られて、首を絞められて……本当に殺されると思って、それで、頭と身体が、おかしくなっちゃって……っ」
「いいんだ、良子。君も女だから、生き残るためには仕方がなかったんだ。責めてなんていない」
彼女を宥めるように背中を擦った。しかし良子は、僕と目を合わせようとはせず、床に転がる男たちの凄惨な死体を虚ろな瞳で見つめていた。
「殺してしまったのね……」
「ああ、当然だ。あいつらは全員、一人残らず殺す」
「そうよね……ごめんなさい。私が、甘かったわ。私のせいで、こんなことに……」
良子はポロポロと涙を流しながら、ようやく自分の過ちを認めた。平時の道徳に囚われていた彼女も、この地獄を経て、ようやくこの世界のルールが変わったのを理解したようだった。
「僕は今から、連れ去られた彩香と奈緒を助けに行く。……リビングの死体は、あいつらの仲間割れか?」
「ええ……ちょっと待ってください。私も、少し頭を整理するから……」
まだ完全にショックから立ち直れていない良子を、死体の転がる寝室から引き離すため、彼女の肩を支えてリビングへと連れていった。
リビングのソファに良子を座らせると、廊下から様子を窺っていた咲愛が、トコトコと駆け寄ってきた。
「はい、先生。お水だよ」
「あっ……ありがとう、咲愛ちゃん。そうか、咲愛ちゃんがマサキさんを助けてくれたのね……」
「うん、そうだよ。……でも、ごめんね。先生のことは、助けられなかった」
咲愛が申し訳なさそうに小さな頭を下げる。
「そんなことないわ……恥ずかしい。咲愛ちゃんが、一番冷静だったのね」
良子は自嘲気味に微笑んだ。思い返せば、朝一番に「あのおじちゃんは信用しちゃダメ」と見抜いていたのは咲愛だったし、その後の隠密行動も完璧だった。
「咲愛、お前には何度も助けられているな。本当にありがとう」
僕が頭を撫でると、咲愛は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「だって、あたし、井上さんのことが好きだから。死んでほしくないもん」
「ふふ、咲愛ちゃんには、本当に敵わないわね……」
酷い仕打ちを受け、精神的に崩壊寸前だった良子だったが、咲愛の無邪気な言葉に少しだけ救われたようで、その顔に微かな笑顔が戻っていた。
「良子。僕が気絶してからのことを、詳しく教えてくれるかい? 敵の状況を知りたいんだ」
「ええ……。あなたが気絶する直前、彩香さんが、あの両と呼ばれていた男の要求を受け入れたのは覚えているわね?」
「ああ、覚えている。あれを見て、冷静でいられなくなって暴れたから……それで殴られたんだと思う」
「そうよ。あの両という男は、彩香さんのことを異常に気に入ってしまったらしくて……突然、彼女と結婚すると言い始めたのよ」
「結婚……!? この狂った世界で、一体何を考えているんだ」
男たちのあまりにも意味不明で身勝手な思考に、僕は唖然とした。
「当然、彩香さんは激しく拒絶したわ。すると両は仲間に命じて、あなたの首を――あっ、マサキさん、首から血が出ているわよ? 後でちゃんと治療しないと……」
良子に言われて首筋に触れると、指先にねっとりとした血が着いた。ヒリヒリと痛むとは思っていたが、あの時、見せしめとして刃物で薄く斬られていたらしい。
「構わない、続けてくれ。あいつら、僕を殺そうとしたのか?」
「ええ。あなたを今すぐここで殺すと言い出して……。彩香さんはあなたを助けるために、その場で結婚するという約束を交わしたの」
「馬鹿な……! そんな不条理な結婚、認められるわけがないだろ!」
拳をきつく握りしめる僕に、良子は苦しげに頷いた。
「そうよね、そんなこと絶対に許されない。……でも、話はそれだけで終わらなかったの。連中の中に『元三』と呼ばれていた男がいて、両が彩香さんを連れていくなら、自分は奈緒さんを貰うと言い出したのよ」
「奈緒までもか……っ!」
「その元三という男は、過去の事故のせいで男性機能が不能になっていて、通常の性行為ができないらしいの。だからその歪んだ欲求を、女性に対する凄惨な暴力として解放しているらしくて……これまでにも、何人も女性が犠牲になって壊されてきたそうなのよ」
「……それで、あのリビングの死体か」
「ええ。奈緒さんがあんな男に渡されたら確実に殺されてしまうから、それなら先に自分に回せ、と抗議した別の男がいて……。それを聞いた元三が激昂して、その男をスコップで殴り殺したのよ。完全な仲間割れね」
「なるほどな……。しかし、よくそんな危険な男を連れて歩いていたな」
「あなたが外で最初に殺した、ヤッさんという大男がいたでしょう? 元三はその人の実の弟だったみたいなの。だから、ヤッさんが生きている間は、その男の言うことだけは聞いて大人しくしていたみたいだけど……」
あの大男の弟が、狂気の暴力を孕んだまま、奈緒を連れ去った。このまま放置すれば、奈緒の命はない。
「分かった。まずは何よりも奈緒を優先して助け出す。あいつらの村を急襲するぞ」
「ええ、それがいいわ。……マサキさん、やっぱり、全員殺すのよね?」
良子の瞳に、かつての躊躇いはなかった。
「それしか方法はないだろう。……ただ、この拳銃一丁と数発の弾丸だけでは、敵の残党を全員相手にするには少し心もとないな」
「井上さん、他にも銃はあるよ?」
それまで静かに話を聞いていた咲愛が、服の袖を引っ張りながら身を乗り出してきた。
「井上さんの寝ていた部屋に、隠してあるの知ってるよ」
「何だって……!?」
僕は驚き、咲愛に案内されるまま、先ほどまで男たちの死体が転がっていた寝室へと急いで戻った。




