要塞
高速を降りると温泉地への大きな看板があった。
ナビに従い車を進めると温泉街へと向かう公道から折れ山道に入った、その鬱蒼とした山道を少し進むと目的の建物が姿を現した。周囲を3メートル近くはありそうな頑丈なグレーのコンクリート塀に囲まれており、別荘というよりはどこか無骨な要塞を思わせる佇まいだった。
咲愛の話では、いつもは車内のリモコンひとつでガレージのシャッターが開くそうだが、すでに広域で電気が止まっているせいか、ボタンを押しても反応はなかった。
仕方なく別荘の前にフォードを止め、周囲を警戒しながら外に出る。高速道路のインターチェンジを下りてしばらくは点々とゾンビの姿を見かけたが、この山道に入ってからはまったく遭遇していない。
だが、ゾンビが山林の中を彷徨っている可能性を考えると、見通しの悪い急カーブなどでバッタリ出くわす危険もある。決して油断は禁物だ。
玄関の重厚な防犯ドアに、咲愛がコンソールボックスから見つけてくれた鍵を差し込むと、小気味よい金属音と共に解錠された。
ゾンビ化し僕が処理したであろう工藤という男の事を思い浮かべる。広域暴力団の組長という、常に誰かから命を狙われる立場にいた男だ。危機管理には人一倍気を配っていたはずだし、最悪の事態にこの別荘へ立て籠もることも想定していたに違いない。ならば、絶対に準備してあるはずだ――自家発電の設備を。
確信を持って広大な庭を探索していると、敷地の隅にそれらしき防音仕様の小屋を見つけた。重い鉄扉を開けると、予想通り大型のガソリン式発動発電機が鎮座していた。さらに壁面のブレーカーをよく見ると、屋根に設置されているらしいソーラーパネルの系統も並んでいる。太陽光からも電力を得られるハイブリッド仕様のようだ。
配電盤の仕組みを確かめながら、主電源となるスイッチをすべて「ON」に切り替えた。
「マサキさん! 屋根に太陽光パネルがあるみたいだけど、制御装置は見つかった?」
母屋の勝手口から彩香が顔を出して声をかけてきた。
「ああ、太陽光とガソリンの発電装置が両方あったよ。今スイッチを入れたから、もうガレージのシャッターも動くはずだ」
手元のリモコンのボタンを押すと、今度はガシャガシャと音を立てて、重厚なシャッターがゆっくりとせり上がっていった。
フォードを安全なガレージへと滑り込ませて背後のシャッターを完全に閉じると、ここに来たことがある咲愛の先導で、僕たちは別荘の内部へと足を踏み入れた。
「こっちが台所で、奥と2階にたくさんお部屋があるんだよ! あとね、お風呂は中と外の両方にあるの」
咲愛が小さな手を引いて案内してくれる。
「良いところね、マサキさん。万が一ここで完全に包囲されたら逃げ道がないのが難点だけれど、外からの視線は完全に遮れるわ」
彩香が品評するようにリビングを見回した。
「ああ。ここなら追手の目を欺いて、数日間英気を養うには申し分ない環境だよ」
「すごーい……! こんなに豪華な別荘、あたし映画の中でしか見たことないです!」
奈緒が贅沢な調度品に目を丸くして歓声を上げる。
「本当に、実用性と防犯性が極めて高く考えられた設計だわ。一体どこの設計士に頼めばこんな家が建つのかしら……」
良子も医師としての冷静な視点から、その堅牢な造りに感心していた。
「とにかく、朝から何も食べていなくてお腹がペコペコだ。まずは何か食べようか」
僕たちは広々とした高級感溢れるリビングに集まり、スーパーで手に入れてきたカップ麺にお湯を注いだ。大理石のローテーブルを囲み、全員で一斉に麺を啜る。この高級感漂う空間で安価なカップ麺を食べているという状況は、どこか酷くシュールで、自然と笑みがこぼれてしまう。
「こうして温かいご飯を食べられるだけでも、今の世界では恵まれているのは百も承知ですが……やっぱり、お野菜も少し摂らないと身体に良くないですね」
良子がカップのスープを飲み干しながら、少し心配そうに呟いた。
「そうよね。炭水化物ばかりだと美容にも悪いし、体調管理のためにも何とか改善したいわね」と彩香も同意する。
「僕はもっと重いものが食べたいな。肉とかチーズとか、高タンパクでエネルギーになるやつをさ」
「あたしも! お肉とかコッテリしたものが恋しいです!」
奈緒が元気に手を挙げる。
「んーとね、さっき来た道をもう少し真っ直ぐいったところに道の駅があったよ。お野菜とか、くんせい?のお肉とかもいっぱい売ってた気がする」
咲愛がちょこんと座りながら、貴重な記憶を披露してくれた。
「おお、咲愛! 本当に最高の情報だ、ありがとう。後で見に行ってみよう」
「そうね、後で奈緒さんと一緒に物資の確認がてら見てきてもらいましょう。……それよりもマサキさん。外の露天風呂、いつでも入れるようにお湯を整えておいたわ。まずは長旅の疲れを癒して、身体を温めてきてくださらない?」
彩香が艶っぽい視線を送ってくる。
「さすが彩香、本当に気が利くな。お言葉に甘えて入らせてもらうよ」
「私がお背中をお流ししますわ。奈緒ちゃんと白崎さんは、咲愛ちゃんに部屋の場所を聞きながら、車から荷物を運んでおいてくださる?」
「はーい!」
「えっ……ご、ご一緒に入るのですか……?」
「当然ですわ、マサキさんはお疲れですから、少しでもくつろいでいただかないと」
良子が顔を赤くして一瞬絶句したが、彩香の毅然とした態度に圧され、こくりと唾を飲み込んだ。
「……分かりました。井上さん、お風呂から上がられたらすぐに私に教えてくださいね。お身体のキズを診ますから」
こうして、僕は彩香と共に外の露天風呂へと向かった。
個人所有のものとしては破格の広さで、一度に5、6人は余裕で入れそうな立派な岩風呂だった。注ぎ口からは惜しげもなく天然の温泉が滔々と流れ込んでおり、脇にある水道水で好みの温度に調整できる仕組みになっている。
「はあぁ……最高に気持ちいいな……」
湯船に浸かり、思わず深い吐息が漏れる。
「ええ、本当に……。私も、とっても気持ちいいですわ、マサキさん」
彩香が湯に浸かり、白い肌をほんのりと桜色に染めて微笑んだ。
「相変わらず、君の身体はどこから見ても美しいね、彩香」
「もう、マサキさんったら……。真っ昼間からこんな開放的な場所で、そんな風にじっと見つめられると、さすがに恥ずかしくなってしまいますわ」
彼女はそう言って、豊かな胸元を隠すように腕を組んだ。
「いつ見ても、何度愛し合っても、君は綺麗だよ。……彩香、そこの岩に手をついてくれないか? 後ろから君を抱きたいんだ」
「……はい。私の全てを、どうぞマサキさんの思うままに扱ってください」
彩香は拒むどころか、潤んだ瞳で僕を見つめ、ゆっくりと湯船から上がって指定した滑らかな岩肌に両手をついた。
溢れる太陽の光を浴びて、後ろから見下ろす彩香の裸体は、息を呑むほどに完璧だった。華奢な背中からキュッと細く縊れた腰のライン。そして、惜しげもなく突き出された豊満なヒップと、スラリと伸びた白い脚。
後ろからその柔らかな肉尻を掴み、左右に優しく拡げると、秘部がすでに愛液で濡れそぼり、陽光を反射してキラキラと光っているのが見えた。僕はもう我慢の限界だった。自身の熱く昂ぶった肉棒をあてがい、腰を押し進めて一気に最奥まで挿し込んだ。
「あんっ……!、ひあ……っ! 一気にそんな奥まで突かれると、気が遠くなってしまいそうだわ……っ」
「ごめん……。君の身体があまりにも綺麗だから、これ以上我慢ができなかったんだ」
「いいの……っ、そんな風に私を激しく求めてくれて、本当に嬉しい……。もっと奥まで突いて……、あなたの思う通りに、乱暴にして……っ!」
彼女の言葉に導かれるように、腰の動きを速めた。彩香の膣内は、奥へ行けば行くほど吸い付くように狭くなり、肉の壁が僕のペニスを締め付ける。とりわけ子宮口の周辺は少し硬く、彼女はそこを深く突かれるのが何よりも弱い。ピンポイントで抉るように腰を回すと、彩香はすぐに小さな身体をビクビクと震わせ、絶頂の波に呑まれていった。
「はぁ、はぁ……っ、奥をそんな風に弄られたら……、あっ、ごめんなさい、マサキさん、もう……私、イってしまいます……、あああっ!」
「いいよ、僕ももう限界だ……、一緒にいこう、彩香……っ、あああッ!」
強烈な快感に視界が白く染まり、きつく目を閉じる。彩香の膣内の最も深い場所へと、僕の熱い精液が何度も何度も勢いよく吐き出されていくのを、確かな手応えと共に感じていた。
行為を終え、少し息を整えてから、再び二人で並んで湯船に浸かった。お湯の表面には、先ほど放出した僕の白い精液が名残惜しそうに浮かび、温泉の流れに乗ってゆっくりと排湯口へと流れていく。
心地よい疲労感に包まれながらぼんやりと温泉を堪能していると、隣にいる彩香が鼻をスンスンと鳴らしていることに気がついた。横を向くと、彼女の美しい目から大粒の涙が頬を伝って流れ落ちていた。
「彩香……? どうしたんだい、どこか痛むの?」
「……ごめんなさい。ただ、あまりにも幸せで……」
彩香は愛おしそうに僕の腕にしがみついてきた。
「昨日は、あなたが憩いの里に突入してから、車の中で本当に長い間待っていたんですわ。時間が経てば経つほど、マサキさんの生存率が下がっていくのが分かって……。もう二度と、あなたにこうして触れることも叶わないかもしれないって、本気で絶望しかけていたの……。それが、今こうして贅沢な露天風呂で、あなたに激しく愛していただけるなんて……。私、本当に幸せ者ですわ」
「僕が今こうして生きていられるのは、全部君のお陰だよ。奴らが施設を襲撃することをいち早く予見して、すぐに車を回して待機してくれていたからこそ、僕たちは助かったんだ」
「ふふ、その予想に関しては、マンションに残ってきた冬子さんの助言も大きかったんですのよ?」
彩香が涙を拭い、思い出したようにクスリと笑った。
「どういうことだい?」
「冬子さん、あなたを助けるためなら、驚くほど過激な作戦を大真面目に提案していたんですから」
「どんな作戦だったの?」
「トリプルXがたむろしている百貨店に、ガソリンを山積みにした大型トラックで強制突入して、建物ごと大爆発させて壊滅させるとか……」
「……そんなことをしたら、そのトラックを運転している人間が確実に死んでしまうじゃないか」
「ええ、まさにその通りですわ。でも彼女は運転は私がやるから止めないで!って全く聞かなくて……。私と雪乃ちゃんで、それはもう必死になって彼女を取り押さえて止めたんですから」
「あはは、冬子は本当に相変わらず過激だな……」
呆れつつも、彼女の僕を想う一途な狂気が無性に愛おしかった。早くマンションへ戻って、冬子や雪乃の顔が見たいな、と心から思った。




